赤いリボン
翌日、綾坂は学校を休んだ
罪悪感に苛まれながらLINEを打つと、『ナギっち部活禁止!』と返ってきたので、少しほっとする。
言いつけ通り、部活に行かないでお見舞いに行くことにした。
途中にある薬局でお見舞いの品、元いお詫びの品を買って綾坂家のインターホンを鳴らすと、綾坂姉が開けてくれたので、お見舞いに来ましたと告げて中に入れてもらう
「うわっ!?」
ベッドで寝ていた綾坂は、私の顔を見るなり布団を頭から被って隠れてしまう
「きゅ、急に来ないでよ」
「ごめん……」
「今、めちゃくちゃ酷い顔してるんですけど、髪もボサボサだし」
「そんなことないよ」
「そんなことあるし!」
布団で覆われていて、顔は見えないが、思ったより元気そうで安心する。
「ポカリ買ってきたけど飲む?」
「ナギっちが帰ったら飲む」
「じゃあ帰るね」
「帰んな!」
「飲めないじゃん」
「まだ喉渇いてないからいい、それより私が寝るまでここに居て」
布団から手が伸びてきたので、それを握り、綾坂に謝罪する。
「……ごめん。私のせいでこうなったんだよね?」
「違うし、勝手に私が逆ギレして興奮し過ぎて熱が出ただけ」
「逆ギレなんかじゃないよ。綾坂が言ったように私は虫が良すぎたと思う。だから怒るのも無理ないって」
「そのことはもういいよ。それよりなんか面白い話して」
「お、面白い話?」
「そう、ナギっちのすべらない話」
ネットの面白エピーソードをパクりながら頑張って話していると、布団から寝息が聴こえてきた。
……うーん恐るべく話術スキルだ
日が落ちてきたので、握っていた手を起こさないようにして離してから立ち上がると、後ろから視線を感じたので振り向く
「……なにしてるんですか?」
ドアの隙間から見ていた綾坂姉に目を細めながら尋ねると、彼女は軽く舌を出してから部屋に入ってきた。
「ナギちゃんが『禁忌』を犯さないか監視してた」
「えっ!?」
な、なんで綾坂姉が『禁忌』のこと知ってんの?
『お嬢様』として来たことないよね?
綾坂が裏の活動のこと話した?
「なんで驚いてんの?」
「え、あ、いや……」
「もしかして結衣とか麗奈とかから聞いてないの?」
「な、なんのことをですか?」
答える前に綾坂姉は綾坂妹に買っておいたポカリを勝手に開けて一気に飲んだ
「私、元ボランティア部だよ」
「ええーーー!?」
大きな声を挙げてしまったので、しまったと思い綾坂に視線を向けたが、起きてくる様子が無かったので安心する。
「ま、すぐ辞めたけどね」
「初耳なんですけど」
「史上最速で『禁忌』を犯した部員だから麗奈達の間では無かったことになってるのかもね」
「し、史上最速ですか?」
「うん。初日で今のカノジョが『お嬢様』として来て一目惚れしたからがっつりキスした」
「早すぎですよ……」
今のカノジョってテニス部の部長のことか
そういえば一年の時に綾坂がカノジョ作る為に入部したって言った時に麗奈先輩が「二の舞になるつもり?」って答えてたな
あの時は綾坂がタイムリープしてるかと思ったけど、あれは綾坂姉のことを指して言ったことだったんだ
合点がいったのでカバンを持って帰ろうとすると、綾坂姉に押し留められた。
「昨日なにがあったの?結衣が泣き腫らした顔して帰って来たけど、なんか言った?」
「……私が自分のことを棚に上げて他の女と一緒に居たことを追求したからですよ」
元ボランティア部の綾坂姉には私達の対象が女性だとバレてるので正直に答える。
「痴話喧嘩ってやつ?」
「まぁそうですね」
妹を泣かせたから怒るかと思ったが、興味津々といった様子で目を輝かせたので嫌な予感を激しく感じた。
「ぶっちゃけどうなの?」
「なにがですか?」
「結衣って本命なの?」
屋上で綾坂と『お姉さま』にこだわらないで恋愛すると約束したので『お姉さま』は本命じゃない。
そうなると綾坂が本命?
衝動的にお見舞いに来ちゃったけど、それは彼女のことを大切に想ってるから?
いや、お見舞いに来たのはそんな綺麗な理由じゃなくて、罪悪感からだよな
「なんかめちゃくちゃ悩んでるけど、どんだけ候補いんの?」
「ちっ、違います!」
長考が災いして、あらぬ疑いがかかってしまった。
……まぁ、全く的外れでもないか
「結衣には言わないから教えてよ」
「……綾坂ですよ」
その場凌ぎの答えじゃなくて本心で答えた。
奈凪さんは私のモノと言って他人に対して歪んだ優越感を抱く詩織さんより、私はナギっちのモノと真っ直ぐに言ってくれた綾坂の方を選ぶべきだし、愛花先輩やみうと付き合ったら自分の身体が持たなそう
姉は全肯定過ぎて将来ダメになりそうだからナシ
ま、待って、なんで姉が恋愛対象に入ってんの!?
姉は元からナシ!ナシだから!!
「ホントかなー?」
「本当ですよ!」
言った後に考え込んでしまったので、疑いの眼差しを向けられる。
綾坂姉は暫く私を探るように見つめていたが、やがて信じてくれたようで、深く頷くと、棚にあった本らしき物を持ってきた。
「さ、流石に姉とはいえ、妹の日記を勝手に見せるのはダメですよ」
「これ日記じゃなくてアルバムだよ。正直に言ってくれたお礼に見せてあげる」
アルバムでもまずいんじゃないかと思ったが、好奇心には打ち勝てず、綾坂姉が開いたページを見ると、幼い綾坂が満面の笑みでピースしてる写真が目に映った。
「どう?ロリ結衣」
「自分の妹にそういうこと言うのキモいんですけど」
「あはっ!そのなんとかなんですけどって口調、結衣のが移ってるよね?」
「小さい時から一緒なんですから口調の一つや二つ移ってもおかしくないですよ」
綾坂姉が次のページを捲ると、小学校の運動会で二人三脚した私と綾坂がパン食い競争してる写真が出てくる。
「これダントツ一位だったのにパン咥えるのがヘタ過ぎて結局ビリになった時のだよ」
「どっちも大泣きしたの覚えてます」
ページを捲るたびに私が出てくるので、心があったかくなる。
これじゃ私も綾坂家の一員みたいじゃん
もうっ……
「あー出た!結衣が勝手にお母さんの化粧道具でお化粧したやつだ。ウケるっしょ?」
「あはっ、唇デカ過ぎですね」
「アイツちっこい癖に昔っから背伸びするやつでさー」
「今もそうですよね」
小学生から中学生に歴史が移り変わり、それを和やかな雰囲気で眺めていたが、最後のページで私の表情が消える。
「これも結衣が背伸びしたやつでさー私が高校一年の時に結衣が勝手に私の制服を着たやつなんだよね。しかもこれ着て外に出たりするし、もし汚されてたらグーでブン殴ってたわ」
綾坂姉が指差した写真にはあざといポーズを取っている綾坂の姿が映っていて、その胸には『お姉さま』と同じ赤いリボンが付いていた。




