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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第Ⅷ章 崩れ始める世界

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第7話 食い違う記憶

 先程まで笑みを浮かべていた時とは打って変わり、真剣な目で二人を見つめるヒイロ。まるですべてを見透かしているような視線を向けられ、心のなかで焦り始める冬夜。


(落ち着け……まだ何も聞けていないんだ。だけど……彼女の瞳を見ていると、何もかも見抜かれているような感じに思えてくる)


 心の焦りを悟られまいと表情を変えず、黙り込んでしまう冬夜。お互いに言葉を発することができず、壁にかけてある大きな時計の針が時を刻む音が響く。まるで和室だけが別空間に切り取られたかのような静寂が支配し始めた時、隣りに座っていたメイが口を開く。


「ヒイロさん、私からお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 メイの質問を受け、ヒイロの表情に一瞬緊張が走る。


「はい、何でも聞いてください」

「ありがとうございます。冬夜くんのお母さんとお友達だと伺いましたが、どんな方だったのか教えてもらえませんか?」

「え……ル、ルナのことでしょうか?」


 予想と違う質問が飛んできたのか、拍子抜けしたように口を開けて思わず聞き返すヒイロ。


「はい! 瑠奈さんのことです。以前、学生時代のことは少しだけお聞きしたのですが、あまり詳しく教えていただいていなくて……あ、すみません! 私なんかが聞いちゃって……」

「いえいえ、いいんですよ。少し意外なことだったので、ビックリしちゃいました」


 顔を赤くして俯くメイの様子を見たヒイロは口元に右手を当て、笑みを浮かべ始める。二人の様子を見た冬夜は、安堵したような表情を浮かべて話し始める。


「メイ、口火を切ってくれてありがとう。助かったよ」

「冬夜くん、ごめんね。どうしてもお母さんのことが気になっちゃって……」

「いや、俺も母さんのことは聞きたかったからさ。じいちゃんたちもあんまり話してくれなかったし」

「そうなんだ! 前にレアさんから聞いたけど、結構大人しそうな人だったから……」

「え? ルナが大人しい? それは本当の話ですか?」


 メイの言葉を聞いたヒイロが目を大きく見開き、座卓の上に両手をついて身を乗り出しながら問いかける。


「え? ヒ、ヒイロさん、落ち着いてください。危ないですよ!」

「あ、私としたことが……すみません……」


 驚いた冬夜が慌てて声を掛けると、今度はヒイロが顔を真っ赤にして俯いてしまう。その様子を見たメイが笑いながら話しかける。


「ふふふ、ヒイロさんがそこまで驚かれるとは思いませんでした」

「すみません……私の知っているルナの印象と、あまりにも違ったので……」

「そうなんですね。改めてどんな方だったのか、教えていただけますか?」


 太陽のように眩しい笑顔で話しかけるメイを見て、優しい表情になるヒイロ。


「もちろんですよ。私がルナと出会ったのは、まだお互いに子供の頃でした。当時の彼女は好奇心の塊というくらい元気いっぱいで……興味を持ったら一直線に突っ走るような女の子でした」

「そうなんだ……なんかレアさんから聞いていた印象とまるで違うな」


 懐かしそうに語るヒイロを見て、冬夜は眉間にシワを寄せると腕を組んで考え込む。そんな彼の様子を気にすることなく、彼女は話を続ける。


「あと、すごく寝起きが悪かったのはよく覚えてますよ。ほんと朝寝坊は日常茶飯事でしたし、寝ぼけてベッドから転げ落ちるとかよくありました」

「……俺が朝が弱いのは母さん譲りだったのか……」


 話を聞いていた冬夜は右手を額に当て、大きなため息を吐きながら項垂れる。


「ふふ、冬夜くんも朝寝坊さんだもんね」

「メイ、そこは訂正させてくれ。たしかに朝は弱いが、ベッドから落ちたりとかはしていないぞ」

「そうなの? 寝相が悪くて起こすのが大変だったって、リーゼさんから聞いたよ」

「リーゼのやつ、メイに余計な話をしやがって……」


 話を聞いて徐々に怒りが湧いてきた冬夜は、肩を震わせながら呟く。その様子を見ていたメイは、心配そうに声をかける。


「冬夜くん、どうしたの? 何か辛いことでもあった?」

「大丈夫だ……ちょっと文句を言いたいことができただけだからさ」

「そうなの? 溜め込む前にお話聞くからね」

「ああ、ありがとう。リーゼのやつは他になにか言っていなかったか?」


 メイに怒りを悟られないように声のトーンを一定にして話しかける冬夜。すると、彼女の口から思わぬ追撃が襲いかかる。


「リーゼさんは何も言っていなかったよ? あ、プロフェッサーさんがぐっすり寝てくれるおかげで興味深いデータが取れて助かるって」


 言葉を聞いた冬夜が勢いよく顔を上げると、鬼気迫る表情でメイに問いかける。


「ちょっと待て! 俺は寝ている間に何されてんだよ! メイ、副会長はなんて言っていた?」

「え? 私も気になって聞いてみたんだけど、『それは企業秘密というやつにしておこう』って、笑いながらいなくなっちゃったんだ」

「秘密どころじゃない! 部屋の鍵はいつも締めているのになんで? どうやって侵入してるんだよ」


 両手で頭を抱え、大声を上げる冬夜。その様子を見たメイが手を軽く叩き、思い出したように話しかける。


「そのことについても聞いてみたんだよ。そうしたら、『プロフェッサーに不可能など無い』って言っていたよ。すごいよね、プロフェッサーさん」

「そこは感心するところじゃない! 不法侵入だから、俺のプライベートを返してくれ!」


 頭を抱えたまま悶絶している冬夜に対し、不思議そうな顔をしているメイ。対照的な二人の様子を見て、思わず笑いがこぼれるヒイロ。


「ふふふ、ずいぶん愉快な方がいらっしゃるのですね。でも、お話を聞いていて安心しました……ルナの子供なんだなって。これなら安心して()()()()()()ですね」

「ん? 任せるって何をですか?」


 ヒイロが発した意味深な言葉を聞いて、正気に戻る冬夜。すると彼女から笑顔が消え、一段低い声のトーンで話しかける。


「すぐにその意味はわかりますよ……」


 言い終えると不敵な笑みを浮かべ、真紅の瞳を細めるヒイロ。


(まずい……この人が考えてることがまったく読めないぞ)


 冬夜の額から一筋の汗が流れ落ち、再び奇妙な緊張が漂い始める。

 ヒイロは一体何を企んでいるのか……

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