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聖剣と思ったら魔剣だった  作者: 明太パスタ


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7/15

闇の解放と、仲間たちの戸惑い

「ひ、引き破れぇぇ! あの悪魔を討ち取れぇぇっ!」


山あいの渓谷に、狂気に満ちた叫び声が響き渡っていた。

カインたちの前に立ちふさがったのは、古代の禁術によって呼び覚まされた数百頭におよぶ狂暴な魔獣の軍勢と、それを率いる闇の術師たちだった。


「カイン様! 敵の数が多すぎます! 一度体勢を整えて――」


剣士のライルが叫びかけた、その時だった。


「……下がっていなさい」


カインの声は、静かだった。

叫ぶでもなく、慌てるでもない。まるで、庭の落ち葉を片付けるかのような、冷ややかで平坦な声。


カインが前へ踏み出す。

右手に握られた魔剣から、禍々しい紫黒の霧が溢れ出し、周囲の草木が一瞬で枯れ果てていく。カインの右腕を覆う黒い紋様は、すでに首元にまで達しようとしていた。


「ハハッ! 死ね、勇者気取りの若造が――」


術師が杖を掲げた瞬間、カインの姿がその場から消えた。


――ドガァァァン!!


「ガ……ッ!?」


次の瞬間には、術師の胸の中央に、カインの右腕――魔剣が深々と突き立てられていた。

カインは一切の感情を排した無表情のまま、刃を横一文字に薙ぎ払う。肉が裂け、血が吹き出す光景にも、その三白眼の瞳はピクリとも動かない。


「ヒッ……!? ひ、ひぃぃぃっ!」


恐怖に狂った魔獣たちが一斉に飛びかかってくる。

だが、カインは剣を振るうごとに、容赦のない「黒い衝撃波」を全方位へと放ち続けた。


ズズズズズッ! 轟音と共に地表がめくれ上がり、魔獣たちは叫びを上げる間もなく肉塊へと変えられていく。

ただ敵を倒すのではない。立ち上がる余地すら与えない徹底的な破壊、蹂躙、そして殺戮。


「……な、なんだあの戦い方は……」


後方で見守っていたライルは、剣を握る手がガタガタと震えるのを抑えられなかった。

そこにいるのは、自分たちが憧れ、命を救ってくれた「謙虚で優しい勇者様」ではなかった。ただ眼前にある生命を機械的に踏み潰す、最悪の『破壊者』の姿だった。


「ミリア……セイル……」

ライルが振り返ると、修道女のミリアは青ざめた顔で口元を覆い、魔導士のセイルはガタガタと全身を震わせながらカインの背中を見つめていた。


「あの剣から出ている波動……聖なる光なんかじゃないわ……」

セイルが途切れ途切れの声で呟く。

「あれは……むかし読んだ古文書に載っていた……魔王の『呪いの波動』そのものよ……!」


「そんな……じゃあ、カイン様は……!」

ミリアが涙を浮かべる。


戦闘は、わずか数分で終わった。

かつて街道を埋め尽くしていた魔獣の軍勢は一匹残らず消滅し、周囲には削り取られた荒野だけが残されていた。


カインがゆっくりと振り返る。

その右瞳は、もはや人間のものではない、縦に裂けた不気味な獣の瞳孔へと変貌していた。


「みんな、怪我はないかい?」


カインはいつものような言葉を口にした。

だが、その口元に浮かんだ歪な笑みと、生気の失われた瞳を見た瞬間、ライルたちは思わず半歩、後ずさってしまった。


「あ、カイン様……その、お疲れ様です……」


ライルは必死に笑顔を作ろうとしたが、顔がひきつって上手く笑えなかった。

カインは仲間の戸惑いに気づく様子もなく、不気味に蠢く右手の魔剣を愛おしそうに撫でるのだった。

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