『お嬢様』じゃなくてお嬢様
姉が部室に興味を失ったのでフライドポテトを食べに行くことにする
このまま有耶無耶に出来るかと思ったがまた恋人繋ぎされた。
校舎を歩くと周りの視線が突き刺さる。
姉は生徒会長で有名人だから手を繋いでいる子は誰かと顔をジロジロ見られる。
「あの子だれ?」
「似てるから妹じゃないの」
「手を繋いで仲の良さを見せつけてるつもりなのかね?」
「きっとそうでしょ」
「まぁあんな姉を持てば自慢したくもなるか」
私から手を繋いでると思われてんじゃん
違いますと一人一人に言って周りたい
中庭の屋台でフライドポテトを買ってもらう
さて、お味はどうかな?
学生が作ったものでも容赦なく評価するぞ
「奈凪ちゃん」
「なに?」
「あーんして」
正気か?
姉が私の口元に差し出してきたポテトを睨む
学校で手を繋ぐのは百歩譲って良いが、これはいくらなんでも無理だ
姉妹以上の関係を疑われかねん
「……奈凪ちゃん」
「うっ……」
拒否の姿勢を示していたら悲しそうな顔をされてしまった。
やるしかないかぁ
私って姉のこの顔に弱すぎる
差し出されていたポテトを目を瞑って、はむっと咥えて食べた。
周りの視線が怖すぎて目を開けられない
「姉妹仲良すぎ」
聞き覚えがある声がしたので、目を開けると星七先輩が居た。
また変なとこ見られた
「付き合ってたりする?」
「付き合ってません。部活で変なこと言わないで下さいよ」
「あ、そろそろ交代」
星七先輩は私の言葉を無視して屋台に入っていった。
フライドポテトのクラスだったのかよ
事前に調べとけば良かった。後で絶対バラされるよ
「本当に恋人だと思われちゃったね」
「嬉しそうにしないでよ」
座っていたベンチから立ち上がるとすぐに手を繋がれる。
「次は奈凪ちゃんのクラスに行きたいな。脱出ゲームだよね?」
「だったら手離して。クラスメイトに見られるのやだ」
「今日一日、恋人ごっこしてくれるって約束したもん」
一日なんて聞いてないんだけど!?
まさか家帰ってもするつもりなの?
憂鬱な気分で私のクラスに行く
幸いにもイジってきそうな綾坂の姿は見当たらない
部室に行ったのかな?
脱出ゲームは怪しい洋館に閉じ込められたという設定で、教室に散りばめられた幾つかの謎を解いて脱出するというものだ
委員長が進行役を担っているのだが、私達の繋がれた手が気になるらしく説明がおぼつかない
他の脱出ゲームの参加者もゲームどころじゃないみたい
こんなんでクリア出来るのかなと思ったが、姉が手を繋ぎながら教室を縦横無尽に駆け巡って全ての謎を解いてしまった。
「面白かったね」
「う、うん」
1時間想定のゲームを10分で解くなよ
時間稼ぎになんなかったじゃん
次はどうしようか?
軽音部のライブにはまだ時間あるし
先輩たちのクラスのお化け屋敷に行こうかな
校内をブラブラするよりそっちの方が注目を集めなくて済む
「あっ」
「どうしたの?」
「ここ入ろ」
「奈凪ちゃんはこういうのが好きなの?」
「違う。ちょっと疲れただけ」
「ふふっじゃあ入ろっか」
お化け屋敷より良い所を見つけた。
メイド喫茶の看板を掛けている教室に入る
ここなら時間稼ぎ出来るし、向かい合って座れば手を繋がなくて良い
受付のメイドさんに「お帰りなさいませお嬢様」と挨拶されてから席に通される。
なんか言われたこっちが恥ずかしくなるな
ウチのクラスはメイド喫茶にならなくて良かった。
「奈凪さん?」
注文を取りに来てくれたのは詩織さんだった。
当然ながらメイド服を着ている
そういえば彼女のクラスはメイド喫茶をやるって言ってたっけ
「詩織さん可愛い」
「は、恥ずかしいのであまり見ないで下さい」
「凄く似合ってるよ」
「うう……どうしてこのメイド服はこんなに丈が短いのでしょう…」
メイド服とかコスプレの類にあまり興味は無かったが、詩織さんは本当に良く似合っている。
裸を見せるより恥ずかしいのか、スカートの丈を手で抑えてる姿が可愛らしい
これが絶対領域かぁ
「……知り合いかな?」
姉の声で我に帰った。
彼女は考え込むような表情で詩織さんを見つめている。
なに考えてるのか分からない
「う、うん。詩織さんだよ。別荘に招待してくれた子」
「初めまして奈凪ちゃんのこい……」
「姉だよ!」
「こい?」
「濃い姉だよ!キャラ濃いでしょ!」
姉の自己紹介を途中で遮った。
今、恋人って言おうとしただろ!
オムライスとパフェを注文する。
私がオムライスで姉がパフェだ
さっきフライドポテトを食べたからお腹はすいてないけど、それでもオムライスを頼んだのは訳がある。
姉は詩織さんが私達の注文を取り終わって他のテーブルに行ってもその姿を目で追っている。
本当にどうしたんだろ?惚れた?
「お待たせいたしましたオムライスとパフェでございます」
「ありがと」
「……何をニヤニヤしているのです?」
ご指摘の通り、私はニヤついている。
今から起こることが楽しみで仕方ない
この為にオムライスを選んだのだ
「早くアレやってよ」
「……仕方ないですね」
詩織さんは指でハートの形を作る。
「……モエモエキュン」
「全然心がこもってないじゃん。やり直してよ」
「奈凪さんの癖に生意気です」
「口答えするメイドの方が生意気ですー」
最近詩織さんにやられっぱなしだったから気分が良い
今日は私がお嬢様だからこれくらいのワガママはいいよね
詩織さんは小さく息を吐いてからもう一度指でハートの形を作った。
今回は膝を曲げてポーズを取っている。
「も、萌え萌えきゅん♡おいしくなぁ~れ!」
「ふふっありがと。きゅんきゅんしたよ」
「……屈辱です」
姉に構ってなかったので機嫌悪くしてないか心配になったけど、彼女は首をかしげながら指でハートの形を作っていた。
異文化を理解しようとしてる?
「メイドからのメッセージです」
「わ、わぁーホントに美味しいなー」
詩織さんがオムライスにケチャップで文字を描きだしたが、途中でスプーンを刺してかっこむ
今、ス♡キって描こうとしただろ!
私の予想は正解だったらしく、詩織さんは軽く微笑んでから自分の頬を軽く触って下がって行った
私達にしか通じないサインだが、姉の前でやられるとどきりとする。
結局、詩織さんには勝てないのかぁ
メイド喫茶から出るとすぐに手を繋がれた。
周りの視線に馴れてきた自分が怖い
当初の目的のお化け屋敷に行くことにする。
ちょっと並んでから入ると思ったより本格的なことに気づく
文化祭と侮り過ぎたかな?
おどろおどろしくて結構怖い雰囲気だ
自然と握った手に力が入ると、私の感情が伝わったのか姉が声を掛けてきた。
「怖い?」
「怖くない」
「お姉ちゃんがついてるからね」
「うるさい」
強がりを言ったが実際は怖い
目の前の井戸のセットから何か出てきそうだ
「っ!?」
案の定、井戸から白い手が伸びてきた
思わず後ずさる
「……え?」
急に冷静になった。
井戸から金髪が覗いたからだ
金髪はそのまま私達の前に這いずってくる。
「……少しは怖がりなさいよ」
「金髪巻き髪の幽霊で怖がるのは難しいですね」
金髪貞子の正体は麗奈先輩だった。
人選ミスではなかろうか?
金髪の幽霊なんてピザの上に寿司を乗っけるようなもんだろ
……ごめんやっぱ今の例えなしにして
「カツラくらい用意出来なかったの?」
「どこかの生徒会が予算ケチるからそこまで回らなかったわ」
「黙れ。来年の予算をエナジードリンクにするぞ」
「お姉ちゃん、その脅し好きだね」
「はいはい、ここはデートスポットじゃないんだから立ち止まらない」
麗奈先輩に押されてお化け屋敷から出た。
先輩にも手繋いでるの見られちゃったよ
姉に「そろそろ軽音部のライブ行こうよ」と促されたが、さっきのやり取りで思い出したことがある
「お姉ちゃん麗奈先輩と最近どうなの?」
「どうって?」
「友達作ってって言ったじゃん。家呼んだだけじゃ友達判定にならないから」
そもそも友達を作って欲しいから『恋人ごっこ』に付き合っているのだ
今日は楽しかったで終わっちゃ困る。
「どうしたら友達って言えるの?」
歩きながら考える。
数少ないサンプルを参照して答えを捻りだす。
「気兼ねなく話したり黙ってても気まずくないのが友達かな」
「それならもう出来てるよ」
うーんなんか違う
悪い意味で気にしてないだけじゃないかな?
「お姉ちゃんは麗奈先輩が困ってたらどうする?」
「追い打ちをかけるわ」
「じゃあちげーよ」
追撃すんなし!
先が思いやられるなぁ
頭は良いけど、肝心なところが欠落していると思う
「とにかく!友達は作ってよね。約束だから」
「分かった」
本当に分かったのかなぁ
不安になったが、ライブ会場の体育館に着くとすぐに演奏が始まったので、口を噤んだ




