76. 恐ろしいもの
あっさり誘拐された俺だが、テオのお陰で無事帰還出来た。カイラスからこってりお小言をもらい、当面の外出禁止を言い渡された。王様たいくつーぅ。
いや語尾を女子高生っぽくしている場合じゃないな。反省。あれからテオも不機嫌だったし、カミルは可愛い私を常に連れて歩かないからだと。
ペットに守られる飼い主。
仕方なく大人しくしていた。俺を拐った魔術師は魔法の得意なエルフがやって来て監視している。首謀者を吐かせようとしているが、予め掛けられた魔法により肝心な部分は喋れないみたいだ。だが、彼等は高位の魔術師だ。魔術師は世界でもそれほど多くはない。
この大陸にある国で魔法で転移門を設置できる規模の国。候補は幾つかに絞られた。
「私が協力するぞ。ドラゴンの実力を見せてやる」
「やめい。ドラゴンを飼ってるのは重要機密だ。カイラスも呉々もばれない様に念を押されている」
まあその内ばれそうだけど。カイラスも気付かれるまでは、絶対に隠して下さいと。危険生物第一位なので、他からの反応が予測出来ない。危険な国だと思われたく無いらしい。
ちっこいオッサンとテオがいるので、今更ではないかと思う。そこにドラゴンが加わっても違和感は無いのでは。国の成り立ちから規格外だし、既に色々手遅れな気がする。
「ユキツネ、外出禁止だってね、ププッ」
「エレノアよ、王に対してその態度はなんだね。常日頃から思っていたが、もっと敬っても良いんだぞ」
「あーら、敬わって欲しいの?陛下、ご尊顔を拝聴賜り大変光栄に存じますわ」
「どっからそんなの覚えて来たんだ」
「メイド長の三人からよ。何時も私がなってないって叱られるの」
小さな村で自由奔放に育ったエレノアは、俺に対する態度が軽々しい。まあ変に敬われても困るが。城から出られないとやる事が少ない。海にでも行ってみるか。
「という訳で海に行ってくる」
「いや、意味わかんないよ。私も行って良い?」
現在エレノアの店は大盛況である。カレーの人気に火がつきスパイスは爆売れ、それに伴い城の野菜も大人気。今は野菜がほぼ無くなってしまったが。ついでに置いてあるエルフの作った雑貨も人気が高い。すっかり店のオーナーとして成長したエレノアだが、暇人か。
「店の責任者なのにふらふらしてて良いのか」
「ユキツネ程じゃないよ。ユキツネは王様でしょ」
おう、盛大なブーメラン来た。確かに王様は一番落ち着かなきゃいけないポジションだった。そのせいで誘拐もされたし、反省せねば。
街に行くのは禁止されたが海の街は別である。現在は海産物の開発で忙しいし、俺がいなきゃ始まらないのだ。現在作物が壊滅的被害にあったから、食料の確保は国としても重要事項だ。
城の地下へ降り俺とテオ、エレノアにカミルを加え海へと移動した。前に見たときはまだバタバタしていたけど、今は活気づいているようだ。
「あっ、陛下だ。いらっしゃい、歓迎するよ」
最初に出会った魚人族の女性、ララが俺達を見つけた。まあ規模の小さい村だ。直ぐに気付かれる。最初に建てた大きな建物はヒ・イズルから来る俺達の為のもの。魚人族には各々が住める家を設置してある。今は女性陣が干物とか作っていた。
「こんにちは、なんだか急がしそうなのね」
エレノアが声をかける。
「そうなのよ、今までは自分たちの分だけだったけど、色々作って欲しいって頼まれたからね。以前よりも安全に生活出来るから、期待には応えるわ」
干物とかは以前から作っていて、こっそり町で売っていたみたいだ。勿論その姿は隠していたそうだ。魚人族は魔物に間違われたりするので、そのままだと面倒くさいらしい。だからよっぽどで無い限り町にはいかない。
「丁度良い、話があるんだ」
魚人族のララに今回のバッタ襲撃を伝え、食料の供給を強めたいと伝える。エルフの村でも干物とかを作りたいのだ。
「なるほどね、バッタか。私達も山菜とかを食べるから、そんなのたまんないわね」
今よりも魚の量を増やして少しでも食料を増やす。勿論買い付けに他の場所にも行きたいが。取り敢えず今作っている物を見て回る。
「昆布も溜まったな。寒天も出来てるし先ず先ずだ」
「寒天は良いけど昆布はどうなの?おっきい草ってだけで固そうだし」
昆布を見たエレノアの感想だ。昆布に関しては魚人族もいまいちな反応だった。
「そうなのよ、初めにこのそこいらに転がっている海藻を食べるって聞いた時は、耳を疑ったわ。海藻は新鮮な物しか食べないもの」
「昆布は旨みが詰まっているんだ。スープには欠かせない調味料だぞ。味噌汁は本来昆布で出汁をとるんだ」
エルフの村で味噌を作っているが、本格的な味噌汁は作れない。鰹節があれば完璧だけど、流石にそこまでは作れない。昆布は持ち歩いて使えるから、旅では活躍しそうだ。
「ユキツネ、人間の話は詰まらんな。そこいらを飛んできても良いか」
勝手について来たカミルは退屈みたいだ。
「止めろ、魚人族の村は小さい。ここから飛び立てば村人全員に気付かれる」
「何の話?カミルは退屈なのね。ふふっ可愛いなあ」
「そうなのだ。なのにユキツネは私をちっとも可愛いがらず、そこの獣をなで回して喜ぶんだ」
「ええー、そういう趣味…… え、いや人族は変わった趣味の人が、沢山いるって聞いたわ。魚人の肌の感触も違うって、喜ぶ人もいるみたいよ」
「ユキツネってやっぱり………… カイラスがもっと陛下に女性に興味をもって欲しいって、ぼやいていたもの」
「止めろ、俺は男にも子供にも興味はない。大人の女性一択だ」
くそう、変な噂を振り撒くな。カミルのせいで幼女好きかと疑われているのに、男に走った等と噂されたくない。
「丁度良い、ここの皆には言っておくが、テオは霊獣なんだ」
「霊獣?聞いたこと無いわ」
人族との繋がりが薄い魚人族は霊獣を知らないようだ。テオは本当は獣人ではなく、人智を越えた存在だと話す。その場で聞いていた女性陣も戸惑いを見せる。
「見てもらった方が早いか。テオ」
テオを振り替えるとため息を一つつきつつ、獣へと変身していった。
「キャア!ま、魔物だ!!」
「違う!テオは霊獣だ。精霊と近い存在だ」
テオの姿に皆は震えた。美しい獣は再び人の形へと戻っていった。誰もが怯えた目をしている。
「皆聞いて欲しい。魚人族が人から魔物に間違わられる様に、テオも魔物ではない。知性と教養を持った生き物なんだ」
「そうだな分かったよ。私達は人族が魚人を恐れる気持ちが理解出来なかったが、人は見たことの無い物を恐れるんだな。なあ皆、そんな顔は止めよう」
「え、ええ。少し容姿が違うだけで石を投げる、子供の気持ちが分からなかった。でも知らないものは恐ろしいのね」
ララの呼び掛けに皆は落ち着きを取り戻していった。だがテオとの距離は確実に出来てしまったようだ。
「ごめん、いったん帰るよ。騒がせて悪かった」
「あ、陛下。出来上がった干物を持っていってよ。こっちは新鮮な魚だよ」
ララが渡してきた物に対価を支払い、再び城へと戻った。
「テオごめん、嫌な思いをさせた。わざわざ見せること無かったな。俺は何時も深く考えないで行動する。テオにこんな気分にさせるつもりじゃ無かったんだ」
「気にしていない。人は何時もそうだ。あれが普通の反応だ」
「私もドラゴンに変身していたら、あのようになるのか。母さまが何時も言っていた。人化するのを見られるなと」
テオは勿論、カミルも気分が下がってしまったみたいだ。カミルは以前から魚人と交流があったから、あの反応はショックだったのだろう。
家に帰った俺は落ち込み大いに反省した。テオは馴れているといったが、そんな筈はない。ヒ・イズルでもテオの正体を知らない者がいる。そのままでも人はテオを恐れるのだ。強く魔力溢れる存在を畏怖する。
それから暫くは余り家から出なかった。




