ネズミーは戦場だ
『まもなく開園いたします』
アナウンスが流れた瞬間、列の空気がぴんと張ったので、思わず笑ってしまった。
「なんかさ。みんな“夢の国へようこそ”って顔じゃないよね」
「……なにヘラヘラしてんの?遊びじゃないんだけど」
「す、すみません」
綾坂の剣幕に押されて思わず敬語で謝ってしまう
遊びじゃないらしい
ゲートを通った瞬間、綾坂が猛烈な勢いでスマホを連打した。
「うおおおおっ!!!」
画面が割れないか心配になる。
地球に飛来した隕石を押し返すような声出してるし
「ぼけっとすんな!チケットよこして!」
「う、うん」
みんなのチケットを読み込ませた綾坂は再びスマホを連打した。
頑張れ、地球の命運はキミに掛かっている。
「しゃーーー!!取れたぁ!!」
「でも17時ですよぉ?」
「全然上出来だから!」
どうやら無事、乗りたいアトラクションのパスを取れたみたい
列に長時間並ぶのは御免だから助かった。
こっからはゆっくり出来るのかな?
アトラクションに乗るのも良いけど、のんびり散策するのも楽しそうだな
「ぼけっとすんなって言っただろ!」
「すみません!」
綾坂に手を引かれて無理矢理走らされる。
手を握ってるのに全然そういう雰囲気じゃない
……効率厨過ぎるんよ
最初に乗ったのは急流すべりのアトラクションで、ボートに揺られながら人形劇を眺める。
ここに来て初めてゆっくり出来たかも
「奈凪ちゃん」
「はい?」
隣に座っている愛花先輩に呼び掛けられたので、返事をする。
もしかしてこの後の落下が怖くなったのかな?
「……そろそろ限界なんだよね」
「え、絶叫マシン苦手なんですか?」
「ううん。そうじゃなくてココが限界」
愛花先輩が自分の首筋を指でトントンしたので、意味が分かった。
そういうことか
考えてみればゴールデンウィーク前からこうなってたからとっくに限界を通り越してるよね
でも勝手に噛むわけにはいかないし、噛むつもりもない
麗奈先輩が噛むしかないと思うんだけど、結局それに至っていない
弱点を突かれない方法を見つけたのにどういう訳か彼女はあれから勝負を挑まなくなった。
麗奈先輩は完全にビビってしまったんだろうか?
勝負が無理なら、お風呂作戦に切り替える?
お泊まりの今日が絶好のチャンスだよね
「今日、麗奈先輩と一緒にお風呂に入って貰えませんか?」
「……噛まれるのは奈凪ちゃんがいいな」
「ワガママ言わないで下さいよ」
「サクッと噛んで貰えは良いから。ね?お願い」
「……じゃあどっかの日に会いましょう。そこで噛みます」
「今日じゃダメかな?」
「ダメですよ。そっちも譲歩して下さい」
「……分かったよぅ」
結局、私が噛むことになってしまった。
今日が嫌なのは、なんかの拍子にお腹に刻まれた詩織さんの名が明るみに出るのを恐れたからだ
なんだかんだお守りになっているのかもしれない
アトラクションが終盤に差し掛かったのを感じ、バーをしっかりと握る。
私は落下中に手を上げたりする剛の者ではない
今更だけど先頭に座るべきじゃなかったな
水族館の時みたいにびしょ濡れになるのはやだよ
「もう一個お願いがあるんだけど良いかな?」
「もう譲歩はしません」
「聞くだけ聞いてよ」
「……なんですか?」
「前に私があげたぱんつ履いて来て欲しいんだ」
「嫌ですよ。それって
ぱ
ん
ん
つ
つ
つ
つ
つ
ぅ
っ
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?」
幸いにもそんなに濡れなかったが、別の理由で私は真っ赤になっていた。
「奈凪センパイ、落ちる時ぱんつって叫んでませんでした?」
「い、言ってない」
「私も聴こえたし」
「場をわきまえなさい」
出口でみんなに責められる。
そういうつもりじゃなくて、会話の途中で落下したからなんだけど、理由が理由だから弁明が出来ない
「奈凪ちゃんだってそういう気分になる時あるよ!今日は大目に見てあげようよ!!」
愛花先輩がウインクしてきたが、私はそっぽを向く
それ全然庇えてないから




