ハーレムエンドは無い
「ていあーん!」
部室にボランティア部全員が集まったタイミングで綾坂が手を挙げた。
「なにかな?」
「ネズミーに星七先輩も呼びません?そしたら偶数になるからアトラクションも回りやすくなりますヨー」
「それは構わないけど、それだったら全員私服で行きましょう」
「ダメッ!制服ネズミーは譲れません!」
「星七先輩だけ私服は可哀想じゃないかなぁ?」
「先輩にも制服着せるんで大丈夫ですよ!まだギリギリイケるんで!」
星七先輩が卒業してから半年も経ってないからギリギリどころか余裕だと思うけど、素直に賛成出来ない醜い想いがある。
だから私は卑怯な反対意見を出した。
「みうは大丈夫?」
「なにがですかぁ?」
「いきなり知らない人と旅行行くの大丈夫?」
「んー?」
みうが答える前に綾坂が割り込んできて、彼女の前に星七先輩のSNSの画面を突き出す。
「え、星七先輩って『天宮星七』のことなんですか!?」
「そうなのだよ!」
「えー!?会いたいです!私めっちゃ参考にしてるんですよぉ!」
「なら呼んでも良いよね?今ならサインも付ける」
「嗅いでも良いですか?」
「アトラクションの待ち時間に嗅ぎ放題!」
「わーい!是非呼んで下さい!」
簡単に買収されたみうは何故か私に抱きついて喜びを表現する。
「じゃあ部屋は私と奈凪センパイで決定!」
「そんなんダメだし!」
抗議する綾坂に対してみうがスマホに付いているイルカのストラップを振って挑発した。
「な、なんでナギっちと同じの付けてんの!?」
「さー?なんででしょーねぇ?」
「むかつく!」
ストラップは水族館で私がTシャツ買った時に、みうが一緒に買ったモノで、帰りにプレゼントしてくれたんだけど、それがお揃いだとはその時は気付いてなかった。
まさかこんな意図があったとは思わなかったよ
匂わせが好きな女は一人で十分なんよ
帰り道、綾坂にそのことに付いて追及を受ける。
「水族館とか完全にデートじゃん」
「遊びに行っただけ」
「遊びに行っただけなら私に言ってくれても良くない?なんかコソコソしてるから変に勘繰っちゃう」
いつもなら「コソコソなんてしてないよ」とやんわり否定するだけなのだが、部室での出来事で未だにモヤモヤしていた私はつい言い返してしまった。
「綾坂だって星七先輩とコソコソしてんじゃん。ゴールデンウィークに出来た用事ってこれだったんだね」
綾坂に星七先輩のSNSの『後輩ちゃんがおねーさんの新居に来てくれました』と書かれている投稿を見せる。
「……人のSNS監視してるとか気持ち悪過ぎ」
「フォローしてるから流れてきただけ。それより一人暮らしの女の家に行ったことなんで黙ってたのか答えて」
「なんでそんなこと答えなきゃいけないの!?もう別れてるんだから彼女ヅラしないで!」
「そっちが先に彼女ヅラしたんじゃん!」
暫く睨み合った後に綾坂は突然駆け出して公園に入って行ったので追いかけて中に入った。
「……なんで追っかけてくんの?」
「泣いてるから」
「お前が泣かせたんだろ!中途半端に優しくしないでよ!!」
蹲ってしまった綾坂を無言で見つめる。
小さい時に彼女とよく遊んだ公園なのに今はとても居心地が悪い
思い出がじわじわと黒く塗り潰されていくような感覚を覚える。
「……星七先輩が来るの嫌なの?」
「……そんなことない」
答えた瞬間、綾坂がばっと顔を上げて私の髪留めを見た。
「嫌なんじゃん」
「っ……」
「自分は色んな子に手を出しておいて、他人はダメなの虫が良すぎない?」
「手なんか出してないって」
「出た!ナギっちのそんな気ないのにモテちゃって困っちゃうアピール」
「なんでそんな言い方すんの?」
「図星だから気に触った?私は他の女みたいに一途じゃないからそこんとこ良く覚えといて」
「今は星七先輩が好きってこと?」
「そうじゃない!でもこのままだと星七先輩のこと好きになるよ!先輩は私のこと好きって言ってくれた!『お姉さま』を言い訳にしていつまでもハッキリしないナギっちよりは良いかもって思い始めてる!!」
そう叫んだ後に綾坂はまた蹲ってしまった。
私はあの時どころかずっと彼女の心を傷付け続けている。
「……星七先輩が来るのが嫌ってことはまだ私のこと気になってんの?それとも今ので完全に終わった?」
「終わってなんかない」
髪留めをじっと見た後に綾坂は少し微笑んでから呟いた。
「じゃあ星七先輩、呼ぶの止める」
「え、それは悪くない?」
「呼んで欲しくない癖に何言ってんの?まだ言ってないから別に悪くないよ」
「……そっか」
仲直りの雰囲気になったと思った私は、綾坂に手を差し出したが、彼女は受け取らない
「ナギっちも誠意見せてよ」
「誠意?」
なにかするってこと?
デート?
それか何かお揃いのモノが欲しいとかかな?
「詩織を呼ばないで」
「えっ!?」
意外な要求だったので驚いて声が出た。
「そ、そもそも詩織さんを呼ぶなんて言ってないじゃん」
「知ったら絶対に来たがるでしょ」
「ネズミー行くの教えるなってこと?」
「そうじゃなくて、知られてもきっぱり断ってって言ってるの」
「いいけど、そんなこと言うの綾坂らしくないよ……」
「私ってそんな女だよ?幼馴染の癖に知らなかった?」
綾坂は小悪魔的な笑みを浮かべてから私の手を借りずに立ち上がる。
「詩織に埋め合わせするのも禁止。なんか前に身体の一部を取られるとか言ってたけど、ああいうのも禁止ね」
「……分かった」
「じゃ、そういうことで。これからはナギっちとカノジョのフリとかそういうおままごとの恋愛じゃなくて本能曝け出したドス黒い恋愛するからそのつもりでいて」
「う、うん」
歩き始めた綾坂に並ぼうとすると「一人にして」と言われてしまったので仕方なくその場に残り、ブランコに乗りながら思案する。
確かに私は色んな子に言い寄られて口では拒否しながらも内心では良い気分になっていた。
全員と付き合うワケにはいかないし、もっと真摯に向き合うべきだ




