第17話 涙
窓から、柔らかな夕日が差し込んでくる。
ふと、田所の目元が光を反射した気がした。
「わりぃ」
田所らしくない、か細く震える声。
「我慢できなかった」
「……なにを?」
一度も見たことがない彼の弱い姿に、ついたじろいでしまう。
田所がなにを言おうとしてるのか、聞きたい。
でも、同じくらい聞きたくないと思った。
固唾を飲む。
逃げることも、遮ることもできない。
僕はただ、田所が涙を拭うのを待つしかなかった。
「俺、お前のことが好きなんだよ」
……は?
思考が止まる。
今、なんて言った?
田所が……僕のことを……?
「……僕は、男だよ」
「ああ」
「田所も、男だ」
「……分かってる」
「しかも、僕はちんちんも無くなった」
「それは……どっちでもいい」
「よくないだろ。
だって、男が好き――なんだろ?」
僕の言葉に、田所は静かに首を振る。
そして、心底困ったように、愛おしい者を見るような目で言った。
「女でも男でもいい。
俺は、お前が好きなんだよ」
田所の瞳には、輪郭がぼやけるくらい涙が溜まっている。
だけど、真っ直ぐ僕を捉えて離さない。
彼は、正面から僕に想いを伝えてくれたのだ。
じゃあ、僕は?
僕は……なんて答えたらいいんだろう。
手を握っては緩めてを繰り返す。
かけるべき言葉は、たくさんあるはずだった。
でも、上手く出てこない。
奥田さんも、こんな気持ちだったのかもしれない。
涙を拭い終えた田所が、ニカッと歯を見せる。
「わりぃ、忘れてくれ」
片手を挙げると、田所は廊下を駆けて行った。
遠ざかっていく背中に、思わず手を伸ばす。
僕は、誰もいない廊下にぽつりと取り残されてしまった。
ずき、と。
魚の骨が刺さったみたいに、胸が痛む。
最後に見た田所の苦しそうな笑顔が、忘れられない。
なぜだか分からないけど、
田所には――あんな風に、笑ってほしくなかった。
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