#46 一心不乱
達海は春明からGHの本部の所在地を教えてもらい、その場所を訪ねた。GH本部にはあくまで話し合いをしに行くだけで殴り込むような真似はするなと、春明からは強く釘を刺された。本部は山の中腹辺りにあり、舗装されている道を歩いて出向いたが、車を運転することができない達海にとって訪れるのは少し大変であった。建物の周りはフェンスで囲まれており、表向きは発電施設となっているようだった。建物の中に入ったものの大輝との面会は許されず、達海は受付のような場所に居た警備員に追い返されてしまった。彼に次会えるのはいつになるだろうか。達海はやるせない気持ちを胸に、来た道を引き返した。
十二月に入り、気温は零度を下回ることが多くなっていた。
「大輝さん! また幽霊を狩って来たんですか。今月もまだ頭なのにもう六件目ですよ。体は大丈夫なんですか!」
GH本部では、霊魂を持ち帰って来た大輝に心配の声を美波がかけていた。
「うるせー北山美波。これでもまだ足りないくらいだ。」
「……全くもう。体調崩しても知りませんからね!」
美波はスタスタと歩いて行く大輝の背中を見送った。
「あの時からすっかり変わっちまったな」
美波の後ろから剛が声をかけてきた。
「ええ、体を壊さないといいのですが……」
大輝はカメラの幽霊を狩ってきた日から人が変わってしまったようだった。今までは幽霊を狩る事にそこまで積極的では無かったのだが、今では自ら進んで出動するまでになっている。顔色も悪く、頬は少しこけてしまっていた。
「圭、少し相手しろ」
大輝は事務室に居た圭に声をかけた。
「お、如月さん。やる気満々っすね」
大輝は圭を連れてエレベーターに乗り込むと建物の中心にある広いホールにやって来た。この場所は地下一階にあり、この三階建ての建物のどの階からも見下ろすことができる吹き抜けとなっている。この場所が建物内で最も広い場所のため局員が戦いの訓練にもしばしば使用するのだ。
「本気で来い」
大輝が刀の神器を顕現させる。それを見た圭も槍の神器を顕現させた。
「いいんすか? 本気で。勢い余って怪我させちゃうかもしれないっすよ」
「いいんだよ。そうじゃなきゃ意味がねぇ」
二人の訓練は殆どが大輝の一方的な攻めであった。大輝の荒く素早い刀捌きを圭が槍で受け止める。最後は圭の脇腹に大輝が峰打ちをして訓練は中断された。
大輝と圭がホールの端で水分補給をしているとエレベーターの扉が開き、髪の長い美しい女性が降りてきた。
「訓練の様子、一階から覗かせてもらっちゃった。二人とも頑張ってるね」
そう声をかけてきた女性を目にした大輝は少し体を強張らせた。
「あっ、斉藤さん! 見られてたんすね。お恥ずかしい」
そう言いながらヘラっと頭を掻く圭に向かって、美玲は優しく微笑みかける。
「そんなに恥ずかしがることはないわ。あれだけの猛攻を何度も防いでいたんだもの」
「斉藤さん!! やっぱり天使っす〜」
「大輝くんも凄かったよ。なかなか刀捌きが様になってきたんじゃない?」
「……そうだな」
大輝は美玲に向かって目も合わせずに答えた。
「私はなかなか棍棒の神器使いこなせないのよね」
「ああ、棍棒って力のいる武器っぽいっすもんね」
「そうなの。除霊するのにコツがいるのよね。でもなかなか楽しい武器よ」
「さすが斉藤さん」
圭の褒め言葉に美玲が軽く笑顔を見せる。
「それじゃあ、大輝くんにはもうしばらく刀の神器を預けてようかな。それともそろそろ棍棒返そうか?」
「…………いや、まだ刀を使わせてくれ」
大輝は美玲から目を逸らしたまま歯を食いしばらせた。そんな様子を見た美玲は大輝の近くに行き耳打ちをした。
「辛かったら言ってね。また慰めてあげるから、大ちゃん」
その瞬間、大輝は顔を引きつらせ目を見開らく。
「その呼び方で—— 」
大きな声をあげた大輝は途中で言うのをやめた。圭と美玲が驚いた表情を大輝に向ける。大輝は深呼吸をして自分を落ち着かせた。
「いや、なんでもねー。さっさと訓練を再開すっぞ」
「りょ……了解っす」
「ごめん、邪魔しちゃったね。今度、棍棒の使い方また教えてよ。それじゃあね二人とも」
美玲はそう言うとエレベーターに乗り込んで去っていった。
「斉藤さんとなんかあったんすか?」
圭が不思議そうに大輝に尋ねた。
「……いや、なんもねーよ。それよりも、さっさと始めるぞ」
大輝が水の入ったペットボトルをホールの端に投げ置くと二人は訓練を再開した。
翌日、剛が事務室でパソコンと睨めっこをしていると電話の呼び出し音が鳴り響いた。
「……はい。……はい。……承知しました。すぐに向かいます。では。」
そう言って電話を切った剛はコンピューターをシャットダウンさせると立ち上がり、暖かそうなシャツの上に白いトレンチコートを羽織った。
「霊狩りの命令ですか?」
近くで作業をしていた大輝が剛に声をかける。
「ああ、怪奇現象を見たという通報があったそうだ。ここから、まあまあ近いみたいだからちょっと行ってくるわ」
「だったら俺が行きます」
大輝は瞳孔が開ききった目を真っ直ぐに剛に向けながら言った。
「おいおい、目がガンぎまってるぞ。お前さんは少し休んでおけ」
「いや、じっとしてるとなんか体がそわそわしちまってだめなんですよ。行かせてください」
「あー……わかった。無理だけはすんなよ。カモクちゃん、大輝がやばいと思ったらすぐに連れ帰ってこいよ」
「…………」
剛が大輝の隣にいるカモクに声をかけると彼女は何も言わずにこくりと首を縦に振った。
「よし、行くぞ。カモク」
二人は白いトレンチコートを羽織ると事務室から出ていった。
「全く、やる気があるのは良いんだがな」
剛はトレンチコートを脱ぐと再びパソコンの画面に目を向けた。
大輝とカモクのコンビは剛や美波の心配をよそに、これからも次々に幽霊を狩り続けて功績を上げていくこととなる。数ヶ月後、とある大学での怪奇現象の報告を受け、そこに出向くまでは——




