女か妹か
お風呂から上がって姉に髪を乾かしてもらう
これが夏祭り後に出来た私達姉妹のルーティンだ
今の姉は私に触れるのに躊躇しなくなっている
それが嬉しい
ドライヤーで乾かされながらソシャゲのランクマをこなしていると、姉が話しかけてきた。
「友達は出来たかな?」
夏休み後にする話題じゃないだろと思ったが、よく考えたら春はこんな風に自然に会話する仲じゃなかったから聞きたくても聞けなかったんだろう
そう考え直して素直に答えることにする。
「そんなにいない」
「そうなんだ」
クラスでは綾坂のグループに入れてもらってるけど、綾坂以外は友達としてカウント出来るほど深い繋がりはない
部活のみんなは友達だと思ってる
クラスだとあまり喋らないけど、部室だと結構饒舌になる自分がいる
詩織さんは友達としてカウントするとなんか怒りそうだな
総論すると私の友達はボランティア部のみんなだけで「そんなにいない」と言うのは間違いではないのだ
「お姉ちゃんは?」
「いないよ」
随分きっぱりと言い切りましたね
薄々そうなんじゃないかなって思ってたけどね
「友達いらないの?」
姉は人気がある
生徒会長として壇上に立つと黄色い歓声があがる
その気になればいくらでも友達を作れると思う
「いらないかな」
「なんで?」
「奈凪ちゃんがいればそれで良いから」
夏祭りの時に言った「前を向いて欲しい」という言葉と逸脱している。
私以外にも視野を広げて、他のことにも興味を持つべきだ
それが前を向くということだと思う
「友達作って欲しいな」
「どうして?」
「お姉ちゃんに友達が出来たら嬉しいから」
「……考えておくね」
少しずるい言い方だと思ったが、考えてくれるようだ
ほっとしていると、姉がドライヤーを止めた。
どうやら終わったらしい
「お姉ちゃんの髪もやって欲しいな」
「ええっ!?私ヘタだよ」
姉は私よりも髪が長いから手間が掛かるし、下手なことをして彼女の美貌を損ねることがあったら大変だから全力で断りたい
「奈凪ちゃんにやって欲しいの。駄目かな?」
「うん、だめ」
「じゃあ友達作らない」
「ええ……」
交換条件を持ち出してきなすった!
最近ちょっと調子乗り過ぎだと思ったが、それを指摘するとシュンとしてしまいそうなので、条件に乗ることにする。
お風呂上がりの姉の髪を乾かしながら考える
彼女に友達が出来た後に、次は恋人を作ってと言ったらどんな反応をするんだろう?
姉は私しかいらないと言ったが、それって恋愛的な意味で言ってるのかな?
妹の私が好きだからああいうことをした?
それとも女の私が誘ってる顔をしたからああなってしまった?
「お姉ちゃんって恋愛対象女なの?」
「え?ごめん聞こえなかった。なにかな?」
「やっぱいい」
遠回しに聞いてみたが、ドライヤーの音にかき消されて聞こえなかったようだ
聞こえなくて良かった。姉の返答次第ではドライヤーを頭にごちんと落としそうだ
この質問は解答を用意してからしよう
ドライヤーを切ると、私のスマホが鳴った。
確認してみると愛花先輩からで「明日、噛んでもらって良いかな?」とメッセージが来ていた
「良いですよ」と返信する
……ついに明日かぁ
大丈夫、噛むだけだ
なんにも緊張することはない
姉が「誰かな?」とスマホを覗いてきたので髪をくしゃくしゃにしてやった
最近ほんとに調子乗りすぎ
翌日の放課後、教科書を片付けていると綾坂が寄って来た。
いつも通りの流れだ
「ナギっち部活行こ」
「先行ってて」
「なんで?」
「愛花先輩と予定あるから」
綾坂には何故か嘘が通じないので正直に答える
思った通り彼女は訝しげに私の前髪を見た。
「愛花先輩とそういう関係だったりすんの?」
「違うから。すぐそういう想像するな」
「じゃあ何するの?」
「……言えない」
「へー言えないことするんだ」
「すぐそういう想像するなって言ってんじゃん」
教科書を鞄に放り込んで席を立つ
私の方が背が高いので綾坂の視線が少し上になった。
「ごめん、でも隠しごとされるとちょっと傷つく」
「……もう行くね」
鞄を肩に掛けると、綾坂にブレザーの袖を掴まれる
まだ何かあるのかと、今度は私が彼女に訝しげな視線を送った。
「何かあったら相談してよ」
「うん、ありがと」
「元カノをもっと頼りたまえ」
「ちょ、ちょ、ちょ!?」
周囲を見回したが、幸いにもクラスメイト達は放課後の予定の相談で忙しいらしく聞こえてなかったようだ
文句を言おうとしたが、綾坂に背中を押されたのでべーっと舌だけ出して抗議の意を表した。
階段を上がって空き教室を目指す
前に愛花先輩を噛んだ部屋だ
教室に入ると既に愛花先輩が居た。
隅に両膝を立てて座っている。
「来てくれたんだ。嬉しいな」
「約束したじゃないですか」
愛花先輩の隣に腰を下ろすと彼女は姿勢を正した。
「噛んでもらう時に私の過去を話すって言ったよね」
「無理に言わなくても良いですよ」
「ううん、聞いて欲しいの」
いよいよかと思ったが、愛花先輩は膝を抱えながら黙っている
よく見ると小さく震えているようだ
いたたまれなくなって愛花先輩を抱きしめる。
「奈凪ちゃん?」
「大丈夫です。どんな過去があっても受け入れます」
「……ありがとう」
「国家転覆ですか?」
「ふふっそこまでじゃないよ」
落ち着いたのか、愛花先輩はゆっくりと語り出した。




