二人で一つのマフラー
始業式、私にとってもう一つの意味がある日。
久しぶりにローファーを履いて外に出ると目の前に綾坂が居た。
「おはようのちゅー」
「い、家の前でするのは止めとこうよ」
姉は既に登校したけど、玄関から親が出てくるかもしれない
断ったら綾坂は頬を膨らませたが、すぐに機嫌を直してラッピングされた袋を渡してきた。
「誕生日おめでとー」
「ありがとう」
そう、今日は私の誕生日だ
綾坂と友達になってから毎年プレゼントを贈りあっている。
「開けてヨー」
促されたので開けてみると真っ赤なマフラーが入っていた。
「マフラー持ってなかったから嬉しい」
「カノジョらしく手編みにしたかったんだけど、調べたら難しそうだったから諦めた」
「諦めるのはや」
「潔いと言ってくれたまえ。巻いてあげるね」
綾坂がマフラーを巻いてくれたが、何かおかしい
巻き方とかじゃなくてもっと根本的な話だ
私と彼女の間には橋みたいにマフラーがかかっている。
「二人で一緒のマフラーって恋人同士の鉄板シチュだよね」
「私だけのマフラーじゃないの?」
「そうだよ。マフラーはナギっちだけのモノで、私もナギっちだけのモノだよ」
そう言って歩き出したので一緒に巻かれたマフラーに引っ張られて躓きそうになる
え、まさかこのまま行くの?
学校に近づくにつれて周りを歩くウチの生徒の数が増えていく
明らかに注目を集めている。
いくら女子校だからってマフラーを一緒に巻いて登校する生徒なんていない
何人かの生徒と目が合った。
その中には私に告白してくれた子も混ざっている
悲しそうな顔を見るのが辛くなったので、なるべく下を向きながら歩く
昇降口に入ったところで耐え切れなくなってマフラーを外した。
「教室までこのままが良かったのにー」
「恥ずかし過ぎて無理」
教室に入って席に付く
二年になったらクラス替えがあるからこのクラスとはあとちょっとでお別れか
センチな気分に浸っていたら綾坂が近寄ってきた。
もう朝礼始まるぞ。何の用だ?
「ナギっちアレ返してよ」
ああ、借りてたパジャマのことか
ちゃんと持って来てますよ
汗で汚して悪かったですね
「お泊まりした時に貸したパジャマ返してくれてありがとー!!!」
綾坂の説明口調の大声がクラス中に響き渡り、ガヤガヤしていたクラスメイトが一瞬にして揃って黙り込んだ
綾坂ぁーーー!!
そのつもりで、わざわざ学校で返せって言ってきたのかよ!
幼馴染が策士過ぎるんですけど!
ガヤガヤ声に代わり、ヒソヒソ声が聴こえてきた。
めちゃくちゃ噂されてる!
クラスメイトの半分に告白されてる状況でこれはキツい
始業式を終え、学校から足早に出る。
帰りも綾坂は一緒にマフラーを巻こうと提案してきたが、それは当然断り、並んで歩く彼女に注意した。
「もうちょっと抑えてよ」
「なにを?」
「恋人のフリだよ。あんなこと大声で言ったら、そういう行為までしてると思われるよ」
「恋人ってフツーはしてるんじゃないの?」
「そういうこと言ってるんじゃなくて、やり過ぎだって言ってんの。中学の時みたいにさりげない感じでいいんだよ」
「あの時とは状況違うじゃん。告白されまくってる状況なんだから、やり過ぎなくらいやらないと効かないよ」
それは一理あるかもしれないんだけど、ここで折れるワケにはいかない
恋人のフリを抑えて欲しいのは恥ずかしいって理由だけじゃないからだ
「お願いだから言うこと聞いてよ」
「……嫌なの?」
「嫌じゃない。恋人のフリしてくれてるのは感謝してる。ただ結衣が心配だから言ってるだけ」
「何の心配?」
「結衣が嫉妬されて嫌がらせされたりしないか心配なんだよ」
「嫌がらせって少女漫画みたいに靴に画鋲入れられるとかカナー?」
「……冗談で言ってないんだけど」
少数だが、私は綾坂に向けられる怨嗟に満ちた視線を感じ取っていた。
私のせいで親友がいじめられたら耐えられないし、あってはならないことだ
「心配するなってー!もしなんかされたら麗奈先輩に言ってシメてもらうよ!」
「そしたら麗奈先輩にも迷惑かけちゃうよ。これからは恋人のフリするの二人きりの時にしない?」
「えっ……?」
綾坂の足が急に止まったので、自分の誤ちに気づいた。
二人きりの時『も』と二人きりの時『に』は全然意味が違う
二人きりの時だけ恋人のフリする意味なんてない
それはもう本当の恋人だ
私、今、綾坂に告った?
「……それってどういう意味?」
「い、いやお互いカノジョ欲しい身じゃん!だからカノジョ出来た時の予行演習として今後は恋人のフリするのどうかなって?あはは……」
自分でも苦しい言い訳してるのが分かる。
カノジョ出来た時の予行演習ってなんだよ!?
愛花先輩がつまらないと評した百合映画と同じようなこと提案してんじゃん!
「……いいよ」
「えっ?」
今度は私が聞き返した。
いつもみたいに「きっも」って返ってくるかと思ったら了承された。
「なんでそんなに不安そうな顔してんの?マフラーと一緒に私もあげたんだから断るハズないじゃん。私はもうナギっちのモノだよ」
「……ありがと」
「うん、改めてよろしくね」
また歩き出す
朝と違ってマフラーは私にしか巻かれてないのにお互いの距離は近い
綾坂の家の前でどちらともなく触れないキスをして別れた。
「これデキてるわ!!」
道端で叫んだから前を歩いていた通行人がビクッとして振り返ったが、今の私に気にしてる余裕はない
デキてたからだ
最後のなんなの?
なんにも言わないでキスしたじゃん!
お互いに目閉じてたじゃん!
あんなの一歩どころか0.1歩間違えたら触れてたじゃん!
マジで綾坂と付き合うかもしれない
そしたら『お姉さま』どうすんの?
もう分かんない!
混乱したまま自分の家に帰り二階に上がる
自室に入るとメイド姿の姉が正座していた。
夜凪奈凪の誕生日は甘酸っぱいままで終わらない




