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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第Ⅷ章 崩れ始める世界

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第6話 嵐の前の静けさ

 座卓を挟んで正面に座った冬夜とメイの表情は、緊張しているのが明らかだった。その様子を見たヒイロが右手を口元に当てると、笑いながら話しかける。


「ふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。()()()()にして頂いて良いですから」

「そう言われましても……母の大切な友人ですからね」


 笑みを浮かべて話しかけるヒイロに対し、真剣な表情を崩さない冬夜。そんな様子を見かねたメイが、二人に割って入るように声を上げる。


「冬夜くん、緊張するのはわかるけど……ちょっと顔が怖いかも」

「え? そんな顔していたか? 自分では普通にしていたつもりだけど」

「ううん、すごく怖い顔をしていたよ。怒っているような感じじゃないけど、質問されても答えにくいって言ったらいいのかな? 気軽に話しちゃいけない感じだったよ」

「マジか……」


 メイの指摘を聞いて、額に右手を当てて顔を上げる冬夜。そんな二人のやり取りを見ていたヒイロが少し寂しさを漂わせながら小声で呟く。


「……いいな、仲良く二人で話せるって……私もルナと()()()()()()()()()()()()()ら、こんな風な普通の生活を送れたのかな……」


 先程までの笑みは消え、どこか遠くを見つめるような虚ろな瞳をするヒイロ。そんな彼女の様子に気がついたメイは、心配そうな顔で問いかける。


「ヒイロさん、大丈夫でしょうか? どこか調子が悪いのであれば、遠慮しないでくださいね」

「え、あ、はい。大丈夫です。お二人の様子を見て、少し昔のことを思い出していただけなんですよ」

「そうなんですか。もしよければヒイロさんのお話もたくさん聞いてみたいです」

「ふふふ、いいですよ。そんなに大したことは経験してませんが……ぜひ楽しくお話したいですね」


 メイと話しているヒイロに先ほどと同じような笑顔が戻り始める。二人の様子を静かに見守っていた冬夜は、小さく息を吐くと心の中で呟いた。


(ほんとメイはすごいよな……母さんの友人と聞いただけで、頭が真っ白になった俺とは大違いだ。でも……ヒイロさんが見せたあの寂しそうな顔ともう少し長くって、どういうことなんだ? 古い友人とは聞いたけど……)


 腕を組みながら冬夜が考え込んでいると、隣りに座るメイが少し怒ったように声を掛ける。


「あー! また難しい顔をしてる! せっかくヒイロさんとお話しているのに、ダメだよ」

「え? あ、ゴメン……ちょっと他ごとを考えていてな」

「もう……冬夜くんの悪い癖だよ。何か考え始めると、いつも眉間にシワが寄ってすごく話しかけにくいんだもん」

「そ、そうなのか? 自分ではわからないもんだが……気をつけるようにするよ」


 頬を膨らましてそっぽを向くメイに対し、必死になだめようと話しかける冬夜。そんな二人の様子を見ていたヒイロは思わず吹き出し、笑いながら話しかける。


「あはは、本当に二人は仲が良いですね。お互いのことを深くわかり合っているといいますか」

「あ、いや、なんかすいません……」

「は、はい……仲良くさせてもらってます」


 ヒイロの言葉を聞いた冬夜とメイは顔を見合わせ、茹でダコのように真っ赤になって俯いてしまう。


「ふふふ、本当に初々しくて羨ましいですね。勇気を出して訪ねてきた甲斐がありました。きっとルナも喜んでいると思いますよ」

「え? 母さんも喜んでいる?」

「ええ、間違いないと思います。詳しくは言えませんが……こんなに仲良くしてくれる人がそばにいるなんて、すごく幸せなことですから」


 まるで小さい子供を見守る母親のような目で冬夜を見るヒイロ。外見の幼さからは考えられない達観した様子に、頭の中が混乱し始める冬夜。


(だめだ……ヒイロさんと話しているとどうしても調子が狂うな。見た目は俺たちと変わらないのに、言葉の節々に現れる例えようのない重みというか経験の差をひしひしと感じる。本当に母さんの友人というのは本当なんだろうが……どうしても外見に騙されてしまって……一体何が正解なんだ?)

「ふふ、どうされました? 何か言いたげな感じですが……当ててみましょうか?」


 口元に右手を添えたまま笑みを浮かべるヒイロだが、冬夜を見る視線が一気に鋭くなる。まるで蛇に睨まれた蛙のように身動きが取れず、固まってしまう。


(な、なんだ? 半端なさすぎるプレッシャーの乗った視線は……まったく目をそらせないし、顔を動かすことすらできないぞ……目があっただけなのに、なぜだ?)


 例えようのない圧が乗ったヒイロの視線を受け、額から汗が流れ始める冬夜。なんとかしてこの状況を打開しようと、必死に口を開く。


「そうですね……ヒイロさんが何を考えているのか、ぜひ聞いてみたいです……」

「あら? 私の考えてることが聞きたいのですか? 強いて言うのであれば、ソフィーさんが入れてくれるお茶が楽しみだなっとワクワクしていることですね」


 先ほどと変わらない笑みを浮かべ、和やかな口調で答える。


(いやいや、ありえないだろうが! そんな穏やかなことを考えてる人の視線じゃねーぞ! ダメだ、完全に話の主導権を握られてしまっている……なんとか穏便に切り抜けないと)

「はは、そうですね。ソフィーの入れてくれるお茶はすごく美味しいですから」

「そうなんですね。すごく楽しみです。ソフィーさんが戻って見えたら、お茶を頂きながら楽しくお話したいですね」


 ソフィーの名前を聞いて、一瞬ヒイロから放たれる圧が緩やかになる。


(よし……僅かだが、彼女の視線が緩んだ! ここで一気に主導権を引き戻すぞ)


 些細な変化を見逃さなかった冬夜が姿勢を正し、まっすぐ彼女を見据えると真剣な表情で口を開く。


「ソフィーが来る前に場を仕切り直したいと思います。改めてになりますが……ヒイロさん、本日はお越しいただいてありがとうございます。俺の方からいくつかお聞きしたいことがございますが、よろしいでしょうか?」


 先程までとは違う空気を纏う冬夜に対し、一瞬驚いたような表情を浮かべたヒイロ。すると、雑念を振り払うように顔を左右に振ると、まっすぐ冬夜を見つめ返した。


「私で良ければ分かる範囲でお答えしましょう……」


 応接室に漂う空気が緊張感を帯びたものに変わり始める。

 冬夜の問いかけに対し、ヒイロは何を話すのか?

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