花火と一緒に消えた罪
夏祭り当日、姉がニコニコしながら浴衣を手渡してきたから思わず受け取ってしまった。
箱根Tシャツで行こうと思ってたけど、こうなったらもうこれを着るしかない
お母さんに着付けしてもらって姉の前に出ると、彼女はあらゆる賛辞を述べた。
お前の方が100倍似合ってるだろ
慣れない下駄に苦戦しながら電車に乗って、お祭り会場に着いた。
そこまで都会ではないのだが、想像以上に人が居て面食らう
「奈凪ちゃん?」
「……お姉ちゃんが逸れると面倒くさいから繋いでやる」
「うん、ありがとう」
姉は嬉しそうに繋いだ手を振った。
こんなふうに手を繋ぐのはいつ以来かな?
少なくともあれがあってからは一切ない
一緒に歩くのも久しぶりだ
中学の時に姉との差を感じてから彼女と一緒になるのを避けていた。
比較されるのが嫌だったからなんだけど、今思えば比較するのもおごがましい
姉はテストの度に学年一位だし、容姿もずば抜けている
似てると言われたこともあるけど、そんなのはお世辞だ
とにかく私と姉じゃ住む世界が違う
それに気づいたからこうやって隣を歩けるようになった。
「奈凪ちゃん、りんご飴だよ」
「食べる」
買って貰ったりんご飴を舐める
姉はいちご飴を買った。
途端にそっちが欲しくなる。
「それも欲しい」
「奈凪ちゃんは食いしん坊だなぁ」
「食いしん坊じゃない、交換だから」
姉にりんご飴を押し付けると、彼女は戸惑いながらいちご飴を差し出した。
いちご飴のビニールをとって舐める
味、一緒の気がする……
「食べないの?」
「え、食べるよ」
姉は少しだけ舌を出してりんご飴に触れる
そのペースだと一年後も食べ終わらなそう
……なに意識してんだか
「たこ焼き!」
姉の手を引っ張って、たこ焼きを買わせる
ちょうどベンチが開いたので、そこに座って食べ始める。
「部活は楽しい?」
「楽しいよ。生徒会は?」
「やり甲斐はあるよ」
「そっか」
まぁ楽しくはないか
学校で、生徒会の面々に指示をしている姉を見た時あるけど、私の前では見せないような険しい表情をしていた。
「奈凪ちゃんも生徒会やってみる?」
「ええっ!?無理だよ」
「部活と掛け持ちしている子もいるし、無理じゃないと思うよ」
「いやいや、部活抜きでも無理だから」
姉と一緒にいることは大丈夫になったけど、一緒に仕事をするのは無理だ
だいたい姉は何の目的で私を生徒会に入れるつもりなんだ?
生徒会長が妹に引き継がれたら反乱が起こると思う
たこ焼きを食べ終わったので、姉が食べている焼き鳥を奪うことにする
「お姉ちゃんそれちょうだい」
「新しいの買ってあげるよ」
「また戻るのやだ、それで良い」
「もうこれ冷めちゃてるよ」
「それで良いって言ってるじゃん」
足をバタバタさせていると、見知った顔と目が合った。
「パシ、奈凪だ」
「あ、星七先輩」
星七先輩だった
今、パシリ2号って言いかけただろ!
姉にバレたら消されるぞ
星七先輩は小学生くらいの女の子と手を繋いでいる
歳が離れてるけど妹だろうか?
「その子、妹ですか?」
「私の妹はもっと大きい、この子は迷子らしくて親探してた」
「めちゃくちゃ良いことしてますね」
「評判上げてフォロワー増やすのが目的だから」
そう言いながらも星七先輩は恥ずかしそうに耳の後ろを掻いた。
スマホも持ってない子供を助けてもフォロワー稼ぎにならないと思う
普通に良いことなんだから恥じる必要はないのに
「奈凪のお姉ちゃん?」
「初めまして、奈凪ちゃんの愚姉の奈癒と申します」
「やっぱりか、奈凪が子供みたいに駄々こねてたからそうだと思った」
「……部活で言わないで下さいよ」
妹ムーブ全開だったのを見られてしまっていた
一番見られちゃいけない人に見られたよ
パシリ2号から奴隷1号にされそう
「お姉ちゃん、この人見たことある?天宮星七って言って人気インフルエンサーなんだよ」
「んー奈凪ちゃん以外はコクワガタに見えるから分かんないな」
「コクワガタ!?」
コクワガタ先輩が驚いたところで、手を繋いでた子供がぐずり出したので、先輩は子供を抱きしめた。
「大丈夫だよ。おねーさんが絶対にママの所に連れて行ってあげるからね」
星七先輩が子供の髪を撫でた時、夏のベンチの光景が浮かんだ
……星七先輩は三年だ、そんなはずはない
いや、彼女は三年の緑リボンが可愛くないという理由で『お嬢様』とリボンを交換して赤リボンになったから『お姉さま』の可能性はある。
たしか、一度確かめようとした時がある
あの時は直前で私が断った。
私はまだ星七先輩を抱いていない
「あ、あれママかな?」
星七先輩に確認しようとしたが、女の子の母親が走り寄ってきてそれは叶わなかった。
「……花火始まるよ」
「うん」
姉に手を引かれたので立ち上がる
星七先輩だったら後で確認出来るから良いかな
色取り取りの花火が上がる
花火が上がる度にこの夏の思い出が蘇る
今年の夏は充実していた。
ボランティア部で詩織さんの別荘に行ったり、綾坂と色々な所で遊んでくだらない話をしたりした。
自分史上最高な夏になったと思う
来年も更新できたら良いな
勉強はどうしたって?聞くな!
「ちゃんと花火見てよ」
「奈凪ちゃんの方がき……」
「それ以上言ったら置いて帰るから」
姉を軽く睨むと、彼女は笑って夜空を見上げた。
「お姉ちゃん」
「なぁに?」
「こっち見ないでったら」
「見てないよ」
「見てるじゃん、私の顔なんていつでも見れるんだから花火見てよ」
「いつでも見てたい」
姉の顔を無理矢理、花火に向ける
つまんないこと言うな
「大事な話があるから真面目に聞いて」
「……うん」
三尺玉が上がり、どーんと大きな爆発音がした
夜空を覆い尽くした花火が夏の空に消えてから呟く
「もう気にしてないから」
姉はまた私の顔を見た。
目には大粒の涙を浮かべている
前にも泣かしたことはあるが、今回のは違う涙目だと思う
「奈凪ちゃん……お姉ちゃんは一生かけて償うつもりだから」
「そんなことしなくて良い、悪いと思ってるなら償わないで」
「なかったことになんて出来ないよ」
「忘れなくても良い、でも前を向いて欲しい」
「前を向く?」
「うん、もっと私と仲良くなって欲しい。昔よりももっともっーと仲良くなって」
ついに姉は嗚咽を漏らしながらしゃがみ込んでしまった。
私もしゃがんで、彼女の頭を撫で続ける
浴衣が汚れても良い、周囲の人に奇異な目で見られても構わない、そんなことを気にするよりも涙が罪を洗い流す方が大事だ




