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特別な日

11月9日、綾坂の誕生日

私が彼女に告白する日だ


「屋上で良い?」

「ごめん、先に行っててくれる?」

「いいけど……」


放課後に綾坂を屋上に誘ったら先に行けと言われたので、一人で屋上に上る。

屋上は思った通り、誰も居なかった。

内緒話をするのにもってこいだ


スマホで時間潰しをする間もなく、綾坂はやってきた。

どういうわけか、さっきまでのツインテールを解いて肩まで髪を下ろしている。


なんかキラキラして見えるな

これがギャップってやつかな?


「どうかな?」

「可愛いと思うよ」

「ありがと」

「なんで髪下ろしたの?」

「……特別な日だから」


特別な日?

ああ、誕生日だからか

いつ渡そうかと思ってたけど、この流れなら今渡した方が良さそう


「これあげる」

「……嬉しい。開けていい?」

「もちろん」


持ってきていた誕生日プレゼントを渡すと、綾坂は立ったまま器用に包みを開けて中を出した。


「可愛い!」


綾坂はプレゼントのモコモコパジャマを大事そうに胸で抱える。

喜んでくれたみたいで良かった

どうせなら普段使えるモノが良いと思ってパジャマにしたんだ

既に持ってても困らないし


「……もしかしてもうお泊まりすること考えてたりする?」

「えっ?」


綾坂は両手でパジャマを抱えながら悪戯っぽく笑った

どういう意味だろう?

冬休みにボランティア部で泊まりがけの合宿があるなんて聞いてないぞ


「ふふっ、惚けちゃってナギっち可愛い」

「うん?」


言ってる意味は分からないけど、すこぶる機嫌が良いのは分かる。

そんなにプレゼントが嬉しかったのかな?

私と綾坂が誕生日にプレゼントを贈り合うのは毎年の定番イベントなんだけどな


疑問の「うん?」だったのだが、綾坂はモコモコに顔を埋めて黙ってしまった。

さっきからなんか変だけど、私が喋る番みたいだから言ってしまおう


「綾坂」

「……はい」


なんで敬語?

ちょっと気になったが、ちょっとなのでつっこむのは止めて話を続ける。


「今まで隠してたんだけど」

「……はい」

「さっきからなんで敬語?」

「緊張してるだけ」


二回目は抑えきれなくなって指摘してしまったが要領を得ない

どちらかと言うと緊張するのは私の方だと思うのだけど


「私の方が緊張してるよ」

「ふふっそだね」


綾坂がモコモコを口元に当てたまま答えたので、それマスクじゃないよと言おうと思ったが話がどっかいきそうなので本題に入ることにした。


「星七先輩が『お姉さま』かもしれない」

「……は?」


場の雰囲気が変わったのを感じる。

やっぱり合ってたか


「星七先輩が『お姉さま』か確かめていい?」

「なんでそれ私に聞くの?」

「先輩のこと好きなんでしょ?」

「なんでそうなるし!?」


綾坂は、んがーっとモコモコパジャマを空に掲げて叫んだ

照れ隠しじゃないっぽい

勘違いだった?


「星七先輩と良い感じだと思ってたけど」

「なんでそう見える!?」

「楽そうに喋ってたから」

「私が誰かと仲良くしてたら惚れてると思うの!?」

「そんなことないけど」


惚れてないみたいだ

こっちとしてはその方が好都合かな


「なんかごめん」

「……話ってそれだけ?」

「うん」


頷くと綾坂が無言で近づいてきて、持っていたモコモコの袖で耳を強く塞がれ、くぐもった声が骨の奥で跳ねた。


「――っ……ナギ、……き!」


綾坂は、何かを叫んだが、単語は断片的で言葉にはならない

訳がわからず戸惑っていると、彼女は小さく息を吐いてからモコモコを私の耳から離した。


「……何回、ダブルフォルト打てば気が済むの?」

「えっ?」

「いい、こっちのハナシ。ちょっとこれ持ってて」


モコモコを押し付けてきた綾坂は、ポケットからヘアゴムを取り出して手早く髪を結い直す。

元の髪型に戻ると、手を差し出してきたので、モコモコを返した。


綾坂ってテニス経験ないよね

何かの例えだろうけど、なんでダブルフォルトって単語を使ったんだろう?

最後の大会、ダブルフォルトで負けたからその単語にはグサリとくる。


「とにかく、今後ナギっちは勝手に私の好きな人、想像するの禁止」

「じゃあ教えてよ」

「もう言った」

「ええ……聞いてない」


本当に言われた覚えがないのだが

綾坂の好きな人って結局誰なんだろう?


あ、想像するの禁止か

でも私にとって綾坂は一番大切な友達だから知りたいな……


「てか星七先輩のことが好きになったとかないよね?」

「先輩のことを『お姉さま』だと疑ってるだけ」

「『お姉さま』を無条件で好きになるの止めたってこと?」

「そういうこと」

「その心掛けは褒めてやる」


そういえば、綾坂に「『お姉さま』に拘らないで好きな人を選べ」って前に屋上で言われたな

アドバイス通りにしてるから褒めてくれたってことか


「なんで星七先輩が『お姉さま』だと思ったの?」

「夏祭りで子供を抱きしめてたの見かけた」

「それ弱くない?」

「そうかもしれないけど、他に候補いないし」

「そもそも三年だから候補じゃないっしょ」

「先輩は赤リボン付けてる」


スマホで自分の髪型をチェックしながら喋っていた綾坂は私の方を見て、ちょっと口籠った後に次の疑問を切り出してきた。


「……星七先輩が『お姉さま』だったらどうするの?」

「お礼を伝える」

「そっか、それはしないとだね」


ポッケにスマホを仕舞った綾坂が空に向かって大きく伸びをした。


「部活行く?」

「うん」

「気分転換に付き合ってよ」

「サボるってこと?」

「今日は我の誕生日ゾ」

「何キャラだよ」

「ダメ?」

「仰せのままに」

「流石、ナギっち!」


綾坂は私の手を取って走り出した。

屋上から出て一緒に階段を駆け降りる。

途中ですれ違った先生に注意されたので、二人してくるりと振り返って頭を下げる。

でも手は離さない、先生が居なくなったのを見計らって顔を見合わせてから笑ってまた走った。


綾坂の特別な日を一秒でも長く一緒に楽しみたい

特別な日じゃなくてもずっとこんな風に笑い合っていたいな

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