楽しい夏が来る
7月、夏休みが近いせいか校内は少し浮ついた空気になっていて、ボランティア部もその例外ではない
「そろそろ夏休みの計画立てましょうよ。け・い・か・く!」
綾坂の声が部室に響いたので、麗奈先輩がそれに答えた。
「どこかに行くのは構わないけどお金が掛からない所にしてちょうだい」
「じゃあやっぱ海行きましょうよ。ウミー」
「海だったら私はパス」
メイクしながら拒否を示した星七先輩に綾坂が噛み付く
「ぶぅー、なんで海ダメなんですかー?前に良いって言ってたじゃないですカー」
「プライベートビーチだったら良いけど、このメンバーで普通の海水浴場なんて言ったら一歩歩くたびにナンパされるじゃん。ウザいったらない」
「『女のナンパされて困っちゃうアピール』でたー!うっざーい!!」
「そんなつもりない、パシリ1号の方がウザい」
確かにこのメンバーで海なんかに行ったら私以外全員ナンパされそうだ
流石に一歩歩くたびは無いと思うけど
魔王城周辺じゃあるまいし
「でしたら私の家のビーチに行きませんか?」
声の主の正体に綾坂は「どっわ!」と叫んで椅子ごとひっくり返った。
驚かせた張本人の詩織さんは構わず話を続ける
「海沿いに別荘があるんです。少し遠いので海で遊んだ後はそこに泊まりましょう」
「遠いってどれくらいの距離なのかしら?あまり交通費を掛けたくないわ」
「遠いと言っても車で2時間くらいの距離です。交通費に関しては、こちらから迎えをよこすので心配しないで下さい」
「……食事も付いてくるのよね?」
「ええ、贔屓のシェフを呼び寄せて最高の料理を提供します」
「その話、乗った」
麗奈先輩って本当に中流家庭?
なんか絶対金は出さないオーラ出してたし
愛花先輩を見ると、珍しく彼女も引いていた。
それにしても詩織さんって金持ちキャラだったんだ
家だとガチで『お嬢様』って言われてそう
玉の輿という文字が頭の上に浮かんだが、頭をブンブン振ってかき消した。
「『ガチレズJK6人でプライベートビーチで遊んでみた』うん、これで行こ。メン限で投稿しよ」
星七先輩も乗り気になった。
私達で金儲けしないで欲しい
「女の子とそういうの無しで旅行行くって初めてだから楽しみだなぁ」
愛花先輩も同意した。
『そういうの』には触れないでおく
闇が深いんよ
「なんか企んでるだろ!」
机の下から声が聞こえてきたが、詩織さんはそれには答えず「日程は後日に詰めましょう」と言って出て行った。
詩織さんは今日も『お嬢様』として私を抱きに来ていて、抱き終わった後に自然と私達の中に溶け込んだみたい。
すっかり常連になった彼女はかなりボランティア部に浸透している。
愛花先輩との特訓のおかげで、あれから詩織さんとキスしそうになることは無くなった。
私が笑顔を向けると彼女は顔を逸らす。
ちょっと寂しい気もするけど『お姉さま』探しの為には今の状態が一番良い
「『ムキムキ青野菜』さんスパチャありがとー、納豆を腹筋に塗り込まれるのは大変な仕事だねー」
詩織さんが帰った後、星七先輩は配信を始めた。
世の中には納豆を腹筋に塗り込まれる仕事があるらしい
「星七先輩、ここで配信するなって前言いましたよね?」
配信が終わった後に麗奈先輩に注意された星七先輩は悪びれもせずスマホの画面を見せてきた。
「ほら、部室は映ってないから大大大」
画面にはキラキラの背景に銀髪のアニメみたいなキャラが映っていて、星七先輩の表情をキャラがトレースしている。
これ知ってるよ。Vtuberってヤツだよね
……だったらメイクする意味ないのでは?
「楽しそう!私もやってみたいナー」
綾坂が声を出す
床に転がってるのによくスマホの画面見えたな
というかなんで起きてこないの?怪我してない?
「今は無料のアバターやツールが充実してるからスマホさえあれば配信出来るよ」
その後は星七先輩のVtuber講座で盛り上がる
変なブタのアバターで喋るとみんなが笑った。
楽しい夏が来る




