思うがままに
性のバレンタインから数日後、今日も部室でチョコを食べる。
星七先輩そろそろ受験終わったかな?
自分から連絡するのは催促してるみたいで感じ悪いよね。
綾坂は知っているだろうけど、聞くのやだな
そんなことを考えながらチョコを食べていると麗奈先輩に注意された。
「処理するみたいに食べてないかしら?ちゃんと贈ってくれた人を想いながら食べるのよ」
返事をする前に愛花先輩が目を輝かせながら身を乗り出す。
「じゃあ麗奈も私のことを想いながら使ってくれてるの!?」
「も、モノと食べ物は違うじゃない」
「違くないよ!籠ってる想いは一緒だよ!」
「あ、愛花は奈凪さんから貰った入浴剤を使った時に奈凪さんのことを想ったのかしら?想ってないわよね?それと一緒よ」
「ちゃんと奈凪ちゃんとお風呂入ってそのまま最後までいく想像したし、奈凪ちゃんに証拠写真も送ったよ」
「ああいうの送ってくるのキモいんでやめて下さい」
いつの間にかこっちにも飛び火していたよ
あの写真だけじゃなくて、他にもえっちな自撮りを送ってくるんだよなぁ
なんでこうなってしまったんだろうか?
「麗奈もちゃんと私のこと想いながら使ってね!」
「……分かったわよ。もうこのハナシはやめてちょうだい」
「ちゃんと証拠写真も送ってね」
「送るか!」
「綾坂は私があげたリップ使ってる?」
「使ってますヨー。でももうすぐ無くなっちゃうんでもう一回欲しいナー」
「違うやつだけど、案件先に貰ったやつあるからそれあげよっか?」
「え、いいの!?やったー!ありがとー星七先輩!」
相変わらずこの二人は仲良いな
パシリ1号じゃなくて綾坂って呼んでるし、更に関係進んでるっぽい
……って
星七先輩いるじゃん!?
愛花先輩みたいに身を乗り出して星七先輩の顔をじっと見る。
「……ホンモノだ」
「私のニセモノがいんの?」
「あ、いや……そうじゃないです」
そっくりさんかと思ったけど、正真正銘の星七先輩だ
モノマネする人がいるほど有名人じゃないか
チョコ食べるのに気を取られてて気づかなかったみたい
いざ目の前にすると切り出しにくいな
全然、心の準備してなかったよ
「じゅ、受験終わったんですか?」
「余裕で終わってる」
「おめでとうございます」
「ありがと、で?パシリ2号は私のこと抱かなくていいの?抱かないなら別にそれでいいけど」
「だ、抱きたいです!」
財布から100円を取り出して缶に入れようとしたら、星七先輩が先に入れて、ソファに向かったので、その後をぴょこぴょこ付いていく
なにやってんだよ私
心の準備してないとか言い訳してないで、自分から誘うべきだったろ
奢ってもらってるし……
ソファに座ると星七先輩が紅茶を淹れてくれたので恐縮する。
初期とキャラ違い過ぎるよ
卒業間近だから優しい?それとも綾坂が変えた?
……後者だったらちょっとやだな
いやいや、良くしてくれた人になんて感情抱いてんだよ
そんなこと考えてないで星七先輩にちゃんと謝らなきゃ
「び、美人なのに口説いて勘違いさせてすみませんでした!」
「なんかむかつくんだけど」
つっこまれたが、星七先輩の表情は柔らかい
彼女はポケットから手帳を取り出してなにやら書き始めた。
「せっかくだからパシリ2号に私のサインあげる」
「結構です」
断ったが星七先輩はそれに構わずサインを書き終え、手帳から破り取って渡してくる。
『綾坂のこと好き?』
渡された紙にはそう書かれていた。
紙を持ったまま固まる。
会話は部員に聞かれてるからこういう手段を取ったのか
カメラはそこまで高性能じゃないから紙に書かれた文字までは見えない
「パシリ2号のサインもちょうだい。将来アイドルとか女優になる気がする」
「な、なりませんよ」
勿論、本当に私のサインが欲しいワケじゃない
返事を書けと言っているんだ
手帳とペンを渡されたが、一文字も書けない
ここで『好き』と書いたら引いてくれるんだろうか?
引いてくれたとして、私と綾坂は付き合うのか?
詩織さんに対して身体を許した私にその権利はあるのか?
『好き』とは書けない
『好きじゃない』とも書けない
ペンを握りしめたまま、星七先輩の顔を見ると、依然として柔らかい表情をしていた。
綾坂のことが好きかどうか聞いてくるってことは、彼女のことが好きなんだろうな
「なに固まってんの?上手に書かなくて良い。サインは思うがままに書けばいいよ」
「は、はい」
……思うがままか
ペンを握り直して考える
綾坂と恋人のフリをしていた時は結局、本当のキスをしなかったけど、詩織さんにセックスを誘われた時ははっきりと頷いてしまった。
これって詩織さんの方が好きってことになるのかな?
でもあれは性欲に負けただけで、綾坂に同じことされても頷いていたと思う
綾坂と星七先輩が仲良くしていると嫉妬するのは確かだけど、それが恋愛の類なのかもまだ分からない
……結論が出た
『分かりません』
思うがまま書き記した手帳を返したら星七先輩は少し寂しそうな顔をした。
彼女のこんな表情は見たことがない
「……パシリ2号ってホントにつまらない」
「す、すみません」
謝ると星七先輩はこっちに寄って腕を広げた。
待ちに待った抱擁の時間なのに躊躇する。
綾坂と詩織さんも気になるが『お姉さま』への恋慕も消えていないから、ここで星七先輩が『お姉さま』だと判明したら頭がどうにかなってしまう
「ちょ、ま、あっ……」
気持ちの整理がつかない内に抱きしめられる。
『お姉さま』では無かったので逆に安堵したが、星七先輩が耳元で囁いた言葉で、一度落ち着いた心臓が激しく揺れ動いた。
「このままだと私が貰っちゃうけど、いいの?」
返事に窮していると、星七先輩が離れてしまった。
『お姉さま』じゃないのにもう一度抱き合うのはおかしいし、またサインと称して筆談するのも不自然だから返事の機会を失ってしまったことになる。
「どうだった?」
「……違いました」
「まぁここでパシリ2号に告られても困るし、良かったと思う」
「そ、そうですね」
ソファから立ち上がったが、星七先輩は立ち上がらずに100円を渡してきた。
「綾坂呼んできて」
100円玉が鉄の球のように重く感じる。
『分かりません』と逃げた決断を一生悔いることになるかもしれない




