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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第Ⅷ章 崩れ始める世界

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第14話 幕が上がる悲しき戦い(後編)

(やはりルナの面影がありますね……あの真っ直ぐ見つめる瞳は彼女と同じ、でも私は……)


 地上から真剣な眼差しを向ける冬夜を見て、胸の奥が痛み始めるヒイロ。その気持ちに呼応するように全身に纏う黒いオーラがほんの少し薄まる。


「あれ? 気のせいかも知れないが、オーラが揺らいでないか?」


 ほんの僅かな変化を見逃さなかった冬夜が声に出すと、慌てた様子でヒイロが顔を左右に振る。そして自らに言い聞かせるように呟く。


「何を迷っているの? 私は確かめなくちゃいけない……もう二度と誰も巻き込まないためにも……逃げているだけじゃダメなの」


 悲しげな表情で呟くヒイロを見て、冬夜の脳裏に様々な考えが巡り始める。


(ヒイロさんは一体何を言っているんだ? 何を確かめるつもりなんだろう……そして、巻き込むって、母さんが関係しているのか? それに逃げているって……誰かに追われているということだよな……だめだ、情報が少なすぎて全くわからない)


 空中に浮かぶヒイロを見つめたまま冬夜が固まっていた時だった。


「冬夜くん、危ない!」


 メイの声が響くと同時に体に強い衝撃が走り、そのまま地面に押し倒される。すると、先程までいた場所に、黒いオーラを纏った槍のようなものが数本突き刺さっていた。そして、視線を下に向けると、みぞおちに抱きついていたメイと目が合った。


「間に合ってよかったよ。空を見上げたまま動かないから……突き飛ばすような感じになっちゃってごめんね」

「いや、俺の方こそゴメンな。ちょっと考え事をしていたんだ……でも、メイが突き飛ばしてくれなかったら……」

「いいの。冬夜くんに何かあったら嫌だもん……」


 無事を確認した二人が胸をなでおろしていると、空中から冷たい声が響く。


「あら? よく気が付きましたね。戦いの最中に考え事をするなんて、ずいぶん余裕を持っているように見えたので」

「ずいぶん悪趣味な攻撃の仕方ですね。できることであれば、あなたとは戦いたくないが……」


 顔を上げ、奇襲をかけてきた張本人であるヒイロを睨みつける冬夜。言葉を聞くと額に右手を当て、呆れたように話しかける。


「何を言っているのでしょうか? わざわざ『今から攻撃します』なんて宣言して、魔法を放つ敵がどこにいるのでしょうか?」

「うっ……」


 ぐうの音も言えない正論をぶつけられ、何も言い返すことができない冬夜。彼の様子を見たヒイロはわざとらしくため息を吐き、目を閉じながら話を続ける。


「まったく……今までどんな敵と戦ってきたのでしょうか? あなたが敵対している()()()は非常に狡猾です。この程度の攻撃を見抜けないのであれば、この先も……」


 ほんの一瞬、ヒイロが顔を背けた時だった。空間内に金属がぶつかり合うような甲高い音が鳴り響き、激しい火花が飛び散る。次の瞬間、空中に閃光が走ると爆発音が鳴り響き、空を覆い尽くすような煙が充満し始める。すると、その煙の中から笑い声とともに声が聞こえてくる。


「ふふふ……まさか私が話した直後に同じことをされるとは思いませんでしたよ」

「せっかく教えていただいたので、さっそく実践してみないといけませんよね? 宣言してから攻撃するようなお人好しではありませんし」


 煙が薄れ始めて顕になったのは、真っ黒な刀身をした日本刀のような武器を手に持つ冬夜の姿だった。未だ濃い煙に包まれた空間から、ヒイロの驚いたような声が響く。


「おや? 不思議なこともあるのですね……空中に浮いているというのは私の見間違いでしょうか?」

「見間違いではありませんよ。詳しいことは秘密ですが……学園の先輩が託してくれた物の一つです」


 問いかけに胸を張って答える冬夜だが、言いようのない不安が心の片隅をかすめる。


(今のところは上手く機能しているけど、作ったのが()()()だからな……あの人の大丈夫という言葉はどうも信用できない)


 本来であれば空に浮かぶ術を持たない冬夜が、空中に留まれているのは芹澤の発明した代物のおかげだった。先日、響と対峙した直後にこの先の戦いで役に立つと言われ、半ば強引に靴を剥ぎ取ると装着したのだ。芹澤の説明によるとソールの中に仕込んだ機械に魔力を流すと、一定時間浮遊できるということだ。しかし、使用できる時間は使用者の魔力に依存するだむ、いつまで使用できるのかは作った本人でもわからないらしい。また、効果が切れる時は突然であり、警告音など知らせる機能は搭載されていないとのことだった。


(いきなり切れるのはダメだろうが! なんで『忘れていた』で済ますんだよ……)


 説明を聞いた冬夜が文句を告げるが、芹澤本人は気にすることはなく失敗も成功のうちだと高笑いしながら去ってしまった。


(まったくあの人は……いや、そんなことはどうでもいい。今は目の前にいる相手に集中しないと)


 雑念を振り払うように顔を小さく左右に振り、目の前に対峙する相手を睨みつける。徐々に煙が薄まっていくと、ヒイロの姿が現れる。


「良い攻撃でした。威力も申し分なく、狙いも的確でしたね」

「ありがとうございます。しかし、かすり傷一つ負っていないあなたから言われても、説得力に欠けますね……」

「そうでしょうか? 切り替えの早さを含め、素晴らしいと思いますよ。ただ……私を傷つけないように少し手加減されたのもわかっていますし」

「チッ……バレていたのですか」


 笑みを浮かべながら語りかけるヒイロに対し、バツが悪そうな表情で目を背ける冬夜。


「その優しさは必要なものです……が――時に命取りになることがあるということを教えなければいけませんね」


 言葉を言い終えたヒイロが右手を頭の上に掲げる。すると次々と現れた白い光弾が彼女を中心に規則正しく広がり、花びらのような軌跡を描いて逃げ場を塞ぐように空を覆い始める。


「な……」


 彼女を中心に広がる光弾を見た冬夜は、あまりの密度に空を見上げたまま言葉を失うと固まってしまう。

 圧倒的な力の差を見せつけてきたヒイロに対し、冬夜に対抗する手立てはあるのだろうか?

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