第2話 ちんちんがないのに
ちんちんがないのに、男の制服を着た。
ちんちんがないのに、青色の上履きを履いた。
僕は、ちんちんがない男になったのだ。
「蒼井、ちんちん消えたってガチ?」
「……うん」
昼休みに登校してきた僕を野次ったのは、友だちの田所だった。
田所の口の周りはちょっとだけ青っぽい。
骨格もがっしりしてて、僕より何倍も男らしい奴だ。
あと、ちんちんがデカイらしい。
「LINEきたときマジでびびったわ」
「僕の方がびびったよ。
今も、心臓が口から飛び出そうで」
「ちんちんの方が先に飛び出したってか」
「うるさいな」
ため息を吐いて胸に手を当てる。
こうして軽口を叩いていても、
心臓はまだ、嫌な音を立て続けていた。
「病気?」
「いや、医者も分からないらしい」
「どっかの小説かよ」
「小説よりヤバいだろ。
どこにちんちんが消える小説があるんだよ」
ちんちん、を連呼したせいでクラスの女子が鋭い視線を僕に送った。
女子ってほんと下ネタ嫌いだよな、と田所が肩をすくめる。
大っぴらに賛同するのも気が引けて、僕は苦笑いで返した。
「なぁ、放課後でいいから見せてくんね」
「嫌に決まってんだろ」
ちぇーっと拗ねる田所。
こんな性格でも女子にモテてるんだから、すごいなと思う。
もう、足が速ければモテるってわけにもいかない年頃なのにさ。
ふと、教室の隅から強い視線を感じた。
思わず振り返る。
すると、委員長と目が合った。
丸いメガネの奥で、茶色の瞳がかすかに揺れる。
繰り返すが、女子は下ネタが嫌いだ。
……もしかして僕、委員長にも嫌われちゃった?
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