バレンタインクズ
「奈凪さんからは頂けないのですか?」
「ごめん。用意してないんだ。ホワイトデーに返すから」
「ホワイトデーにお返しするのは男性の場合です。奈凪さんは女性なのでバレンタインにチョコを返すべきでは?」
「そんなこと言われましても!」
バレンタインを忘れてたんだから持ってるワケないじゃん!
なにか代わりの物がないかパニックになったドラえもんみたいにポケットを漁るが、ろくなものが出てこない
「ないなら仕方ありませんね」
詩織さんが手を出してきたので、貰ったばかりのチョコを返すと、彼女は包装を開けてチョコを取り出し口に咥えた。
詩織いいいぃッ!!
最初からそのつもりだっただろぉん!?
このヤンデレ策士!!
「んぁんんふぁんなぁでっん」
何言ってるか分からんよ!?
チョコ咥える前に言ってよ!
ここにきて天然キャラ加えるな
咥えてたチョコを指で押し込んでやると、ようやく詩織さんは普通に喋り出した。
「このチョコは二人のものにしましょう」
「どういうこと?」
もう魂胆はバレてるが、一応聞いてみた。
「食べさせ合うのです」
百合漫画だと割とあるきゅんきゅんイベントなんだけど、それってほぼ二人が恋人確定の状態でやるものだよね。
私と詩織さんってそういう関係なのかなぁ?
疑問に思ってると、また詩織さんがチョコを咥えたので指で押し込もうとしたが、今度は押し返されてしまう。
チョコが迫ってきたので、イヤイヤして拒否を示したが、眉毛を八の字に曲げた酷く悲しそうな顔をされたので観念する。
これ、綾坂とのエアキスより難しいな
唇が触れないようにしてチョコを口で受け取り、口内に入れるとチョコの味に混ざって詩織さんの味がしたような気がした。
「奈凪さんからも欲しいです」
詩織さんがチョコを私に咥えさせたので、唇を少し尖らせて準備すると、彼女は目を閉じながら器用に受け取った。
「奈凪さんの味がします」
「詩織さんキモい」
自分のことは棚に上げてつっこむ
私は口に出してないからキモくない
「ください」
求めに応じてチョコを咥えさせると、詩織さんも私にチョコを咥えさせた。
二人揃って咥えてどうするんだと訝しんでいたら、空箱を机の上に置いた彼女に抱きしめられ、チョコ越しのキスをされる。
呼吸が荒くなり、私達が咥えているトリュフチョコは熱を帯びた吐息でみるみるうちに溶けていく
このままだと『禁忌』に触れてしまうと感じた私は詩織さんから離れようとしたがそれは叶わなかった。
彼女が離してくれないからじゃない、私が離れないんだ
いつの間にか詩織さんの腰に回していた腕が私の命令を聞いてくれない
動けと命じると逆にもっと強く抱きしめてしまう
「ん……んっ!」
どうにか動く口で窮地を伝えると、詩織さんはキス直前で離れてくれて、私の唇に付いたチョコを指でなぞって舐めた。
「では、次に移りましょうか」
「……つ、次?」
「私に身体の一部を捧げる約束をしていましたよね?それを今、果たして下さい」
「だ……だめ」
詩織さんから後退り、情けなく尻餅を付く
今、ここでそんなことをするのは絶対無理だ
私の身体は彼女をご主人様だと認識しているから、どんな要求にも抗えない
だから必死になって命乞いをした。
「……もう許し……て」
まだ息が整ってないので、言葉が途切れ途切れになる。
スカートを抑えるのも忘れて、怯えながら詩織さんを見上げる姿は無様としか言いようがない
「約束を破るおつもりですか?」
「こ、今度に……して」
「それでも構いませんが、また私に借りを作ってしまいますよ?」
「うっ……」
もう詩織さんと『約束』をしてはいけない
……それは分かっているんだけど、この場を脱する手立てが他にない
暫く躊躇したあとに、私は小さく頷いた。
「交渉成立ですね。では、この約束は今返してもらいます」
そう言い放った詩織さんは尻餅を付いたままの私に跨って、誘うような笑みを浮かべながら自分の唇に付いていたチョコを指で拭うと、それを流れるような動作で私のほっぺに付ける。
「……んっ」
今度は勝手に声が出た。
詩織さんが私のほっぺに付いたチョコを舐め取っているからだ
もう抵抗する気力もない
いや、意思がないと言った方が正解か
詩織さんに強く抱きしめられながら、その行為に身を委ねる。
彼女はチョコが無くなっても私を舐め続け、チョコと唾液が混じった匂いが鼻腔をくすぐった。
「……そ、そこはやだ」
「ここはもう私のモノなので奈凪さんに拒否権はありません」
スカートからブラウスを引っ張りだされたので、拒否を示したが、当然それは受け入れてもらえず、お腹が露わになる。
濡れた舌先が当たった瞬間に身体が弓なりに反る。
空き教室の中は冷え切っているのに、お腹が焼けるように熱い
「〜〜っ!?」
猫の毛繕いのように舌がおへその周りを這うと吐息と一緒に喘ぎ声が漏れそうになったので必死に口を噤んだが、おへそを強く吸われると耐えきれなくなって甘い声が漏れた。
止まらない
こんなの聞かれたくないのにどうしても漏れてしまう
ラブホテルで一瞬聞いたえっちな声が私から出てる。
気持ち悪い感覚はとっくに失せて、快感に変わっている。
初めておへそを舐められた時よりずっと深いところに落ちていて、気持ちいい感覚がそっちにも伝わってきたところで、急に舌が止まった。
顔を上げた詩織さんと目が合う
「……もう限界かな?このまましちゃおっか?」
鏡を見なくても分かる。
今の私は絶対に欲しがってる顔してる。
もっと深いところまで堕として欲しいと思った。
だから私は頷いた。
それを確認した詩織さんは仕留めた獲物を前にした肉食獣のように自分の唇を舐めた後、私のスカートの中に手を入れる。
「〜っ!?」
思いっきり太ももの付け根をつねられたので苦痛で顔が歪む
「本気にしないで下さい。私がお付き合いしていない相手と致すとお思いですか?」
「……これが最初で最後のチャンスだよ?」
「そうでしょうか?今の様子だといつでも身体を許しそうですよ?」
「うるさいな。しないんならとっとと降りてよ」
腰を上げてクソ女に降りるよう促す
私と付き合ってない認識だったのかよ
それはいいけど、急に豹変するのは止めてほしい
立ち上がって身なりを整えながらそれを指摘する。
「たまにタメ語になるのなんなの?普段カマトト振ってんの?」
「私は普段から人に敬意を払っているので敬語なのです。カマトト振っている訳ではございません」
「じゃあなんでタメ口が漏れるの?」
「奈凪さんに敬意を払う必要性を感じなくなる時があるからですね。あんなはしたない顔でおねだりする下賤な輩に敬語は勿体ないです」
「あ、そんなこと言うんだ?もう絶対に触らせないからね」
悪態を付いたが、詩織さんがゆっくりと伸ばしてきた手から逃れられず、両頬を掴まれる。
「捕まえました。触れましたよ?」
「くっ……」
そのまま鼻にキス落とされる。
私はそれを受け入れることしか出来なかった。
帰り道、綾坂にチョコの袋を一つ持ってもらう
彼女は私の家の前まで持ってくれた。
「ありがと」
「うむ」
「ウチ寄ってく?」
「今日は用事あるからいいや」
綾坂はそう言いながら、カバンからチョコを取り出し、私に差し出す。
「はい。これあげる」
「ありがと」
「元元カノからのチョコだから大事に食べたまえよ」
「なに元元カノって?」
「え、わからん?二回付き合って二回別れたから元元カノ」
「ヨリ戻した形だから元カノで良くない?」
「元元カノの方が面白いじゃん。目指せ元元元カノ!!」
「別れるの前提で付き合うのかよ」
綾坂は自分の家とは逆方向に去って行ったので、用事が何か察する。
……あっちは駅だから星七先輩にチョコ渡しに行ったんだな
嫉妬心に自己嫌悪する。
詩織さんとあんなことした癖に綾坂のことも欲しいと思ってる自分が嫌になる。
そもそも恋人じゃないのにキスするフリをするのは健全じゃないから綾坂と恋人のフリを止めたのに、恋人のフリすらしてない詩織さんにセックスを求めちゃダメじゃん
クズ過ぎて吐きそう




