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青春のこじらせヤロウを許す義務はない【長編版】  作者: 藍銅 紅@『お姉様はずるい』コミカライズ連載中


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【第四話】【本編終わり】


そのまま魔法で、森の中の一軒家に帰る。


「さてと……」


師匠は髪の毛をぐしゃぐしゃと搔きながら、言った。服のボタンも外すし。

あはは、王子様然とした姿から、いつもの師匠に戻ったみたい。

でも、いつもの姿のほうが、わたしも安心感がある。

王子様っぽい姿は……たまにでいいか。

たまに……たとえば結婚式の時だとか。


うへ? わたし、今、何を思った……?


思わず首を横にぶるぶると振ってしまった。


「この小屋まで、アイツとかリアの両親がたどり着けるとは思えんが。念のためしばらく旅にでも出るか……」

「旅! いいですね!」


慌てて、意識を旅という言葉に向ける。

結婚式とかは……なんの妄想よって感じだし。


「行きたいところ、あるか?」

「えーと……。わたしと師匠が最初に出会った妖精の森とかは……?」

「げーっ! 久しぶりに行くと、妖精たちがまとわりついてきてうるせーぞ?」


そう言えば、最初にわたしが偶然妖精の森に迷い込んだ時もそうだったっけ。


たくさんの妖精さんたちに囲まれたんだった……。


でも、それで師匠と知り合えたし。魔法具も教えてもらえたし。


「たくさんのクッキーとかビスケットとか持って行ったら大丈夫なんじゃないのかなあ」

「あー甘い菓子とか好きだもんなーアイツら。でも悪戯とかされるだろーからなー。あんま行きたくねえ」

「じゃあ……」


考えながら、思い出す。

ずっと前。

師匠に最初に出会ったときのこと。



当時のわたしはタトゥムが嫌で嫌で。理解をしてくれない両親のこともイヤで仕方がなくて。


家を出ることばかりを考えていた。


でも……。できずにいて、かなり鬱屈していた。


親や婚約者に不満があっても、貴族の令嬢が家出もせずに親の言うことに従わざるを得ないのはお金がないから。


持っているドレスやアクセサリーを売るにしても、売り先が分からない。

出入りの商人に売れば、お父様へと報告されて、売ったお金は没収だ。

街の商店に売りに行ったところで足元を見られて買い叩かれるかもしれない。


仮に良心的な商人が、良心的な金額でドレスやアクセサリーを引き取ってくれて、お金に替えられたとしても……、そのお金を持ってどこに逃げるというのか。


修道院に行くとしたって、自分の領地内の修道院では当然すぐに見つかる。


なんとか他国に逃げる? 可能性はないこともないけれど、屋敷と貴族の令息令嬢が通う学園の往復、それとお茶会程にしか外出したことがない令嬢がたった一人で他国に逃げられるはずはない。

途中で騙されたり売られたりする可能性のほうが高い。


うだうだうだうだ悩んで不満で。ある時わたしの心がプツン……と切れたのだ。

もうどうなってもいい。

そのまま、衝動的に家を出た。

それが、わたしの最初の家出。


馬にも乗れない、お金もない。

そんな令嬢が走って逃げたとしても……遠くまで行けるはずがないのに。


なのに、わたしはどうやったのか。分からないんだけど、妖精の森と呼ばれる場所に迷い込んでしまったらしい。


赤い月。

フクロウの鳴く暗い森。

恐々と森の小道を進んでいたわたし。


そこに木の上から声がかけられた。


「お前、誰の許可を得てこの森に入った?」

「え、えっと……」

「ここは妖精の森。人が来る場所ではない。帰れ」


高い木の枝に座っていたぼさぼさ頭の男の人。それが、師匠だった。


帰れと言われても、帰りたくはなくて。

それから暗い森で、心細かったところに人の声がしたからほっとして。


「人間をやめたら、わたし、この森で生きていけますか?」


わたしは、そう聞いたのだ。


「はぁ?」

「貴族の令嬢なんてやめて、平民になって生きて行けたらって思ったけれど。人間をやめて妖精さんになれるのなら、そのほうが素敵」


男の人はまじまじとわたしを見てきた。


「……人間はどうやっても妖精にはなれないが」

「……じゃあ、やっぱり平民になるしかないわね」


わたしがため息を吐くと同時に、ぼさぼさ頭の男の人が木から飛び降りて。

それだけじゃなく、たくさんの妖精たちに、いつの間にかわたしは囲まれていた。


「なんだかおもしろそうな人間がやってきたじゃないのよーう」


クスクス笑うのは、小さくて、ヒマワリの花みたいな黄色い髪の女の妖精。


「ボクたちを見て、怖がらない人間て珍しいねぇ」


わたしの傍まですいーっと飛んできて、じっとわたしを見つめてきたのが、キャベツとかレタス程度の大きさの緑の髪の妖精。


小さな翅を動かして、パタパタと飛ぶたくさんの妖精たち。ぼさぼさ頭の髪の男性以外はみんな小動物くらいの大きさ。


男の人がたった一人だけ……背が高いのは……、もしかして、この人は特別な妖精……妖精王とかなのかしら? 違うかな?


とりあえず、疑問はさておき、わたしはまくしたてるようにしてわたしの事情を話していった。


「ふーん。それで逃げたのかあ」


緑の髪の小さな妖精が言った。


「やられてそのままというのはどうなのかしらーね。仕返しはしないのーお?」

「……仕返し、ですか?」


わたしの問いに、ヒマワリの花みたいな妖精がにっこりと笑った。


「そうよー。人間の世界では『ざまぁ』とかいうのが流行っているんじゃないのーお? あなたも婚約者や親たちに仕返し程度はしてきなさいよーね」


簡単に言うけど……。


「どうやって……?」


「魔法とか、教えてもらえばいいんじゃなあーい? ソイツ、魔法、得意よ? 魔法具も作るしーね」

「おいっ! 勝手を言うなっ!」


ヒマワリみたいな妖精がきゃらきゃらと笑った。


「だって、半分同族でしょー? それにかわいい女の子よー? 面倒見たーら?」

「勝手に……」

「それともその女の子、あたしたち妖精のおもちゃにしていーい?」


ヒマワリの花みたいな妖精がきゃらきゃらと笑う。


「……仕方ねえ。俺のことは師匠と呼べよ」

「師匠……」

「ああ。契約だ。俺と契約をしておけば、他の妖精がお前をおもちゃにはしない」


それから。

契約をしていても、妖精たちがいたずら程度はするだろうからと、師匠は妖精の森を出て、今住んでいる別の森に居を移した。

そことわたしの部屋の鏡を魔法で結び付けて。


「これでいつでも俺の家に来ることができる」

「あ、ありがとうございます! よろしくお願いします師匠!」

「ん……」


基本的な魔法を教えてもらって。

魔法具の作り方も教えてもらって。


師匠は口ではぶつくさ言うけど、ちゃんといろいろ教えてくれた。


すんごくありがたい。


ずっと一緒に居たいなーってわたしは思うんだけど。師匠はどうかな?


じっと、師匠を見る。

王子様然とはしていないけど、まだ無精ひげは生えていないいつもに近い師匠。

……好きかな? うん、好きかも。多分。ううん、きっと、絶対。


「えーっと、じゃあ、旅はともかく。わたしと師匠がずっと一緒に居られる場所を探したいです」

「……念のため聞くが、一緒って、どういう意味だ?」


わたしは息を吸って吐く。

ずっと一緒に居たい。

その気持ちはきっと……。


「師匠、結婚とかしてませんよね?」


話しながら、考える。


「それは人間の風習だろ? 妖精はそんなことしない」

「でも師匠、半分人間ですよね?」


確認しつつ、決意する。


「そーだけど」


そして、言う。


「わたしは駄目ですか? 師匠の奥さん」

「ほげ⁉」


すごい声を出した師匠。


「お、おおおおお俺は、お前よりずっと年上!」

「年齢差はともかく。半分人間ってことは、師匠とわたしの間で子ども産めますよね?」


うんうんと頷くわたし。

いや、言ってて、ちょっとは照れているのよこれでも。


「ほげっ⁉」

「わたしが師匠を置いて先に死んじゃうとしても。子どもがたくさんいたら、師匠、わたしが死んだ後もさみしくないですよね?」

「ほげげ⁉」


わたしはにっこり笑って師匠を見上げる。


「ということで、子だくさんの仲良し家族を目指したいです。どうぞよろしくお願いします」


わたしがペコっと頭を下げたら。

真っ赤な顔で、師匠が言った。


「子どもたくさんの前にっ! リアの寿命を延ばす研究をさせろーー!」

「それって、長い寿命を得たわたしと、ずっと一緒ってこと……」

「そうだよ!」


どうやらわたしのプロポーズは受け入れてもらえたらしい。


わたしは師匠に抱き着いて、満面の笑みで「はい」と答えた。









・・・・・・・・・・・・・・



本編終わり。


7/2 リアの母親視点や師匠視点など追加しました。

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― 新着の感想 ―
おお…なんか謎の男が出てきて顔の良さでまとめていった…「ほげ」がキモくてウケる
タトゥムと両家の親のリアクションが見たいと思った
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