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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第Ⅷ章 崩れ始める世界

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第12話 幕が上がる悲しき戦い(前編)

 唇を噛み締め、悔しそうな表情で空に浮かぶヒイロを見つめる冬夜。そんな彼の様子に気がついたのか、顔を背けると悲しそうな声を上げる。


「私がいなければ、ルナを巻き込まなかった……それだけじゃない、幸せな時間を過ごせたはずだったのに……もうすべて終わりにしないといけない」

「ヒ、ヒイロさん……」


 呪詛のように呟くヒイロの言葉を聞いたメイが悲しそうな表情を浮かべ、空を見上げたまま固まってしまう。そんな彼女を見た冬夜は、小さく息を吐くと優しく話しかける。


「安心しろ、メイ。俺が……ヒイロさんの正気を取り戻してみせる!」


 不安そうな表情を浮かべるメイに対し、力強く宣言する冬夜。そして、禍々しいオーラに包まれて空中に浮かぶヒイロを見ると、覚悟を決めたような表情になる。そんな彼の気配を感じ取ったのか、顔を拭うように右手を動かすと二人に視線を向ける。


「ずいぶん険しい顔をされていますが……どうされたのでしょうか?」

「さあ、どうでしょうね。そんな禍々しいオーラを放っているあなたのせいではないでしょうか?」


 視線を向けられた冬夜は、メイの前に立つと険しい表情のまま話しかける。その様子を見てヒイロはわずかに口元を釣り上げ、少し呆れたように答える。


「それは失礼致しました……しかし、このオーラは私の意志とは()()()なんですが、そのように見えてしまうのは悲しいですね」

「意志とは無関係だと……?」


 ヒイロの言っている意味が理解できず、目を細めながら聞き返す冬夜。


「そうですね……もし禍々しい物に見えるのであれば、悲しいことです。あなたにもそうやって見えてしまっているということが」

「見えてしまっている? ヒイロさん、一体何のことかわからないのですが……ちゃんと説明していただけないでしょうか……」


 疑問に思った冬夜が聞き返そうとした時だった。いきなり目の前に雷のような光が走り、白い地面に焦げたような跡が現れる。


「また……私のせいで同じことを繰り返すのね。もう二度とあんな悲しい出来事は起きてほしくない……だから終わりにしなくちゃいけない」


 悲痛な表情を浮かべたヒイロのつぶやきを聞き、理由がわからず戸惑う冬夜。


(いったい過去にどんな悲しい出来事があったんだ……同じことを繰り返すってどういうことなんだ? 終わりにしなくちゃいけないってまさか、ヒイロさんは)


 彼女の言葉が頭から離れず、脳裏に最悪の結末が浮かぶ。そんな考えを振り払うように左右に頭を振り、目を閉じて俯くと再び考えを巡らせる。


(いや、まだ決まったわけじゃない。なんとかして彼女を止めなければ……いや、止めるんだ!)


 小さく息を吐き、ゆっくり目を開けると顔を上げる冬夜。彼の顔には先程までの迷いはなくなり、決意と覚悟が決まったような頼もしさがにじみ出ていた。


「冬夜くん、迷いは吹っ切れたみたいだね」


 後ろに隠れていたメイが、冬夜の表情を見て安心したように声を掛ける。


「ああ、心配かけてすまなかった。ヒイロさんがどんな因縁を抱えているかわからない、そして何を考えているのかも……だけど、間違った未来へ進もうとしているのであれば、全力で止めなければいけないよな」

「うん! 私たちにできることは限られているかもしれないけど……少しでもいい方向へ変えるきっかけは作れると思うよ」

「そうだな……今はなんとしても彼女を止めなければいけない。どんな手段を使っても、話を聞いてもらうためにも」


 冬夜とメイの視線が交わると、深く頷きあう。そして、決意の固まった二人の視線が向いた先にいたのは、黒いオーラに包まれて悲しげな表情を浮かべるヒイロ。その時、彼女の瞳から一粒の涙がこぼれた。


「え? ヒイロさんが……泣いてる?」


 彼女の異変をいち早く感じ取ったメイが思わず呟く。すると、その言葉を聞いたヒイロが慌てて右手で頬を触り、驚いた様子で言葉を漏らす。


「私が泣いているの? なんで……どうして涙が溢れてる? ルナの元を去ったときから、どんなに悲しくても出てこなかったのに……」


 濡れた右手を見つめながら困惑した声を上げるヒイロ。


(自分の気持ちに気がついていないだと? もしかして今なら声が届くかもしれない!)


 戸惑っている彼女の姿を見て、メイに視線を送ると大きく頷いて答える。そして、意を決したような表情になると、訴えかけるように冬夜が声を上げる。


「ヒイロさん、俺の話を聞いてください! あなたの過去に何があったか、俺にはわかりません……だけど、すべてを背負う必要はないと思います! 俺では力不足かもしれませんが、話していただけないでしょうか?」

「すべてを背負う必要はない……何も知らないあなたがよく言えますね……」


 声を聞いたヒイロが、凍てつくような目で冬夜を睨む。


(うっ、半端じゃないプレッシャーだ……でも、ここで怯んでしまっては意味がないんだ!)


 全身を貫くような鋭い視線を受けて一瞬怯むが、視線を逸らすこと無く訴えかける。


「ええ、何も知らないから言えるんです。起きてしまったことは変えることはできませんが、未来はいくらでも変えられます! だから……」


 冬夜の言葉を遮るように叫ぶと、ヒイロの瞳からもう一粒の涙がこぼれ落ちた


「うるさい! わかったような口を聞かないで! 神威の閃光よ、今こそ貫け! 聖裁(ディバイン・)殲滅光(ブラスター)


 ヒイロが叫び声のように詠唱を唱えて右手をかざすと、空中に巨大な光の槍が出現する。


「未来は変えられる? そう信じた時もありました……が、結局何も変わらなかった。本当に変えられるのであれば、私の前で証明してみてください!」


 勢いよく右手を振り下ろすと、光の槍が冬夜めがけて襲いかかる。


「こ、これは……メ、メイ! すぐにこの場を離れろ!」


 襲い来る光の槍を見つめ、後ろにいるメイに指示を飛ばす冬夜。

 不意打ちのような攻撃を向けられ、彼らに打つ手はあるのか?

 悲しい戦いの幕がついに上がってしまった……

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