#28 奇妙な依頼者
達海と大輝はファミリーレストランを退店した。空はすでに真っ暗になっており、まばらに星々が輝いている。
「お前、幽霊がはっきりと見えてるんだろ。廃屋で会った日も、顔はよく見えなかったが髪の長い幽霊と一緒だったよな?」
大輝は達海と初めて出会った時のことを思い起こした。達海の隣には彼と親しそうな幽霊の少女が確かに居た。死装束のような格好をした幽霊の少女が。
「ああ、見えてるよ。はっきりと」
「そうか……GHは幽霊が見える奴らを集めてる。どうやってそういう奴を探し出してるのかはわからねーが、お前のところにも誘いが来るかもしれねー。もし、誘いが来たら、断らないほうがいいと思うぞ。なんせ、断った奴ら全員が不幸な目に遭ってるって噂があるからな」
「……わかったよ。誘いが来ても絶対GHなんて入らないけどな。でも、今日お前と話して少し驚いたよ。GHってもっと『ヒャッハー』って感じの奴らかと思ってた。案外、話のわかる奴だったんだな」
「どんなイメージだよ。まあ、そういう奴も居なくはないが。俺はこれからも幽霊は狩り続ける。それが俺の仕事だからな。だけど、フォトは……桃子だけは絶対に守るよ」
大輝は達海に向かってニッと笑う。
「それじゃあ、次会うときは敵同士かもしれないな」
達海は真っ直ぐに大輝を見つめて言った。
「そうだな。邪魔をするようなら手加減はしねーからな」
それから、大輝が「それじゃあな」とだけいうと歩き出した。達海は、その姿が見えなくなるまで、彼の背中を見続けていた。
翌日、達海は大学の講義を何度も寝むりそうになりながら受けていた。講義が終了すると隣に座っていた、駒城悠真が声をかけてくる。
「達海が眠そうにしてるの珍しいな」
「……昨日はちょっと寝不足だったんだよ」
昨日、達海は帰宅後なかなか寝付くことが出来なかった。大輝に舐められてしまわないように必死に凄んで話してはいたが、内心ではとてもビビっていたのだ。帰ってからも緊張感が解けることはなく深夜三時頃までは眠れなかった。
フォトが幽霊になって十一年ってことは、大輝は全然俺よりも年上だよな。大の大人に、しかも警察組織の人にタメ口で話してしまった。大丈夫だろうか。でも、案外いい奴そうではあったんだよな。いや、そもそもあいつが言っていたことを全て真に受けて良いのか?
達海の頭の中で昨日のことがグルグルと駆け巡る。
「達海、大丈夫か? 次も確か同じ講義だったよな。一緒に行くべ」
「ああ、大丈夫だよ。行こうか」
達海は悠真に促されるまま、共に次の講義を受けるために移動を始めた。
「この動画知ってる? ワカサギマッチョくんのコモドドラゴンと早食い競争してみた」
「何そのクソつまらなそうな動画」
「えー、じゃあこれは? 警察にタメ口で喧嘩ふっかけてみた」
「……昨日の俺じゃん」
「おま、何やってんだよ(笑)」
悠真はお調子者でとても明るい性格だった。達海とは後期から講義が被ることが多くなったため、気がつくと大学で行動を共にするようになっていたのだ。
「しかし、達海って話してみたら意外と面白い奴だったよな」
「……面白くないよ?」
「いやいや、おもろいよ」
二人は次の講義室へと入っていった。達海たちは席に座り、講義を受ける。
ああ、また眠くなってきたな。
達海の視界は再び、ぼんやりとしてきた。
この講師、話がクドクドしててつまらないんだよな。あれ? 背後になんかいる。ああ、レイがふざけて遊んでるのか。何をやってるんだか…………
達海の眠気は限界に。講師の背後に居るはずのないレイの幻覚を見て、自然に笑みが溢れてしまう。しかし、やはりおかしいと意識は冴えていき、そして、それは幻覚ではない事をようやく理解した。
「レイ!!?」
老講師の背後で何やら悪戯をしているレイを見て、達海は驚きのあまり立ち上がった。講義室は静まり返り、達海へと注目が集まる。レイは達海に手を振ってみせた。
「どうしたのかね、きみ」
「おい、達海。とっくに講義の初めの挨拶は終わってるぞ。寝ぼけてるのか」
怪訝な様子の講師、そして少しだけ困惑した悠真がひっそりと達海に声をかける。
「いっ、いえ、……なんでもないです」
そう言うと達海は静かに着席した。
大学からの帰り道、達海の隣にはレイが居た。彼女は楽しそうにチープな鼻歌を奏でながら歩いている。
「あのな、危ないからいきなり大学に来るなよ。もし、あの場に霊感の強い人が居たらどうするつもりだったんだ」
「えー、暇だったからさー。達海のところに行けばなんか面白いことあるかなーと思って」
「春明さんには言って来たのか?」
「……黙って来たけど」
「怒られるぞ」
「黙ってれば大丈夫だよ。それよりも、早く帰ってトレーニングするよ」
「わかったよ」
達海は楽しそうにしているレイに、やれやれというような表情で返答した。
達海とレイはカフェ陰陽へと帰ってきた。達海がカフェ陰陽のスライドドアを開くと入り口のすぐそばにはアクタ、お嬢、フォト、マッチョ、そして二十代くらいの男の幽霊が立っていた。
「レイと達海か、おかえり。今、ちょっとお客さんが来ていてね」
アクタがレイと達海に声をかけた。
「何か依頼が来たのか?」
教材の入ったショルダーバックをカウンターに置きながら達海がアクタに聞く。
「そうなんだけど、それがちょっと厄介でね。丁度、春明も出かけているし……」
すると、男の幽霊が話し始めた。
「こんにちは。僕は、佐野徹。生前に僕の彼女を殺してしまってね。親族に謝罪をしたいことがあるんだ。できればなるべく早く成仏したい」
達海は驚いた。殺してしまった相手の親族への謝罪。もし、未練がそれを許してもらうことなのだとしたら、無謀ではないだろうか。達海はアクタたちの方へ目を向けると、みんな困ったような表情をしていた。
「とりあえず、ここの家主が戻るまでもう少し待っていて頂けるかしら。戻るまでそう時間はかからないと思いますわ」
「ええ、わかりました」
佐野は穏やかな口調で答えた。




