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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第Ⅷ章 崩れ始める世界

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第11話 秘められた過去と暴走

(俺はどうしたらいいんだ?)


 冬夜が空を見上げると、無表情でこちらを見ているヒイロの姿が目に入る。彼女から向けられる視線はとても冷たいものだった。


(明らかに敵対心剥き出しなのは、間違いない……だけど、彼女から伝わるのは覚悟とは違う感情なんだよな)


 空に浮かぶヒイロを見つめていると、冬夜の脳裏を駆け巡ったのはメイの言葉だった。


「ものすごく悲しい気持ちが伝わるの」


 たしかにヒイロの表情は敵対心剥き出しだが、その瞳の奥には深い悲しみが潜んでいることを冬夜も感じていた。しかし、彼女がなぜそこまでの覚悟を持ち、二人と対峙しているのかが全くわからない。どうするのが正解なのかわからず、冬夜が困惑していると空中から声が響く。


「あら? どうしたのでしょうか? ずいぶん困惑されているようですが」

「ええ、そうですね……」


 声を聞いて冬夜が、心の内を悟られないように冷静に言葉を返す。するとそんな彼の様子を見抜いているかのように、ヒイロが声を上げる。


「そうですか。自分たちがなぜこんな目に遭うのか、理解できないというところでしょうか?」

「それは……」


 心のうちを見透かされたような問いかけに、思わず言葉を失う冬夜。すると、後ろにいたメイが一歩前に出て、ヒイロを見つめながら必死に声を掛ける。


「ヒイロさん、どうされてしまったのですか? 先程まで楽しくお話していたのに……」

「別にどうもしていませんよ。ただお話しているだけでは物足りなかっただけですから」


 問いかけを聞いたヒイロは表情を変えず、ぶっきらぼうに答える。しかし、メイはそんな彼女の様子を気にせず、言葉を続ける。


「そうなんですか……でも、何が物足りなかったのか教えていただけないでしょうか?」

「答える必要があるのでしょうか? 知りたければご自身で答えを見つけるのが良いと思います」


 冷たく突き放すような声を聞いて思わず顔を伏せてしまうメイの様子を見て、冬夜が声をかけようとしたときだった。両手を固く握ると顔を上げ、強い決意が宿ったような目でヒイロを見つめて声を上げる。


「……わかりました。これ以上、お聞きしても無駄かもしれませんが……最後に一つだけ質問しても良いですか?」

「いいでしょう。これ以上話したところで時間の無駄なのは明白ですが、お受けしましょう」


 必死に訴えるメイの様子を見て、呆れたように言葉を返すヒイロ。


「ありがとうございます。ヒイロさん……先程からずっと気になっていたのですが、どうしてそんなに悲しそうな表情をされているのでしょうか?」

「は? あなたは何を言っているのですか? 私が悲しい表情をしているですって……そんなはずは……」


 予想外の言葉を聞いて明らかに動揺するヒイロ。彼女の変化を感じたメイは、このチャンスを逃さないように畳み掛ける。


「いいえ、ものすごく悲しい顔をされています……もし、本当に感情が消えてしまったのであれば、なぜあなたは涙を流しているのでしょうか?」

「て、適当なことを言わないでいただけますか? 私が泣いているなど……」


 メイに指摘され、ヒイロが慌てて目元に右手を当てた時だった。瞳から溢れた涙が頬を伝って流れ落ちている。


「え? なんで私は泣いているの? 悲しいなんて感情はとっくに捨て去ったはずなのに……」

「やっぱり気がついていなかったのですね……」


 止まること無く溢れ出す涙にヒイロが困惑していると、優しい表情をしたメイが話しかける。


「ヒイロさん、もう我慢しなくてもいいんですよ……初めてお会いしたときから、ずっと引っかかっていたんです」

「あなたは何を言っているのですか……私が我慢しているなんて……」

「私の想像ですが……ずっと誰にも相談も話すことができず、()()()()()()()があるのではないでしょうか?」


 言葉を聞いたヒイロの目が一瞬大きく見開いた。しかし、すぐ表情を戻して声を上げるが先ほどと違い、明らかに動揺しているのは明白だった。


「なんのことでしょうか? 私が何かを抱えているとか……そんなことがあるはずがありません!」


 先程までの冷静さを失ったヒイロに対し、震える声を押し殺すようにメイが叫んだ。


「いいえ、違います!」

「う……何が違うというのですか! 私は……」

「いい加減にしてください! そんな悲しい目をしないでください……過去に何があったのか私にはわかりません。でも、見過ごすことなんて……できないです!」

「……」


 必死に訴えるメイの姿を見て、何も言えなくなるヒイロ。


「せめて、何があったのか話してくれませんか? 少しでも力になれることがあるかもしれませんから……ヒイロさ……」


 メイが必死に訴えかけようと口を開いた時だった。


「うるさい!」


 感情が爆発したようにヒイロが叫んだ時、閃光がメイに向かって放たれる。


「危ない、メイ!」


 異変に気がついた冬夜が、メイに覆いかぶさるように飛びつく。そして、二人が地面に倒れ込むと同時に、先程いた場所で火が弾け飛ぶような爆発が起こる。


「危なかった……大丈夫か?」

「う、うん……いったい何が起こったのかな?」


 驚いたメイが目を丸くしていると、先に立ち上がった冬夜が手を差し伸べる。そして、空を睨みつけながら話しかける。


「……できることなら穏便に済ませたかったが……」


 冬夜が見上げた先に視線を向けると、禍々しい黒いオーラを身に纏って苦悶の表情を浮かべるヒイロの姿が映る。

 感情が爆発し、正気を失っているような彼女を止める手はあるのだろうか?

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