テニス部に潜入!
さっきまでの熱意はどこいったんだよ!
一番苦手なテニス部からにしようとした心意気は良かったんだけど、練習しているテニス部員を目の前にしたら足がすくんでしまって、防球ネットの前で立ち尽くしてしまった。
こっからどうやって抱かれるか完全にノープランだ
練習中に乱入して「抱かせて下さい」って完全に不審者だよね
練習終わってコートから出る部員を労う形で抱きしめる?
コーチかな?
それにしてもテニス部員ってなんで袖まくるんだろ?
可愛い子ほどする気がする。
いや、可愛い子に目がいってどうする?
これじゃ本当に不審者だ
「入部希望かな?」
「うへっ!?」
いきなり話しかけられて、びっくりする。
振り返ると小麦色の肌をした子がラケットを肩に掛けながら立っていた。
「ち、違います」
「それは残念だな。キミ程の才能が埋もれるのは惜しい」
才能?
私がテニス経験者のこと知ってる口振りだ
よく見るとなんか見覚えあるな
「あの、どこかでお会いしたことが?」
「覚えてないのかい?春に僕が勧誘したじゃないか」
「あっ」
思い出した。
確か四月にこの人に勧誘されてテニス部の嫌な記憶が蘇って気分が悪くなって愛花先輩に助けられたんだ
「あ、あの時は失礼しました」
頭を下げる。
最近、思い出して謝ること多いな
他にもなんかやらかしたことありそう
「いやいや、こちらこそ強引に誘っちゃって悪いことをしたよ」
「いえいえ」
頭を下げられたので、こっちも釣られてペコペコ下げてから、気になったことを聞いてみた。
「私がテニスやってたの知ってるんですか?」
「キミって決勝でウチの中学と当たったでしょ?後輩の応援で観に行ってたんだよね」
先輩は白い歯を見せて爽やかに笑ったが、笑顔を返す余裕はない
あの会場に居たってことだよね?
ってことはあの駅を利用した可能性が高いから即ち『お姉さま』の可能性も高い
「勧誘してる途中でキミのこと思い出したんだ。あの時の試合は本来ならキミが勝ってた」
また笑顔を向けられたが、それに応じず一歩踏み出す。
「あの……」
「ん?やっぱり入部してくれるのかい?」
「抱かせて下さい」
先輩は落としそうになったラケットを地面スレスレでキャッチした。
流石に爽やかスマイルを維持する余裕は無くなっている。
「……見かけに寄らず凄いこと言うね。僕のファンなのかな?」
「そうかもしれません」
「そうかもしれないってどういうことかな?」
「先輩が私の想い人かもしれません」
先輩はラケットで後ろ頭を掻いて困ったような顔をした。
「良く分からないけど、僕には恋人がいるからキミに抱かれると浮気になっちゃうよ」
脚の力が抜ける。
『お姉さま』に恋人がいる可能性を失念していた訳ではないけど、こうやって直接言われると心に刺さる。
「ちなみに抱くってどっちの意味かな?」
何を言ってるんだと一瞬思ったが、何を言ってるんだは私の方だった。
ボランティア部で馴染み過ぎた単語だからそっちの意味があるの忘れてた。
「だ、抱きしめる方です!」
「ははっ、そうだよね」
頭をブンブン振る私に対して先輩はまた爽やかスマイルに戻る。
「そっちならいいよ」
「いいんですか?」
「キミのがっかりした顔を見たら無下に出来なくなった」
『お姉さま』に恋人がいるとしても、見つからないよりは全然良い
少し晴れた心で先輩に近寄ると、何故かラケットを渡されて困惑する。
「ただし条件がある」
「えっ?」
「試合で勝ったら抱きしめていい」
「えっ?」
「負けても抱きしめていいけど、入部すること」
「ええーーー!?」
「悪くない条件だと思うよ」
先輩が笑いながら防球ネットを開けてコートに入ると、他のテニス部員から「部長、遅いです」と声が飛んできた。
よりにもよって部長かよ




