死因、抱擁
少し寒くなってきたから朝起きるのが辛い
今日は休日だしもうちょっと寝てよ
寝返りを打った所でいきなりノックも無しに自室のドアが開いて血相を変えた母親が飛び込んできた。
「夜奈が!夜奈がっ!」
「お、落ち着いて、お姉ちゃんがどうしたの?」
一気に目が醒め、私も青ざめた。
これは只事じゃない
具合が悪くなって部屋で倒れた?
それとも私が寝てるうちに外に出て事故に遭った?
「夜奈が友達連れて来た」
「は?」
姉の部屋に入ると麗奈先輩が居た。
母親が金髪でモデルみたいな美女って言ってたから予想はしていた。
二人でババ抜きしてるーーー!?
「まだ寝ていたのかしら?」
「麗奈先輩、なんでいんの?」
「貴女の姉にしつこく呼ばれたから仕方なく来たのよ」
「余計なことは言うな。さっさと引け」
麗奈先輩が溜息を付いてからカードを引く
ジョーカーだった。
勝った姉は喜ぶ素振りも見せずにカードを配り出す。
「もういいでしょ」
「なら七並べにするわ」
「そういう意味ではなくて…奈凪さん何か言ってやってよ」
「お、お姉ちゃん、トランプは一旦やめようよ」
「奈凪ちゃんがそう言うなら……」
姉を止めてからリビングに降りて飲み物を取ってくる。
友達エアプ過ぎるんよ。
「粗茶ですがどうぞ」
「牛乳じゃないのよ」
「身長高いから好きかと思って」
「奈凪ちゃん、この女に牛乳は勿体ないわ。牛の乳を直飲みさせとけば良いのよ」
「牛連れてくるのは面倒だなぁ」
「なんなのこの姉妹」
麗奈先輩は文句を言いながらも牛乳を飲んだ
嫌いではないらしい
また姉がトランプを配りそうになったので、手で制す。
「トランプよりお話ししようよ」
「そうね。奈凪ちゃんは学校のお勉強についていけてるかな?」
「い、いや私じゃなくて折角なんだから麗奈先輩に話降ってよ」
「部活の奈凪ちゃんはどう?」
「どうと言われても困るわね。頑張っているとは思うけど」
家庭訪問かよ
話題を私から離せ
「だって奈凪ちゃん。とても良く頑張ってるって」
姉が私を撫でようと手を伸ばしてきたので仰け反ってかわす
麗奈先輩の前でやんな
「……貴女、妹相手だとそんな風になるの?イメージと違うから気持ち悪いわ」
「うるさい黙れ」
「お姉ちゃん、麗奈先輩に辛辣過ぎるよ」
「この女は奈凪さん以外にはこんな感じよ」
「余計なことは喋るなと言った」
「まぁ薄々分かってはいましたけど」
「奈凪ちゃん?」
姉は私以外に興味がない
だからそれを直してもらおうと友達を作ってって言ったんだけど、まさか麗奈先輩を連れてくるとは思わなかった。
一応知り合いらしいから消去法でこうなったのかな?
「で、そろそろ私を呼んだ目的を話してもらえるかしら?」
「それは多分、私がお姉ちゃんに友達を作ってっと言ったからですね」
「なんでそんなこと妹の貴女が言うのよ」
「知っての通り、お姉ちゃんは私以外の人に興味がないからそれを直してもらおうと思って……」
それを聞いた麗奈先輩は腕を組んでまた溜息をついた。
「だったら私じゃなくて生徒会の人間で良いじゃないのよ」
「生徒会は私の駒だから友人にはなりえない」
「ですって、麗奈先輩は駒だと思われてませんよ。良かったですね」
「良かないわよ」
今度は私が腕を組んだ
このままだと二人が友達になるのは難しい
何か共通の話題ってないのだろうか?
「あ、そうだ。二人はどうやって知り合ったの?」
「え、なんだったかな?忘れちゃった」
姉は答えながら前髪の髪留めに触った。
……何故こんな質問に嘘をつく必要がある?
麗奈先輩に視線を移したが、彼女も答える気はないようだ
元カノだったりすんの?
いや、姉に限ってそれはないよな
麗奈先輩だって『禁忌』に当たるし、百合色に頭がバグり過ぎだ
「貴女いくつ私に借りを作るつもりなの?」
「黙れ。部費をエナジードリンクにするぞ」
借り?
貸し借りがあるということは、知り合いよりは深い関係なのかもしれない
ところで部費をエナジードリンクにされたら私にもダメージがくるから止めてくれ
「それにしても殺風景な部屋ね。机の上にあるバラ以外、装飾と呼べる物が全く無いじゃない」
「そんなものは必要ない」
「奈凪さんの部屋はどうなのかしら?」
「あ、私の部屋見ます?」
「奈凪ちゃんの部屋に盗撮カメラを仕掛けるつもりじゃないでしょうね?」
「お姉ちゃん!?」
すぐそういう発想になるの怖いんだけど、なんかしてないだろうな?
疑念を浮かべつつ私の部屋に移動する。
「姉の部屋よりは人間味があるわね」
「綺麗にしてるのも褒めて下さいよ」
「整理整頓だけじゃなくて規則正しい生活も心がけなさい。休みだからって昼まで寝てるのは感心しないわ」
「奈凪ちゃんに説教するな!可愛いから良いの!」
「良かないわよ」
いちいち姉が麗奈先輩に噛み付くなぁ
二人を仲良くさせるにはどうすれば良いのだろう?
やり方は強引だが、姉が私との約束を守って友達を作ろうとしているのは事実だ
だから出来るだけ彼女を後押ししたい
今日でいきなり友達になるのは難しいと思う
でも一歩前進はさせたい
その為には何をする?
偉そうに姉に友達作れって言ったけど、私も友達少ないんだよな
数少ない友達を思い浮かべてみる
綾坂は子供の時にあっちから「一緒に遊ぼうよ」って声を掛けてくれた
一緒にゲームでもさせてみる?
うーん、さっきのトランプと変わらないような
詩織さんは『お嬢様』で抱き合ってたら仲良くなった
……これだ
「お願いがあるんだけど」
「なにかな?」
「二人で抱き合ってよ」
部屋が静まり返る
自分の部屋なのに居心地が悪い
「いくら奈凪ちゃんの頼みでもそれはちょっと……」
「こっちこそお断りよ。電柱とハグした方がマシだわ」
案の定、二人の反応は最悪だ
でもここで引く訳にはいかない
「このまま進展しないで終わるんですか?こんな機会ないんだし、素直になってやって下さいよ」
「そもそも私は友人になるつもりはないわ」
「生徒会長と仲良くなったら色々便宜を図ってくれるかもしれないじゃないですか」
「打算で友人を作る気はないわ」
「あーもう!!別荘でやらかしそうになったことお姉ちゃんに言いますよ!?」
「……後で覚えときなさいよ」
「別荘?奈凪ちゃんコイツに何かされたの?」
「私じゃないよ」
「だったら興味ない」
よし、脅す形になってしまったが、とりあえず麗奈先輩は説得出来た
後は姉なんだけど、あれを持ち出して脅すのは流石に可哀想だよね
だったら自分を餌にするしかないかなぁ
気乗りしないけど
「お姉ちゃん私に何かやって欲しいことある?」
「……恋人ごっこしたい」
「きついなぁ」
思ってたよりきついのがきたよ
恋人ごっこって何するんだ?
「一緒に住んでて大丈夫なの?シスコンの度合いを超えてると思うのだけど……」
さっきまで私を睨んでいた麗奈先輩に心配される
私もそう思います。
「奈凪ちゃんを奪って自分の妹にするつもり!?」
「いちいち麗奈先輩に突っかからないでよ。恋人ごっこでもなんでもするから早く抱き合って」
「なんでもするとか言って大丈夫なの?」
なんでもするのは明日以降の私に任せよう
とりあえず説得することは出来た。
二人を向かい合わせに座らせる。
「ちゃっちゃと済ますわよ」
流石ボラ部、部長
スマートな動きで姉を抱いた。
「くっ、奈凪ちゃん以外に抱かれるなんて」
誤解を招く発言は控えて欲しい
二人が離れそうになったので無理矢理くっつける。
未来の私が多大な犠牲を払うんだから、こんなすぐに離れるのは認めない
「嫌々やるんじゃなくて、仲良くなるつもりでやってよ。そうすれば相手の気持ちが伝わってくるよ」
「憎悪が伝わってきたわ」
「奈凪ちゃんの言う通りね。ちゃんと気持ちが伝わったわ」
「憎悪を伝えないでよ。もう気持ちはいいからそのまま抱き合っててよ」
少し離れて観察してみる。
そんなに嫌なのかな?
見た感じだと類稀な美人同士でかなり映えてるんだけど
思わずスマホで撮影してしまった。
基本は麗奈先輩と愛花先輩の組み合わせが好きだけど、このカップリングも推せる
「なんで撮ったのよ」
「奈凪ちゃん、もういいかな?」
「もうちょっとだけそのままで居て、別の角度も撮りたい」
二人の周りをぐるぐるしながら撮影した。
こんなとこかな
当初の目的から外れてしまったが、一歩くらいは前進したと信じたい
「ふぅ、もういいよ」
声を掛けたのにどちらも動かない
離れたくなくなった?
一歩どころか百歩進んだ?
「……気絶してる」
抱き合ったまま、彫刻のように固まっている。
私も固まったまま眺めていると、二人の口から血が流れてきた。
胃に穴開いてるじゃん
そこまで過度なストレスだったの!?
というか生きてる?
死んでたらお巡りさんになんて説明しようか考えたが、なんとか生きてて助かった。




