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聖剣と思ったら魔剣だった  作者: 明太パスタ


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9/15

勇者の陥落と、肉体の乗っ取り

賢者の館を飛び出したカインを追い、ライルたちは王都郊外の荒野まで駆け抜けていた。


「カイン様! 止まってください! お願いです、僕たちの声を聞いてください!」


ライルが叫ぶ。

夕闇が迫る荒野の中央で、カインは静かに足を止めた。ゆっくりと振り返るその顔――右頬から首元にかけて、黒い紋様が皮膚を覆い尽くさんとしていた。


「ライル……ミリア……セイル……」


カインの口から出たのは、微かな、掠れた声だった。

その瞳に一瞬だけ、かつての素朴で優しい村人カインの光が戻っていた。


「逃げ……て……。僕の頭の中で……誰かが……暴れているんだ……。僕を……僕を殺してくれ……っ!」


「カイン様……! そんなことできるわけないじゃないですか! 一緒におうちへ、村へ帰りましょう!」

ミリアが涙を流しながら手を伸ばす。


しかし――その救いの手すら、届くことはなかった。


「あガっ……!? ガハッ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


突然、カインが己の頭を抱え、絶叫した。

右手の魔剣から爆発的な紫黒の魔力が吹き出し、カインの全容を包み込んでいく。黒い紋様が首を駆け上がり、顔の半分、そして左目までをも一気に飲み込んでいった。


『――クックック……ハハハハハハハハハ!――』


カインの口から出たのは、もはやカイン自身の声ではなかった。

天地を揺るがすような、太く禍々しい『魔王』の笑い声。


メリメリと音を立てて、カインの頭部から漆黒の角が生え伸びる。背中からは巨大な黒い魔力の翼が広がり、右手に固着していた魔剣は、カインの腕そのものと完全に一体化を果たした。


「カイン……様……?」

ライルは膝から崩れ落ちた。


光が収まったそこに立っていたのは、もう『村人カイン』でも『勘違いの勇者』でもなかった。

漆黒のオーラを纏い、両目を冷酷な紫色の獣眸へと変えた――完全なる【新魔王カイン】の姿だった。


「……永い眠りであった」


魔王カインが、低く重々しい声で呟く。

その言葉には、村人だった男の記憶も、仲間たちと旅をした思い出も、欠片ほども残されていなかった。カインの意識は肉体の底深くへと沈められ、完璧に魔剣(魔王の核)によって乗っ取られたのだ。


「カイン様ぁぁぁぁぁっ!!」

ライルが剣を抜き、涙を流しながら死に物狂いで突進した。


「失せよ、羽虫」


魔王カインが、面倒そうに左手を一振りする。

それだけで凄まじい衝撃波が放たれ、ライルは大剣ごと吹き飛ばされ、地面を何度も転がって鮮血を吐いた。


「ライル!!」

セイルとミリアが悲鳴を上げて駆け寄る。


「フン……人間どもよ、怯えるがよい。我はこの世界を再び我が手中へと収める」


魔王カインは圧倒的な魔力を解放しながら、ゆっくりと天空へと浮上していった。

地上に残されたライルたちは、力なく横たわりながら、新魔王として覚醒してしまったかつての仲間を、ただ絶望の眼差しで見上げるしか出来なかった。

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