雪だるまより短い恋
「貴女たちの様子が冬休み明けからおかしかったから罠を張ったのよ」
麗奈先輩が取り出したスマホの画面を見ると、そこにはソファに窮屈そうに座っている私達三人の姿があった。
部長のスマホはここの監視カメラと連携してたんだ
ワザと私達を二人きりにさせて、何処かでその様子を観察していた。
愛花先輩の姿は見えないから、本当に帰らせたみたい
「で、どうしてかしら?」
「私とナギっちはキスしていません」
「見ていたからそんなことは分かっているわ。私が聞きたいのは、どうしてキスをしないかよ」
「それは『禁忌』になるからに決まってるじゃないですか」
答えた瞬間、麗奈先輩にぐいっと頭を掴まれた。
「いてててて」
「クチの聞き方がなってないわね。今は尋問中なのよ」
「ナギっちに乱暴しないで下さい!」
麗奈先輩は私の頭から手を離し、止めに入った綾坂の方を向いた。
「じゃあ綾坂さんに答えてもらおうかしら。どうしてキスをしないの?」
「……恋人のフリだからです」
「また始めたのね。奈凪さんが告白されるのを綾坂さんが防いでいるということかしら?」
「その通りです」
「だったら二人きりの時にやる必要はないじゃない」
綾坂が答えに瀕して黙ってしまったので、麗奈先輩は私の方を向いたが、私も答えられない
「まぁいいわ。色々言いたいことはあるけど、本題はそこじゃない。どうしてそこまで関係が進んでいるのにキスをしないのかが聞きたいわ」
「だから『禁忌』になるからって言ったじゃないですか」
今度はもっと強く頭を握られた。
すっごく痛い、握力100くらいありそう
「あだだだだ」
「やめて!」
「次、生意気なクチきいたら潰すわよ。私は星七先輩みたいに寛大じゃないの」
解放された頭を両手で抑える。
そんな生意気なこと言ったかな?
「どうして『禁忌』を頑なに守るの?私が言うべきことじゃないけど『禁忌』を犯しても退部になるだけよ?そこまで好きだったらとっとと『禁忌』を犯して思う存分キスすればいいじゃない?」
答えは出てこない
いや、答えは出てるけど言えない
「答える気がないなら私が言ってあげる。奈凪さんの心の中に迷いがあるのよ。他の子も気になっている。だから貴女は『禁忌』を言い訳にして綾坂さんを弄んでいる」
「ナギっちは私を弄んでなんていません!」
「恋は盲目ね。この女は他に好きな人が出来たら貴女を捨てるつもりよ」
「なっ!?なんてこと言うんですか!私とナギっちは恋人のフリしてるだけなんで、捨てるとかないですから!今のは流石に先輩でも許せませんよ!」
「触れる直前のキスを何度もしておいて、結局、他の人と付き合っても納得出来るのかしら?あれは恋人のフリだっただけだときっぱり諦められるの?私だったら弄ばれて捨てられたと思うわ」
「うっ……」
麗奈先輩に私の醜悪さを暴かれた。
頭を掴まれてないのに頭痛がしてくる。
私は綾坂の気持ちを考えずに自分の欲求をひたすら満たし続けていた。
「奈凪さんばかり責めるのはフェアじゃないわね。綾坂さん、これは奈凪さんに言ったの?」
麗奈先輩がスマホを操作すると、星七先輩のSNSの投稿が現れ、そこには『後輩ちゃんとラブホ女子会』と書かれていた。
顔は隠されているが、星七先輩と顔を寄せてるのは間違いなく綾坂だ
綾坂と本当に付き合ってるワケじゃないのに心が苦しくなる
……自分勝手過ぎるな
「そ、その時はまだナギっちと恋人のフリしてないですし、ホントに女子会しただけです」
「時系列も性行為の有無も聞いてない。私は奈凪さんにこれを言ったのか聞いた」
「そんな大したことないこと言う必要ないです」
「違うわ。大したことだから綾坂さんは奈凪さんに言わなかったのよ。貴女も奈凪さんと同じで、他の子も気になっている」
「……麗奈先輩は何がしたいんですか?私とナギっちの仲を拗らせるつもりですか?」
「逆よ。私は貴女たちの仲を拗らせたくないから言ってるの」
そう言った後に、麗奈先輩はスマホをテーブルの上に置いて立ち上がった。
「五分だけ席を外すわ。その間にキスをして二人で帰るか、そのまま残るか決めなさい。それ以外は認めないわ」
部室の扉が閉まる音が響く
二人だけになったソファは妙に広く感じる。
「……麗奈先輩が言ったことは事実だよ。私は他の子も気になってるのに結衣とキスするフリして楽しんでた」
「私だってそうだよ」
「星七先輩のこと本当に気になってるの?」
「……正直に言うね。星七先輩のことは気になってるよ。でもラブホで何も無かったのもホント」
「それは信じてるよ。私も愛花先輩とラブホ入ったけど、何も無かったし」
「ええっ!?愛花先輩とラブホ入って何も無かったは微妙に信じられないんだけど」
「あと、詩織さんにはおへそ舐められた」
「な、なにその変態プレイ」
「メイド姿のお姉ちゃんにマッサージされたこともあった」
「へ、変態に好かれるね。てかなんか自暴自棄になってない?色々ぶっちゃけ過ぎでしょ」
「いいじゃんこの際なんだから。結衣は何かぶっちゃけることないの?」
「んー?星七先輩と個室サウナ行って、そこでちょっといい感じになったくらいカナー」
「なんかあったんじゃん」
「ラブホでは何も無かったって言ったからウソじゃないでーす!」
「なにそれずるい」
膨れっ面を見せると、綾坂も真似してきたので、二人してクスクス笑う
私達の選択は決まった。
ソファに開いた麗奈先輩一個分の距離を詰めると、綾坂の笑顔がふっと消える。
肩を掴むと彼女が目を閉じたので、私も閉じて唇を寄せた。
最後の触れないキス
何度もしてきたので目を瞑っていても距離は測れた。
もし次キスする時があれば、それは本当のキスになる。
「これからもよろしく。綾坂」
「うん!」
私達の二度目のお付き合いは雪だるまより短い寿命で終わった。
程なくして戻ってきた麗奈先輩は私達の顔を見て安堵したような表情を浮かべる。
「残っているということは、恋人のフリは終わりにしたということね?」
「そうです」
「最善の選択をしたと思うわ。あのままだとまた同じ過ちを繰り返すところだった」
「同じ過ち?」
「……こちらのハナシよ。さ、帰りなさい。片付けは私がやっておくわ」
麗奈先輩はテーブルの上に置きっぱなしだった紅茶セットを片付けようとしたが、私達がソファから動く様子がないことに気付いて手を止めた。
「なにか?」
「ちょっとお尋ねしたいことがありまして」
「なによ二人して改まって」
「麗奈先輩って恋愛経験どれくらいあるんですカナ?」
「……喧嘩売ってるのかしら?」
「いやいや、経験豊富そうなので経験則を踏まえたアドバイスを頂きたいなって言ってるだけですよ」
「まさか無いとか言わないですよネー?」
突然、腕が伸びてきて私達の頭をガッチリ掴まれたので二人のニヤニヤが消える。
「特別にキスさせてあげるわ。頭でね」
「ひっ!?」
謝罪する間もなく私と綾坂の頭がぶつかり、火花が出た。
「「痛あぁぁぁっ!!」」
ちょっとイジっただけなのに〜〜!




