真実の暴露と、破滅への扉
かつての美しい面影を完全に失ったカインたちの一行は、大国の都から遣わされた使者に導かれ、賢者の館へと足を踏み入れていた。
「よくぞ……よくぞ来た、ライル殿、ミリア殿、セイル殿……そして、カイン……」
重々しい遮音結界が張られた最奥の書斎。
出迎えた賢者の顔は、驚くほど痩せこけ、焦燥と絶望に満ちていた。
「賢者様! 頼みます、カイン様をお救いください!」
賢者の前に躍り出たのは、剣士のライルだった。
「カイン様の腕が……様子が変なんです! 戦うたびに敵を徹底的に破壊し、その姿はまるで……!」
「……知っている」
賢者は深いため息を吐き、机の上に古びた一冊の魔道書を広げた。
「知っていたのだ……。カイン、お前があの祠で触れてしまった剣……『魔剣』の真の恐ろしさをな」
「賢者様、どういうことですか?」
魔導士のセイルが、震える声で尋ねる。
「あの剣は……単に魔王の力が込められた武器などではない」
賢者は目を血走らせ、カインを見つめた。
「かつて世界を滅ぼしかけた『古の魔王』が、自らの肉体を滅ぼされる間際、己の魂と魔力の全てを注ぎ込んで創り出した【魔王の核】そのものなのだよ!」
「「「な……っ!?」」」
ライル、ミリア、セイルの3人が息をのむ。
「魔剣は、自らを身につけるにふさわしい肉体(器)を探していたのだ。そしてカインの素朴で純粋な強い生命力に反応し、手を固定した……。剣を振るうたびに宿主の精神を奪い、記憶を消し去り、肉体を魔王のものへと作り変えていく……!」
「そんな……! じゃあ、カイン様が勇者として戦っていたのは……!」
ミリアが涙を溢れさせる。
「勇者などではない! カインは……カインの意識は、すでに魔剣に乗っ取られかけておるのだ! 首元まで黒い紋様が達した時、カインという人間は完全に消滅し――新たな『魔王』がこの世界に降臨する!!」
室内に、痛烈な静寂が落ちた。
ライルたちは絶望に打ちひしがれ、涙を流しながらカインの顔を見つめた。
そこにいるカインは――
「……ふふ」
カインは、静かに笑っていた。
賢者が告げた恐ろしい真実に対しても、動じる様子すら見せない。右腕から首元までびっしりと張り巡らされた黒い紋様が、妖しく蠢いている。
「何を悲しんでいるんだい、みんな?」
カインの声は、もはや人間のものではなかった。低く、地底から響くような二重の残響を伴っている。
「魔王だろうと、勇者だろうと……関係ないじゃないか。僕にはこの強い力がある。僕を邪魔する者、世界を脅かす者を……僕が全て滅ぼしてあげるよ」
「カイン様……! 正気に戻ってください! 僕たちです、ライルです!」
ライルが肩を掴もうと駆け寄る。
だが――
バチィッ!!
「ぐあぁっ!?」
カインの身体から溢れ出た黒い魔力が衝撃波となって弾け飛び、ライルを壁まで吹き飛ばした。
「近寄らないでくれ、ライル」
カインの右瞳は完全に縦に裂けた獣の瞳となり、冷たい殺気を放っていた。
「僕の身体に気やすく触れるな。……さあ、次の『掃除』へ行こうか」
カインは賢者の制止する声も聞き入れず、ゆっくりと書斎を後にした。
その背中に残されたのは、救いようのない絶望と、着実に開かれていく破滅への扉だった。




