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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第Ⅷ章 崩れ始める世界

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第13話 幕が上がる悲しき戦い(中編)

 光の槍が冬夜の目の前に着弾すると閃光が走り、粉じんが舞い上がる。辺り一帯が真っ白な煙に包まれ、数メートル先の視界すら確認することができない。一瞬あっけにとられたが、すぐに我に返ると、後ろにいるメイへ声をかける。


「メイ、大丈夫か?」

「う、うん、私は大丈夫だよ。冬夜くんは?」

「俺は大丈夫だ……紙一重で躱すことができたからな」


 声を聞いて安心した冬夜が振り返ると、力が抜けたように地面に座り込んでいるメイ。その様子を見て、焦ったように話しかける。


「メイ、どうしたんだ? 怪我とかしているんじゃないのか?」

「違うの。ちょっとビックリしたのもあるんだけど、冬夜くんが無事だったから気が抜けちゃって……」

「心配かけてすまなかったな。今の一撃なんだが、実は急に目の前で失速したようにも見えたんだよ」

「え? どういうことなの?」


 話を聞いたメイが目を丸くして聞き返す。すると少し困ったような表情を浮かべた冬夜が、小さく息を吐きながら答える。


「これは俺の推測でしか無いんだが……最初から当てる気がなかったんじゃないかと……」

「あら? 今の一撃を避けるとはさすがですね」


 冬夜が言葉を続けようとした時、まるで話を遮るように聞き覚えのある声が空間内に響き渡る。二人は慌てて顔を上げ、声の主を探そうと顔を動かす。しかし、周囲はまだ煙に包まれたままで、姿を確認することはできない。そんな状況の中、声の主はお構いなしに話を続ける。


「少々派手にやりすぎてしまいましたか……二人の姿はよく見えているのですが、その様子だと私がどこにいるのかわからないようですね?」

「俺たちの姿が見えている……そんなことよりも、どういうつもりですか? いきなり攻撃をされるなんて……」

「まだ状況がわかっておられないようですね? ルナがあなたに託したロザリオ……それが本当にふさわしいかどうか確認したいだけですよ」

「……意味がわかりません。ちゃんと言葉で説明するほうが先ではないでしょうか? ヒイロさん!」


 全く見えない視界の中、天を仰ぐように顔を上げて語気を強める冬夜。その言葉を聞いたヒイロから乾いた笑い声とともに答えが返ってくる。


「ははっ、この期に及んでもまだ説明を求めますか……本当にルナそっくりだわ。あの子はいつも私に言い聞かせるように言っていた……ちゃんと言葉で伝えないとわからないよって……」


 自分に言い聞かせるように呟くヒイロ。最初こそ敬語だったが、だんだん砕けた口調になるとともに言葉に悲壮感が漂い始める。


「……あは、あはは……そうだよね、話せばわかるって……だから思いとどまったよ。まずは話し合おうって……だけど、無駄だった。どれだけ言葉で訴えても、届かなかった……私が託したヒイロタイトを受け継ぐ者、説明だけじゃなくて本当の強さを持っているのかこの目で確かめないと……」

「ヒイロさん? 何を言っているのですか?」


 悲痛なつぶやきが止まらないヒイロに対し、冬夜が問いかける。しかし、答えが返ってくることはなく、言葉が止まらない。


「うん、大丈夫。殺しはしない……彼が本当にふさわしい後継者であるならば。もし、その価値がないと判断した時は――たとえルナの子供であっても、容赦はしない!」


 ヒイロが言い聞かせるように力強く声を上げた時だった。それまで立ち込めていた煙が渦巻き、突風となった風が吹き荒れ始める。


「な……これはヤバい! メイすぐに顔を伏せろ! 間に合うかわからないが結界を張る!」

「え? あ、うん。わかったよ」


 鬼気迫るような冬夜の言葉を聞いたメイは、慌てて頭を抱えて地面にしゃがみ込む。彼女の姿を確認すると、苦虫を噛み潰したような表情で周囲を見渡して呟く。


「クソ……何が起こっているのかさっぱりわからない。今は自分たちの身を守ることを優先しないと……」


 唇を噛み締めながら悔しそうに呟くと、その場で目を閉じて両手を体の前に突き出す。そして、詠唱を唱え始める冬夜。


「上手くいってくれよ。闇よ、集え……我が意志を壁とし、深淵の理を盾とせよ――何人も通させない『守護黒域(シャドウ・ドミニオン)』」


 詠唱を終えると同時に首から下げたロザリオの中心が、輝き始める。先程と同じように黒い影が冬夜の足元に集まり、二人を包み込むように円形の結界を形成していく。無事二人を包み込んだ時、結界の外で眩い光が走る、ほぼ同時に爆発音が響くと、貼ったばかりの結界を大きく揺らす振動が襲いかかる。


「な……何が起こったんだ? 頼む、耐えてくれ!」


 足元で身をかがめ、震える命を守るように覆いかぶさる冬夜。


「冬夜くん、ありがとう。私は大丈夫だからね」

「ああ、メイのことは俺が守る……たとえ何が起ころうとも! だから耐えてくれ、俺の魔力」


 冬夜が力強く声を上げると、ロザリオの中心が光り始める。呼応するように瞳が徐々に赤く染まり始めると同時に、胸の奥で鼓動が強く打ち鳴らされる。


「……収まったのか?」


 そのまま冬夜が動かずにいると、先程までの振動がウソのように静まっていた。


「もう大丈夫か? メイ、ゆっくり結界を解くからそのまま動かないでくれ」

「う、うん……なんかすごく嫌な感じがするから、冬夜くんも気をつけてね」

「ああ、わかった。じゃあ解除するぞ」


 メイの言葉を聞いて小さく頷くと立ち上がり、右手を前に突き出して結界を解除する冬夜。二人を包んでいた球体が徐々に消え去り、辺りの様子が明らかになり始めた時だった。


「ふふふ、ようやく姿を見せてくれましたね」


 上空から響く声に対し、空を見上げて睨みつけながら冬夜が叫ぶ。


「ああ、待たせたな。しっかり話を聞かせてもらおうか……ヒイロさん!」


 笑みを浮かべて見下ろすヒイロに対し、語気を強めた時だった。


「そんな慌てないでください。私を認めさせたらじっくり話をしてあげますから」


 言い終えると同時に黒いオーラがヒイロの全身を包み始める。そして、先ほどとは比べ物にならないほどの圧力(プレッシャー)が放たれ、冬夜の顔に一筋の汗が流れ落ちた時だった。


「……ようやく()()()()()()わ……さて、決着がつくまで見届けさせていただきましょうか」


 まだ気がついていなかった――三人の様子を虎視眈々と狙う影が、音もなく迫っていることに……

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