【番外編】もしもあの日、普通の剣を選んでいたら
――これは、あり得たかもしれない「もう一つの物語」。
あの日、村の外れにある古い祠。
ホコリまみれの台座の前で、少年カインは腕を組んでうなること30分。
「うーん……やっぱり、こんな得体の知れない大層な剣、僕には分不相応だよな」
カインは祠に刺さっていた禍々しくも美しい剣――『魔剣』からそっと手を引き、代わりに納屋から持ってきた「見慣れた鉄のなまくら農具ナイフ」を腰に差した。
「よし! 祠のお掃除も終わったし、薪割りでもしよう!」
そう。カインはあの日、魔剣に触れなかったのだ。
* * *
数年後。
「助けてくれぇぇぇ!!」
村の近くの森で、怪我をした剣士のライル、修道女のミリア、魔導士のセイルが、一匹の凶暴なゴブリンに追われていた。
「くっ……僕が……僕が食い止める! 2人は逃げろ!」
ライルが必死に剣を構えるが、足を痛めていてまともに動けない。
絶体絶命のその時――!
「たあぁぁぁぁっ!!」
ヌッと茂みから飛び出した一人の青年が、手にした農具のクワを豪快に振り下ろした。
ガコンッ!!
「ギャ!?!?」
ゴブリンの脳天に見事打ち込まれたクワ。ゴブリンは目を白黒させながら森の奥へと逃げ出していった。
「ふぅ、危ないところだった……。大丈夫ですか、皆さん!?」
汗を拭きながら爽やかに微笑んだのは、素朴な作業着に身を包んだ青年――カインだった。
「す、すごい……! クワ一発であのゴブリンを撃退するなんて!」
ライルが目を輝かせる。
「いいえ、たまたま運が良かっただけですよ! 僕はただの村人ですから!」
カインはいつものように恐縮しながら手を振る。
「そんな謙虚な……! これほどの腕前、まさに隠れた『伝説の勇者』に違いありません! お願いです、僕たちの旅に同行してください!」
「えぇぇぇ!?? いやいやいや、だから僕はただ薪割りと農作業が得意なだけの村人で――」
「さあ行きましょう、カイン様!」
「美味しそうなお肉の料理、ご馳走しますね!」
「話を聞いてくださぁぁぁい!?」
叫び虚しく、カインはノリノリのライルたちに両腕を引っ張られ、そのまま強引に旅へと連れ出されていくのだった。
魔剣の呪いも、世界滅亡の危機もない。
ただただ「強い村人」と「彼を勇者と信じて疑わない仲間たち」の、賑やかでおかしな旅が始まる――。




