【新章】次元の歪みと、異世界の呼び声
――カインが光となって消え、世界に平穏が戻ってから三年。
あの決戦の舞台となった『魔王城の跡地』は、今や広大な花畑と化していた。
人々の記憶の中で「世界を救った大勇者」として刻まれたカインの功績を称え、静かな慰霊の碑がぽつんと佇んでいる。
その日の夕刻。
空が茜色から深紫へと染まり始める頃、慰霊碑の前で空間が揺らぎ始めた。
ジー……ギジジジジッ……!!
空間を割いて現れたのは、あの日カインの身体から弾け飛び、消滅したはずの『紫黒の瘴気』の残り香――そして、手のひらサイズの小さな【次元の亀裂】だった。
『……クックック……見つけたぞ……』
亀裂の奥底から、かつて世界を震撼させたあの大魔王の掠れた声が漏れ出す。
『我が核は砕かれ、この世界の肉体は失われた……。だが、あの少年の魂の欠片は……時空の狭間を漂い、別の世界へと流れ落ちたのだ……!』
カインが自ら胸を貫き、命と引き換えに魔剣を打ち砕いたあの日。
カインの清らかな魂は昇天したかに思われたが、砕け散った魔剣の超重力に巻き込まれ、精神の核だけが「異次元の扉」の向こう側へと吸い込まれていたのだ。
『待っていろ、カイン……。幾多の次元を渡ろうと、我とお前の因縁は切れぬ。お前が目覚める場所で……我は再び肉体を得る……!』
亀裂が不気味に広がり、周囲の空間ごと歪んでいく。
* * *
――そこは、見渡す限りの金属とネオンの光に包まれた、まったく未知の世界。
高層ビルが立ち並び、空を謎の機械が飛び交う異世界の路地裏で、一人の少年が静かに目を覚ました。
「……ん……ここ……は……?」
身体を起こしたのは、かつて村人であり、勇者であり、魔王となった青年――カインだった。
角も紋様も消え、元の素朴な姿に戻っている。
「僕……生きてるの……? ライルたちは……? ここは一体……?」
困惑しながら自分の右手を見つめるカイン。
そこには魔剣の姿はなかった。しかし、右手の掌の中央に、微かに蠢く【銀色の刻印】が浮かび上がっていた。
「な、なんだろうこれ……? まあいいや、とにかく人がいる場所を探して、ここがどこか聞いてみないと……!」
カインは頭を抱えながらも、持ち前の前向きさで立ち上がった。
知る由もなかった。自分が渡ってしまったこの『異世界』で、再び新たな運命と勘違いの渦に巻き込まれていくことを――。




