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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第Ⅷ章 崩れ始める世界

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第10話 謎の空間と悲しみの交差

 メイの言葉を聞いて笑っていた冬夜だったが、すぐに現実に引き戻される。


「そういえば、ここはどこなんだろうね? 座卓も無くなってるし、床も畳じゃないよ」

「たしかに……さっきまで俺たちは和室にいたはずだよな?」


 メイの言葉を聞いて冬夜が視線を動かすと、目の前にあった座卓が消えていた。それだけでなく、畳だった床が白っぽい謎の材質に変わっていたのだ。


「この雰囲気はなんか見覚えがあるような……ハッキリとは思い出せないけど」

「そうなの? この床すごく不思議な感じだよね。固くも柔らかくもないのに、すごく弾力があるし」


 冬夜がゆっくり床に触れてみると、メイが言う通り不思議な感触が手に伝わる。見た目ほど固くはないが、クッションのような柔らかさがあるわけでもない。近い感じでいうなればシリコンのような弾力のある素材で構成されているようだった。


「ほんと不思議な感触だ。どんな構造をしているのか全く分からないが……」

「ふふふ、プロフェッサーさんが見たら大騒ぎしそうな感じだね」

「ああ……副会長ならあり得るな……」


 冬夜の脳裏によぎったのは、未知の素材を目の前にして大はしゃぎしている芹澤の姿だった。謎の実験を繰り返すことをアイデンティティと豪語する彼にとって、興味を示さないわけがない。そのたびに巻き込まれるのは、だいたい冬夜なのだが……


「ダメだ。あの人がここにいたら、まためんどくさいことに巻き込まれる未来しか見えてこない……」

「そうかな? 私は結構楽しいと思うよ」

「……メイ、いつまでも純粋なままでいてくれよ」


 笑顔で答えるメイを見て、額に手を当てると大きくため息を吐く冬夜。そして、小さく顔を左右に振ると、真剣な眼差しを彼女に向けて語りかける。


「いつまでもここでジッとしているわけにはいかない。ヒイロさんも巻き込まれている可能性もあるし、助けに行かないとな」

「うん。もし怪我とかしていたらすぐに手当てしないといけないし……」


 言葉を聞いたメイの表情が曇り始める。その様子を目の当たりにし、両手を固く握りしめる冬夜。真っすぐ彼女を見つめると静かに語りかける。


「メイ、今から結界を解くぞ。何があるかわからないから俺の傍を離れるな」


 真剣な表情で話す冬夜を見て、小さく頷くメイ。


「よし、少し伏せていてくれ――解除(ディスペル)


 冬夜が短く詠唱を唱えると、黒い球体の上部から霧が晴れるように結界が霧散していく。そして、少しずつ周囲の状況が明らかになる。


「な……何もないだと……?」


 冬夜の視界に入ってきたのは、遮るものが何もない地平線まで続く真っ白な床が広がる空間だった。ゆっくり顔を上げたメイはあたりを見渡すと、心配そうな表情で話しかける。


「ここはどこなんだろう? ヒイロさんの姿も見えないし……無事なのかな?」

「そうだな……姿を隠すような場所もないし、人の気配もないな」

「うん……もしかして私たちとは別の場所に飛ばされちゃったとか……」


 思わず漏らしたメイの言葉を聞いて、冬夜の表情が少しずつ曇り始める。


(ヒイロさんが言っていた彼女っていったい誰なんだ? 誰かに狙われているような言い方だったし……いったいあの人は何者なんだ……全くわからない、敵なのか味方なのか、それとも……)


 様々な考えを巡らせながら小さくため息を吐き、冬夜がロザリオを握る手に力を込めた時だった。


「ふふふ。あの魔法をちゃんと防げたということは、第一段階としては成功のようですね……まあ、この程度で倒れてもらっては後継者として力不足でしたから」

「この声は……まさか」


 突然聞こえた声に驚いた冬夜が顔を上げるといつの間に現れたのか、禍々しい黒いオーラに身を包んだヒイロが空中に浮かんでいた。


「え? ヒイロさん……ですよね?」


 ヒイロの姿を見た冬夜が思わず問いかける。空中に浮いていた彼女の姿は、和室で話していた時とは別人のようだった。透き通るような銀髪は真っ黒な黒髪に変わっており、頭にはオオカミの耳のようなものが生えていた。あまりの変わりように言葉を失っている冬夜たちを見下ろすと、笑みを浮かべて話しかける。


「ふふふ、どうされたのでしょうか? ヒイロで間違いありませんよ」

「あ、え、いや……先ほどまでとは雰囲気が違いすぎるというか……」


 空中に佇むヒイロを見た冬夜が困惑していると、隣に立つメイが耳元で囁く。


「冬夜くん、見た目や雰囲気はかなり変わってるけど……ヒイロさんで間違いないと思うよ」

「うそだろ……さっきまであんな禍々しいオーラなんてなかったし、頭の耳はどう考えてもおかしくないか?」


 言葉を聞いた冬夜が困惑しながら問いかけると、メイは少し困った表情で答える。


「うん、冬夜くんの言っているのもわかるよ……だけど、ヒイロさんからすごく悲しい感じがしているの」

「ものすごく悲しい感じだと? それはいったいどういうことなんだ?」

「わからない……けど、何か理由があるはずだと思うの」


 真剣な表情で訴えかけるメイを見た冬夜が思わず黙り込み、重たい沈黙が空間を支配し始める。


(たしかに何か覚悟を決めたような雰囲気は伝わってくるし、さっき話していた時も節々に悲しさのようなものは感じた……)


 必死に訴えかけるメイと敵意むき出しのヒイロを交互に見る冬夜。


(俺は何をするのが正解なんだ……?)


 正解が見えず、揺れ動く気持ちの中で困惑する冬夜。

 様々な感情と思惑が交差する戦いの――幕があがろうとしていた。

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