ずっとすばにいた
私の異変に気づかずに綾坂姉は「お風呂当番だった」と言って下に降りて行った。
二人だけになった部屋で、ベットで寝ている綾坂を見つめる。
綾坂が『お姉さま』?
いや、そんなハズはない
コイツのことは何回も抱いてるよな?
そう思って記憶を辿ってみたが、抱いた記憶が出てこない。
王様ゲームの時みたいに後ろとか横からとかなら抱いた記憶はあるけど、真正面から抱いた記憶がない
中学とかそれ以前はどうだったかな?
抱いたような気はするけど、感触が思い出せない。
もしかして『お姉さま』に抱かれた時、その感触が強烈に刻み込まれたと同時に他の人の感触は飛んでしまった?
……だとすると綾坂『お姉さま』説は真実味を帯びてくる。
思い返せば綾坂は、あの夏の大会で私が最後にダブルフォルトを打ったことを知ってるかのような発言をしていた。
大会は夏休みにあったので、綾坂姉の制服を借りるのは容易だから、それを着て試合を観に行って駅のベンチで悄然していた私を抱きしめてくれたと推理出来る。
あの時はまだ恋人のフリはしていたけど、私が「女に興味ない」って言ってから少し関係が気まずくなっていたので、正体を明かさずにそのまま電車に乗った。
……うん。
これならパズルのピースが埋まる。
私の『お姉さま』はずっと側に居た。
ゆっくりと綾坂に近づく
ベットの傍らに置いてあったクレーンゲームの景品のウササカが私を咎めるように見ている感覚を覚えたが、それでも歩み寄るのを止めない
まだパズルのピースは完全に埋まっていない
あと一つ、あと一つだけ残っている。
直接抱いて確かめなければいけない
ベットの横に到達した私は、慎重に布団をはぐる。
病人から布団を剥がすという非人道的な行為を行なったが、今の自分には最低限のモラルさえ守っていられるような余裕は無かった。
露わになった綾坂の姿を眺める。
慎重に布団をはぐったのが功を奏したのか、彼女が起きてくる気配はない
……こんなに綺麗だっけ?
微かに朱を帯びたかんばせは酷く美しく見えた。
ベットに上がる前に振り返って他に誰も居ないのを確認する。
これじゃまるで幼馴染に今から悪戯するみたいだ
音を立てないようにしてベットに上がり、抱きしめる前に小さな声で呟く
「お姉さま……」
ありがとう
あの時ばかりじゃなくて、いつも助けられていたよ
気持ちを伝えるのが遅くなってごめん
私は綾坂が好き
「……っ!?」
抱きしめる直前、綾坂に手で肩を抑えられた。
悲痛な表情をしている彼女と数秒間見つめ合った後、耐えられなくなった私はカバンを取って逃げ出した。
色と音が無くなった灰色の世界を涙が頬を伝わらないくらいの速度で走る。
綾坂は起きていた。
そういえば寝息は止んでいた。
寝ていなかったってことは、びっくりしたんじゃなくて明確に拒否されたってことだ
私は『お姉さま』にフラれた。
ずっと近くに居たのにそれに気づかないで、他の女とうつつを抜かしていた。
それどころか、綾坂が他の人と仲良くしていると嫉妬して機嫌を悪くしていた。
だから呆れられてフラれた。
物語だったら好きな人が実はお姉さまで、抱きしめた後にキスしてハッピーエンドで終わるんだけど、そうはならなかった。
いや、物語は筋書き通りに進んでいた。
屋上やソファの上で何度もチャンスはあった。
それをことごとく私がぶち壊した。
夜凪奈凪の初恋はここで終わった。




