麗奈先輩の告白
心配させると悪いので『飲み物買ってくる』と綾坂にLINEを入れてから部屋から出る。
オートロックだから鍵は掛けなくて良い
エレベーターの中で、階数表示を眺めながら自分に言い聞かせる。
麗奈先輩に告白なんてされないからドキドキするな。
……でも部員は全員タイプって言ってたし、ツーチャンくらいはある?
エレベーターから出ると、ロビーの椅子に腰掛けていた麗奈先輩の姿が見えた。
体操着のままだったので「げっ!?」って思ったが、口に出すのはなんとか耐える。
「げっ!?」
ごめんウソ
でた
「げってなによ?」
「ウホウホバナナ王国の言語で、こんばんはって意味です」
「そんなワケないじゃない。まぁ良いわ。着いてきなさい」
すくっと立ち上がった麗奈先輩が外に出たので、その格好で外に出るのは更に「げっ!?」って思ったが、今度は本当に耐えた。
自動ドアを抜け、ホテル脇の細い通路を歩く。
夜風はぬるく、室外機の熱を混ぜている。
提携立体駐車場のスロープを上がり、街の音が少し遠くなった所で麗奈先輩は立ち止まって振り返った。
月明かりに照らされた麗奈先輩の表情は真剣そのもので、私は思わず息を呑む。
「……告白するわ」
「ごめんなさい!」
断ったのに麗奈先輩は抱きついてきた。
彼女に何度か抱きしめられたことはあるのだが、この抱擁は今まで一番強い
……てか強すぎ?
「ぐぎぎぎぎッ!?」
「……誰が貴女に告白すると言ったのかしら?容姿を自覚しろとは言ったけど、調子に乗れとは言った覚えないわ」
う、浮いてる!?
足浮いてる!!
背骨が真っ二つに折れる直前で、ようやく解放された。
……三途の川が4Kハイビジョンで見えたよ
「……ったく、速攻で振ってんじゃないわよ」
「ちゃんとフラれた回数に加えて下さいよ」
「は?」
また持ち上げられて絞められたので、バタバタ足を動かして抵抗する。
「ごめんなさい!ごめんなさいいッ〜!!」
「今度ナメた口聞いたら三つ折りにするわよ」
地面にどすんと降ろされたので足がじーんっとなった。
痛む腰と足を気にしながら尋ねる。
「結局、誰に告白するんです?」
「……愛花よ」
「えっ!?」
マジで驚いた。
一年間くらいに聞いたらこんなに驚かなかったと思うけど、最近は麗奈先輩が愛花先輩のことを好きなのかどうなのか分からなくなってたんだよね
「そんなに驚くことかしら?貴女は別荘での一件を知っているわよね?」
「別荘で愛花先輩相手にやらかしたのは知ってますけど、それ以降そんな素振り見せなかったじゃないですか?」
「当たり前じゃない。私はボランティア部の部長なのよ」
ずっと胸に秘めてたってことだろうか?
私が噛むのを嫌がるのは愛花先輩のことが好きだから?
……でもラブホ行ったことを告げたら怒るどころか心配してくれたんだよなぁ
「もしかして噛む為に告白しようとしてません?」
なんだか麗奈先輩が責任を果たす為に告白するような気がしてきたので、聞いてみた。
もしそれが合っているのなら止めないといけない
「逆よ。好きだから噛みたいの」
「ほんとにほんとですか?いつから好きだったんですか?」
私の質問に麗奈先輩は答えず、下を向いたので、やはり合っていたと感じ、告白を止めようとしたが、その前に彼女は口を開いた。
「……自覚したのは最近よ」
「え、最近?何かあったんですか?」
「自主特訓したって言ったでしょ……」
まさか……
「愛花先輩の写真見てたら好きになった!?」
「……悪いかしら?」
自主特訓で愛花先輩の写真を部屋中に貼ってるって言ってたけど、それを見てたら惚れたってことだよね?
それってなんかの催眠に掛かってない?
「悪いですよ!それって顔で好きになってるじゃないですか!」
「顔だけじゃないわ。愛花は誰にでも優しいし、気配りだって抜群じゃない」
「結構、腹黒いですよ?」
「そういうところも含めて好きなのよ」
「中学で5人と乱交してたんですよ!恋愛エアプの麗奈先輩の手に負えないですって!」
「……人の好きな人によくそんなこと言えるわね」
またまた抱きしめられたので絞められるかと思ったが、麗奈先輩は私を抱いたまま思いっきり反り返った。
こ、これバックドロップってやつ?
下、コンクリートなんですけど!?
「誤解なんですぅ〜!そういうつもりじゃなくて、麗奈先輩が噛む為に告白するように思えたからワザと愛花先輩のこと悪く言ったんですぅ〜!たっけて〜!!」
「だからそれは違うって言ったじゃない。自覚したのは最近だけど、今思えばずっと前から好きだったのよ」
逆さまの世界からなんとか生還したが、まだ頭に血がのぼってるせいかクラクラする。
「ず、ずっと前からっていつですか?」
「まだ疑ってるのかしら?」
「愛花先輩の写真を見過ぎて催眠に掛かってません?」
「そんなハズないでしょ。愛花のことが気になっていたから私は自傷していたあの子を助けた」
「自傷してたら誰でも止めますよ」
「私はそこまで立派な人間じゃないわ。そもそも私を本気にさせたのは愛花だけよ」
麗奈先輩に抱きつかれたので、今度はどんな責め具を受けるんだろうと思ったが、彼女は私に顔を寄せただけだった。
「……ほら、なんともないでしょ?」
「なんのことですか?」
「別荘の時に愛花を噛んだ後、ちょっといつもと違った雰囲気になって、自分から顔を近づけたら感情が抑えきれなくなりそうになったのよ」
「あ、愛花先輩相手だと自分から顔近づけてもダメってことですか?」
「ダメというか、キスしたくなったのよ。あんな気持ちは初めてだったわ」
麗奈先輩が頑なに愛花先輩との勝負を避けていた理由が分かった。
自主特訓の過程で、愛花先輩への気持ちに気づいて、本気で来られたら彼女に勝てないことを悟ったのだろう
「そういうことなら愛花先輩への告白を許可します」
「なんで奈凪さんの許可がいるのよ……私が貴女を呼び出したのはそんな理由じゃないわ」
「お膳立ては任せて下さい。明日の花火の時に告白するのはどうですか?上手く二人きりにしますよ」
「そんなことよりも引き継ぎをしてもらいたいの」
「引き継ぎ?」
「ええ、貴女に部長を引き継いでもらいたいわ」
「ええーーー!?」
そ、そっか!そうだよね!
麗奈先輩と愛花先輩が付き合ったら禁忌になるから、先輩達が抜けてしまうことになり、そうなると後輩の誰かが部長をしないといけない
麗奈先輩は自分が辞めるからボランティア部の過去の事件を話してくれたんだ
「わ、私は向いてないですよ!綾坂の方が良いと思います!」
「ボランティア部の部長は人望で決まらないわ。貴女が一番、禁忌を犯さなそうだから頼んでいるの」
犯してるんだよなぁこれが!
で、もう一個受けられない理由がある。
「じ、実は最近、部活をどうしようかちょっと悩んでて……」
「あら?それは初耳ね。何かあったのかしら?」
「かくかくしかじかで」
「それじゃ分からないからちゃんと説明なさい」
『お姉さま』の正体が綾坂で、その綾坂に振られてしまったので、この先部活を続けられるか少し不安になっていることを正直に話すと、麗奈先輩は顎に手を当てて悩むような仕草をした。
「……それはおかしいわね」
「なにがですか?」
「綾坂さんが貴女を振るとは思えない」
「麗奈先輩は綾坂が星七先輩と良い感じになってるのを知ってますよね?きっとはっきりしない私に嫌気が差して幻滅したんですよ」
「ちゃんと抱いてないのでしょう?それに匂いはどうしたのよ?綾坂さんからお姉さまの匂いがしたの?」
「その時はしなかったですけど、姉の制服を借りたついでに香水も借りて使ったってオチじゃないですかね?」
「……辻褄が合わないわ」
「辻褄?」
「……こっちのハナシよ。とにかく部長は引き受けてもらうわ。綾坂さんのことが好きなら余計に辞めないでしょう?」
「それはそうかもしれませんけど……」
綾坂が星七先輩と付き合って辞めてしまったら私も辞めると思うけどな。
あ、でもそしたらみうが一人ぼっちになるか
私が誘ったようなモンだし、それは無責任だよね……
「分かりました。部長やります」
決心してそう答えると、麗奈先輩は朗らかに微笑んだ
「貴女ならそう言ってくれると信じていたわ」
「今度は振られないで下さいよね?」
「いつ振られたのよ?私はまだ愛花に告白してないわ」
「さっき私に振られたじゃないですか。お互いに振られた回数1ですね」
麗奈先輩が私を抱きしめる。
さっきみたいな絞めつけじゃなく、優しい抱擁だ
「回数2にならないように頑張るわ」
「バッチリ決めて下さいよ」
月明かりに照らされた二人の姿は側から見れば恋人同士だが、実際にはそんな感じじゃなくて爽やかな感じだ
女同士の友情って成立するんだ!?




