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限界

幸いにも頬の跡は一日で消えた。

放課後に今日も頑張りますかと伸びをしてから立ち上がると綾坂に声を掛けられた。


「ナギっち今日は部活来てよ」

「後で顔出すよ」

「最初から来てよー」


腕を掴まれてブンブンされた。

私が部活に行かないと綾坂以外、先輩だけになるから気疲れするのだろうか?

いや、そういうタイプじゃないな


「来てよー」


腕がまだ痛いみたいだし、やっぱ今日は部活に出て大人しく座っとこうかな?

あ、腕が痛いのはコイツがブンブンしてるせいか……


「分かったからそれ止めて」

「やったー!」


綾坂に無理矢理バンザイさせられた。

まだ教室に残ってた委員長と目が合ってお互いに顔を背ける。


「そういや麗奈先輩がナギっちに聞きたいことあるらしいヨー」

「ええ……なんだろ?」

「さー?」


他にやらかした覚えはないのだけど、激しく嫌な予感がする。

沈んだ私の手を取りながら綾坂は元気いっぱいに部室に向かって歩み出した。




部室に入り、席に座るなり紅茶を淹れてくれた愛花先輩にお礼を言ってから麗奈先輩に話しかける。


「麗奈先輩、ありがとうございました」


まず、麗奈先輩が100人に抱かれる課題をくれたことへのお礼をしておくべきだ

私に何か聞きたいことがあるらしいが、それは後で良い

機嫌取ってるワケじゃないよ!


「私がなにかしたかしら?」

「気づいたんです。麗奈先輩は『お姉さま』を探すアシストとして100人に抱かれろって言ってくれたんですよね?」


その通りじゃ、ふぉふぉふぉっと仙人みたいに笑うかと思ったが、麗奈先輩はあからさまに眉を顰める。


「……貴女、全然分かってないわね。私は貴女の『お姉さま』探しに協力するつもりは一切ないわ」

「えっ?」

「もう100人追加しようかしら?」

「ええーーー!?」


全然違ったらしい

このままだと本当に100人追加されそうなので、話題を逸らすことにした。


「そ、そういえば私になにか聞きたいことがあるんですよね?」

「あからさまな話題逸らしね。まぁいいわ。貴女、またお姉さんに何か言ったでしょ?」

「んん?」

「私にまた構ってくるようになったのだけど?」

「あー」

「あー、じゃないわよ!」


姉に文化祭の時に友達作ってって言ったからそれを実践してるワケか

麗奈先輩を家に呼んだからと言って友達になった訳ではないって話をしたから、麗奈先輩限定だと受け取ってしまった?

友達になるのは誰でも良いんだけどな


「いきなり美術館に誘われたのよ」

「そうなんですか」

「あまり興味ないのに勝手に解説してくるから迷惑だったわ」

「い、行ったんですか!?」

「チケット渡されたのよ。勿体ないじゃない」


聞いてないんだけど

私に隠しごとするなんてお姉ちゃんの癖に生意気だ


「で、今度はこれよ」


麗奈先輩が財布から取り出して机の上に置いた紙を見る。

クラシックコンサートのチケットだった


「デート楽しんで下さい」

「デート言うな!」


クラシックのコンサートってこんなするんだ

よくウチのお小遣いで買えたな

……姉だけ多く貰ってるとかないよな?


「貴女が行って来なさい。きっと夜奈さんもそっちの方が楽しいと思うわ」

「ん、夜奈さん?」

「な、名前で呼べって言われたのよ!」


珍しく赤くなった麗奈先輩を眺めながらニヤニヤする。

姉のこと名前呼びしてる人なんて家族以外見た時ない

これは思っている以上に親密になってるのかも


「……麗奈が誘われたんだから麗奈が行くべきだと思うけど」


愛花先輩の低い声でニヤニヤが止まる。

彼女はまだ何か言おうとしたが、『お嬢様』が入ってきたので口をつぐんだ


『お嬢様』は愛花先輩を指名したので、彼女はカーテンの奥に消える。

それを見届けた綾坂が麗奈先輩に向かって囁いた。


「愛花先輩怒ってましたヨー?」

「……怒ってないわよ」

「ナギっちはどう思う?」

「あれは完全に嫉妬だったね」

「だよねー」


二人で顔を見合わせて音を立てないようにクスクス笑う


「……愛花の言っていることは正しいから今回は私が行ってくるけど、お姉さんによく言っておきなさいよね」

「なんてですか?」

「私に構うなって」

「麗奈先輩と友達になるなとは言えないですよ」

「抱き合ってお互い気絶するほど苦手なのよ?友達になれるハズないじゃない」

「でも名前で呼ぶくらい仲良くなったじゃないですか?」

「だからそれは強要されたって言ったじゃない」


反論しようとしたが、隣の綾坂に肩をチョンチョンされたからそっちを向いた。


「ねぇねぇ、そもそもなんでこんなハナシになってんの?」

「お姉ちゃんが他人に興味ないから、それを矯正する為に友達を作ってもらおうと思って」

「それがなんで麗奈先輩になんの?」

「元々の知り合いだからじゃない?」

「なんで知り合いなの?」


それは知らない

私も気になったのだが、聞く前に遮られた。


「もうこの話はお終いにしましょう」


麗奈先輩は机に置いてあったチケットを自分の財布に戻してから教科書を取り出した。

勉強なんて普段しないから、明らかに壁を作ってシャットダウンしたのが分かる。


これ聞こうとするといつも有耶無耶にされるんだよな

そんなに聞かれたくないの?マジで元カノ?

んーでも姉に恋人が出来た様子なんて今までなかったしやっぱ考えづらいな



……考えづらいと言えば


綾坂の顔を見る。

彼女はその視線にすぐに気づいて頬に指を当ててウインクした。


「なに見惚れてんノー?」

「綾坂ってさ……」

「うんうん」

「カノジョいんの?」

「どぅえぇ?」


綾坂はあざといポーズをしたまま硬直し、麗奈先輩は綾坂に鋭い視線を送った。


……やらかしたな

テニス部の部長との関係を聞きたかったんだけど、部室で言う話じゃなかった。

考えづらいと思ってたけど、もし本当に付き合ってたら『禁忌』になってしまう


「……なんでそう思うの?」

「か、可愛いからかな」

「そ、そうなんだ……」


咄嗟に誤魔化すと綾坂は照れたが、麗奈先輩は惑わせられなかった。


「待ちなさい。綾坂さんは恋人がいるかちゃんと答えなさい」

「いないですヨー」

「……本当に?」

「過去に私と付き合ってたけどね!」

「「ブーーー!?」」


綾坂と麗奈先輩が同時に吹き出す。

空気を変える為に冗談言ったんだけど本気に捉えられたっぽい

また失言しちゃったよ


「ちゅ、中学の時のハナシですよ」

「そ、それなら『禁忌』に該当しないけど、そういうことはあらかじめ言っておきなさいよね」

「恋人のフリしてただけです。ね?綾坂?」

「……うん。本当に付き合ってたワケじゃないです」

「なんでそんなことしてたのよ?」

「綾坂が男子に告白されまくって困ってたからです」

「奈凪さんではなくて?」

「告白されたことないって前に言いましたよね?」

「……つまり綾坂さんが告白されないように奈凪さんが恋人のフリをしていたってワケね」

「そうです」

「なるほど。合点がいったわ」


麗奈先輩は何かに納得した様子を見せた後、何故か真剣な表情を浮かべる。

先輩の視線の先にある綾坂の顔を見ると、彼女は頬を染めて俯いていた。

どちらの表情の意味も分からない


もう一度、麗奈先輩の顔を見ると、彼女は急に鬼気迫る表情になって素早く立ち上がった。


どうしたんですか?のどの字も出ない内に麗奈先輩は助走もなしに机を飛び越し、猛烈な勢いでソファに駆けて行く


ソファで何かあったと察知し、モニターを見ると『お嬢様』が愛花先輩に恋人同士のような深いキスをしていた。


画面に麗奈先輩の姿が映り『お嬢様』を引き剥がす。

私と綾坂もソファに向かうと、麗奈先輩が『お嬢様』の手首をきつく握りながらカーテンから出てきて部室の外に追いやった。


「愛花っ!!」


入り口から戻ってきた麗奈先輩が凄い剣幕で怒鳴ったので、私と綾坂で愛花先輩を庇うように抱きしめる。


「愛花から離れなさい」

「『お嬢様』からキスしてきたんです!愛花先輩は『禁忌』を犯してない!!」

「それは分かってるわ」

「じゃあ怒らないで下さいよ」


麗奈先輩の手が伸びてきたので私と綾坂は抵抗したが、愛花先輩自身に離されてしまった。


「もう大丈夫だよ。嫌なところ見せちゃったね」

「愛花、貴女誘ったでしょ?」

「……うん」


愛花先輩は乱れた着衣を直しながら素直に肯定した。

先輩から誘った?


「最近の貴女はおかしかったわ。普段ならしないような仕草もしていた」

「そうだね」

「話が盛り上がって対応が遅れたこちらも悪いけど、貴女はもっと重罪よ」

「ごめんなさいじゃ済まないよね」


麗奈先輩は息を吐いてから、少し優しくなった声色で語りかける。


「貴女もうとっくに限界なのよ。今からどうかしら?」

「……大丈夫だよ」


待って、愛花先輩はあの日から一度も噛まれてないの?

あの時、上手い具合に落ち着いたと思ったけど、実は違ったらしい

二人が揃っていなくなる日が無くなったことに気付くべきだったな


「……悪いけど、二人はもう帰ってもらえるかしら?」


愛花先輩が動かないから、ここで噛むってことか

私は事情を知らなくて立ち尽くしてる綾坂の腕を取って帰ろうよと促した。

麗奈先輩の言う通り限界みたいだから、今日噛んだ方が良い


「大丈夫だって言ってんだろ!!」


さっきの麗奈先輩以上の声量で愛花先輩が叫ぶ

彼女はそのまま荷物も持たずに出て行ってしまい、麗奈先輩は空になったソファの上に力無く座り込んだ




帰ってお風呂に入って姉にドライヤーをしてもらいながら愛花先輩にLINEを送ったが返事は返ってこない

よく考えたら部室に荷物置いたままだったから返ってくるはずがない


寝ようとしたら、スマホが短く鳴ったので、もしやと思って確認すると愛花先輩からだった。

スマホはポケットに入れてたみたいだ


返事をしてからカーテンを開けて月を眺める。

……これしかないよなぁ

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