第15話 融合魔法と新たな敵の襲来
「どうされたのでしょうか? さあ、真の力を私に見せてください」
空を見上げたまま呆然と立ち尽くす冬夜に対し、優しく微笑みながら語りかけるヒイロ。掲げた右手に彼女がほんのわずか魔力を込めると、広い光弾が淡い桃色に染まり始める。そして、その光景は空を埋め尽くす桜吹雪のような美しさを醸し出し始めた。
「う、美しすぎるだろ……」
空中に広がる光景に思わず目を奪われて見入ってしまう冬夜。ヒイロを中心に弧を描くように動く弾幕を見て、口を開けたまま右手を空に伸ばし始める。そして、そのまま吸い込まれていくような感覚に陥り、前に一歩踏み出そうとした時だった。
「冬夜くん! 進んじゃダメ!」
背後からメイの叫び声が聞こえると、勢いよく後ろに引っ張られた。そこまで強い力ではなかったが、突然引っ張られたことにより尻餅をついて後ろに倒れる冬夜。その様子を見たメイが慌てた様子で声をかける。
「と、冬夜くん、ごめんね……ぼーっと前に進もうとしていたから少し引っ張っただけなの……」
「気にするなよ、メイ。俺が悪かったわけだしさ……」
「でもどうしたの? 真剣に空を見上げていたのに、急に口を開けてそのまま光弾が雨のように降り注いでいる方へ進もうとしたんだよ」
「は? 雨のように降り注いでいるだって?」
話を聞いた冬夜が正面を向くと、先程立っていた場所の前には無数の光弾が待ち構えていた。もし、メイが体を引っ張って止めなければ、結果は悲惨なことになっていたことが容易に想像できた。
「……ウソだろ……さっきまでこんなのなかったぞ……」
目の前に広がる光景を見て言葉を失っていると、空中から笑い声が響き渡る。
「あはは、惜しかったです。もう少しですべてが終わるはずだったのに……冬夜くんはいいお友達を持っていますね」
「何がおかしい! あと一歩で死ぬかも知れなかったんだぞ!」
地上で必死に叫ぶ冬夜を見下ろしていたヒイロの表情から笑みが消え、冷徹な視線が向けられる。
「そうですね……あと一歩踏み出していたら取り返しのつかない事態が待っていたかも知れません。しかし、そうなったとしても自分の実力不足が招いた結果――そうではありませんか?」
「ぐっ……」
ヒイロから告げられる正論に対し、歯を食いしばり何も言えなくなる冬夜。そんな彼の様子を見て、さらなる追撃の言葉を向ける。
「あら? どうしたのでしょうか? 言いたいことがあればおっしゃってください。でも、戦いの最中に『今からあなたの前に弾幕を設置しますね』なんて親切に教えるようなことはしませんからね……」
「……」
「あなたがどれほどの修羅場をくぐり抜けてきたのかは知りません……が、この程度の仕掛けに引っかかるようでは、先が思いやられますね」
俯いたまま何も言い返さない冬夜を見下ろし、ヒイロは大きなため息を吐きながら話を続ける。
「ルナが託したロザリオ――いえ、ヒイロタイトの後継者としてもう少しふさわしいかと思いましたが、ガッカリですね。さあ、終わりにしましょうか……最期になにか言い残すことがあれば聞いて差し上げましょう」
「……そうですね。一つだけお聞きしておきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
顔を伏せたまま、冬夜が低い声で話しかける。すると、小さく息を吐いたヒイロが呆れたように答える。
「まあいいでしょう。なんでも聞いてくれて構いませんよ……あなたにとって有意義な回答になるとは思えませんが」
「それはどうでしょうか? 見えている物が全てであるとは限りませんよ」
含みのある言い方をする冬夜に対し、少し苛立ったように顔をしかめるヒイロ。
「言っている意味がわかりませんね……まるで私が見落としをしているような言い方です。それに絶対的に不利な状況に置かれているのは、あなたの方ですよ?」
「そうですね、普通に考えれば……俺のほうが不利なのは間違いないです。でも、あなたが教えてくれたんですよ? わざわざ戦闘中にこれから反撃を仕掛けますとは宣言するバカはいないと!」
言い終えた冬夜が顔を上げると目は赤く光り、口元には不敵な笑みを浮かべていた。そして、目を瞑って彼の背中に両手を添えているメイの姿があった。
「はっ! し、しまった……まさか、あなたはずっとこの時を狙っていたのですか?」
「さあ、どうでしょうか? その答えはご自身が身を持って知ることになる……メイ、準備はいいか?」
「うん、いつでも大丈夫だよ!」
冬夜の声を聞いたメイが返事をすると、二人の周囲を黒いオーラと光り輝くオーラが渦巻き始める。
「天を裂く光、奈落を満たす闇――相反する力、今融合せよ……無へ至る閃光! 双極崩壊!」
冬夜とメイが一斉に声を上げると、光と闇の閃光が交差しながら空に向かって駆け抜ける。次の瞬間、真上の空間がガラスの砕けたようにひび割れ、裂け目から無数の矢が降り注ぐ。そして、空間を覆っていた光弾が次々と爆発し始め、音と煙で視界が一気にゼロになる。
「な……まさかここまでとは……」
「ぼーっとしている暇はありませんよ! すぐに伏せて地上に降りてください!」
爆風と煙が巻き上がる中、呆然と立ち尽くすヒイロに冬夜の怒号が響く。
「え? は?」
「何をしているんですか! 早くしてください!」
なぜ自分が怒られているのか理解できないヒイロが空中で戸惑っていると、再び怒号が響く。理由もわからず、言われるがまま地上に降り立って伏せると同時に冬夜が叫ぶ。
「いつまで隠れているつもりだ? 高みの見物とは悪趣味だな……いい加減、正体を表せ!」
声が響くと同時に煙を切り裂くように光と闇の混じった一本の矢が、先程までヒイロの佇んでいた場所に放たれる。彼女がいた少し奥で静止すると、鋭利な刃物で切り刻まれたかのように矢が粉々になって霧散した。
「あら? もう見つかってしまったのですか。もう少し、見学させていただきたかったのですが、残念ですね」
「こ、この声は……」
耳に届いた声にヒイロの顔から一気に血の気が引き、体が小刻みに震え始める。
三人の戦いを見ていた人物とはいったい――誰なのか?




