詩織さんのご褒美
四月下旬、お昼休みにお弁当箱を広げる。
私が一緒に食べる相手は詩織さんだけだ、ハブられてるとかじゃなくて、付き合ってるって噂になってるからこうなってる。
……それは別に良いんだけど
独りぼっちでお弁当を食べようとしているブレザーちゃんが気になる。
クラスには幾つかのグループがあるんだけど、ブレザーちゃんはその何れにも属していない
綾坂がもしこのクラスに居たら速攻で「一緒に食べようヨー」とか言って誘ってたんだろうな
……うん、決めた
いつまでも幼馴染を頼ってちゃダメだ
私が綾坂の代わりになろう
「ねぇ詩織さん」
「どうされました?」
「あの子も仲間に入れて良い?」
怒るかと思ったが、詩織さんは朗らかに笑った。
「ええ、構いませんよ」
お許しが出たので、ブレザーちゃんの席に向かい、声をかけると彼女は「ひっ!?」っと小さな悲鳴をあげて狼狽える。
「一緒に食べない?」
「わ、私なんかがお二人の間に挟まれません!」
「そんな関係じゃない。友達なんだから一緒に食べようよ」
「と、友達?」
「うん、嫌?」
「とんでもないです!すみません!」
「じゃあ来て」
三人で机を囲む
自分で誘っておいてなんだけど凄い組み合わせだな
「みうはどう?」
「私なんかより全然上手いです」
「みうは中学の時からテニスやってたんだからそれは経験の差があるだけだよ。キミだって絵が上手いっていう特技があるんだからそんなに卑屈にならなくて良いと思うよ」
「絵がお得意なのですか?」
「得意という程では……見ますか?」
「ええ、是非」
「アレは止めてよね」
「は、はい!分かってます!すみません!」
私の裸婦画は見せないと思うけど、一応念押ししといた。
「大変お上手です」
「そ、それほどでも」
「私に送って貰うこと出来ますか?」
「も、もちろん」
ブレザーちゃんが詩織さんに見せたのは前に見せてもらった私のイラストだった。
うーん、そっちも禁止にしとけば良かったかも
二人は連絡先を交換し、ブレザーちゃんは詩織さんにイラストを送った。
……このタイミングならいけるかも?
「詩織さん」
「なんでしょうか?」
「これ私の連絡先」
「……いりません」
「教室でなら『禁忌』にならないよ」
「私は奈凪さんと友人になるつもりはありません」
「友達からってパターンもあるじゃん」
「私と奈凪さんの間にはありません」
「分かったよ!もういい」
きっぱりと断られたので、詩織さんに向けていたスマホを引っ込める。
やっぱダメだったか
実は詩織さんの連絡先知らないんだよね
前にも聞いた時あるんだけど、今みたいに断られてしまった。
ソファの上で連絡先を交換してはいけないが、それ以外の場所で友人として交換するのは構わないという『禁忌』があるんだけど、詩織さんは友人として交換はしたくないらしい
意固地だなぁ
私だって寝る前に詩織さんのこと考えることあるんだからね
そんな私の気持ちは露知らず、詩織さんはスマホを弄りだした。
財閥令嬢なのに食事中にスマホ弄っちゃうんだ
じいやに怒られますよー
詩織さんをジト目で眺めていると、私のスマホが反応したので手に取る。
私は庶民だから食事中にスマホ弄っても良いのだ
「んなっ!?」
メッセージを送ってきた相手は目の前に居るブレザーちゃんからで、内容は『「お気持ちは嬉しいです」と詩織さんが言っています』と書かれていた。
詩織さんの顔を見ると、彼女は口を抑えながらクスクス笑っている。
これからブレザーちゃん越しに連絡取るつもり!?
ブレザーちゃんが不憫過ぎるよ
ブレザーちゃんは私達の関係を測りかねているのか、目を白黒させていた。
ご飯を食べ終わり、お手洗いに行くと、着いて来ていた詩織さんにいきなり手を掴まれて個室に連れ込まれる。
「ど、どういうつもり!?」
「奈凪さんを褒めてあげたいのです」
「なんのこと?」
「彼女を誘ったことです。殊勝な行いだと感じました」
「アレは綾坂を見習ってやっただけのことだから」
「奈凪さんがしたことに変わりはありません。良い子にはご褒美をあげますね」
ほっぺにキスを落とされる。
ご褒美になってないと思ったが、身体は素直に身を委ねた。
「……あの子、奈凪さんに惚れているようですね」
「そんなことないと思うけど」
髪留めを触りながら答えると、もう片方のほっぺにキスをされる。
「好きでないなら、あんな綺麗な絵を描きません」
「……ご褒美とか言ってるけど、ただの嫉妬じゃん。私が彼女を誘ったから焦ってこういうことしてるんでしょ?」
「以前の私なら嫉妬していたかもしれませんが、今は違います」
詩織さんは色素が薄い瞳で私を捉えながら、寸分の狂いもなく、私のおへそを指で突き、ぐりぐりと指圧しながら囁いた。
「この感情は嫉妬ではなく、強いて言えば優越感ですね。彼女以外にも多くの人が奈凪さんに惚れているようですが、私はそれに気付く度に優越感を感じるのです」
おへそを弄られながら、頬に深いキスを落とされると、お腹の快感が全身に回ったような感覚に陥る。
「だから奈凪さんはこれからも多くの人に親切にして惚れられて下さい。そうすれば私はもっと幸福を感じるのです」
「な、なにを言って……」
「ご理解頂けませんか?世の中の誰もが欲しがるモノを自分だけが持っていると言えば伝わりますか?」
麗奈先輩とは全く逆のことを言う
人に優しくすることは大事だが、悪戯に惚れさせるべきではない
そもそも私の親切が詩織さんのつまらない優越感に繋がるなんてあってはならないことだ
「やめてよ!」
スカートからブラウスを引っ張り出されたので詩織さんを押して退けさせる。
「私は詩織さんのモノじゃないし、これからもならない」
「それでこそ私の奈凪さんです。以前のように簡単に身体を差し出されてはつまらないので精一杯抵抗して下さいね」
「そ、そのことは忘れてよ」
バレンタインでの失態を思い出して、一気に顔が赤くなる。
それと同時に詩織さんが個室のドアを開けて、私を引っ張り出したので、トイレでたむろしていた数人の生徒と目が合った。
ブラウスが引っ張り出されたままで、しかも顔真っ赤だから完全に事後だ
また変な噂になること間違いなしだよ……




