風の吹く場所で
カインが光となって消え去り、世界に平和が戻ってから、二年の月日が流れていた。
かつて魔王城が降臨し、壊滅的な被害を受けた王都は、人々の力強い手によって見事な復興を遂げていた。街の広場には大きな銅像が建てられ、そこには『世界を救いし大勇者カイン』の名が刻まれている。
「……相変わらず、大人気だね、カイン様」
人混みから少し離れた路地裏で、ライルは苦笑いを浮かべながら銅像を見上げた。
背中には、あの日折れた大剣を鍛え直した一振りの剣。隣には、少し大人びた雰囲気を纏う修道女のミリアと、魔導士のセイルが並んでいる。
「みんな、本当のカイン様がどんな人だったかも知らずに『勇者様、勇者様』って……。カイン様が聞いたら、きっと『僕はただの村人ですよー!』って頭を抱えるでしょうね」
セイルが懐かしそうに微笑む。
「ええ……。でも、カイン様が私たちを守ってくださったことは、紛れもない事実です。街の人たちが感謝している姿を見たら、きっと照れくさそうに笑ってくださるはずですよ」
ミリアが優しく微笑み、胸の前でそっと祈りを捧げた。
3人は王都を後にし、ゆっくりとした足取りで街道を歩き出した。
向かう先は――カインが生まれ育ち、そしてあの運命の『祠』が存在する、小さな辺境の村だ。
* * *
のどかな風が吹き抜ける、村の外れの小山。
再建された祠の周りは、草一つ落ちておらず、綺麗に掃き清められていた。
「あれ……? 誰かが掃除してくれたのかな?」
ライルが不思議そうに首を傾げた、その時だった。
「あ、ライルさんたち! いらっしゃい!」
祠の裏手から、竹箒を手にした一人の少年が顔を出した。
かつてカインが幼かった頃と同じように、村の言いつけを守って祠を掃除していた近所の少年だった。
「やあ。いつもここを綺麗にしてくれてありがとうね」
ライルが屈んで少年の頭を撫でる。
「ううん! だって、ここには世界で一番かっこいい僕たちの先輩が眠ってるんでしょ? 村長さんが言ってたよ。『カイン兄ちゃんは、最後まですごく優しくて頼もしい村人だった』って!」
「そうか……村長さん、そう言っていたか」
ライルは胸の奥が熱くなるのを感じながら、大きく頷いた。
街の人々にとっては「伝説の大勇者」。
けれど、この村の人々とライルたちにとっては「誰よりも優しく、頼もしかった村人カイン」。
どちらが本当の姿かなど、もう関係なかった。カインが遺した温かな想いは、たしかに人々の心の中に生き続けているのだから。
「さあ、カイン様にご報告をしましょう」
ミリアが持参した綺麗な野の花束を祠の前に供え、3人はそっと目を閉じた。
すうっと、心地よい爽やかな風が小山を駆け抜けていく。
竹箒の葉が擦れる音に混ざって、どこか懐かしい、あの少し困ったような青年の声が聞こえた気がした。
『――みんな、お掃除手伝ってくれてありがとう――』
空を見上げると、吸い込まれそうなほど澄み切った青空が、どこまでもどこまでも広がっていた。




