75. 魔術師達
裏路地を歩いていた俺は誘拐された。後ろ姿に縛られ背中を蹴られる。勢いよく地面に転がり肩を打ち付けた。
「ッツ!」
「おっと失礼、曲がりなりにも王様だったな」
俺を捕らえた男がフードをとる。ニヤリと口許を歪め見下ろしていた。他の男もフードを外す。
「しっかし運が良かったな。一番厄介な護衛が離れていたから、隙をつくことが出来た」
「ああ、あいつがいたら捕らえられなかった」
畜生、何時もは素で歩いていたからテオが側にいた。だが今日は離れて歩いて裏路地に入った。狭い路地の角でまんまと捕まったって訳だ。珍しく忠告したテオを無視したばっかりに。
「全くこいつは噂通り、いや噂以上に平凡な男だな。あんな大きな国を興したとは思えない。よっぽどの強運だったんだろう」
「霊獣とやらも見えなかったし、本格的に精霊に見捨てられたか」
「違いない、早く処刑してしまおう。万が一があったら事だからな」
処刑?!なんて野蛮な連中だ。こんな所で俺の人生は終わってしまうのか。会社勤めに嫌気がさし、田舎での生活を始めるつもりが、何の因果か異世界暮らし。おまけに王様だってよ。そんなの許容出来るかよ!俺はまだ死にたくない。
「ちゃんと一部始終を記録しないとな。あの国の連中に王様の最後を見せてやらないと」
「記録?何を………… 」
「お前が処刑される場面を見せて納得してもらうのさ。ヒ・イズルが我が国の支配下に置かれるのを」
コイツら国を乗っとるつもりか。ちっこいオッサンさえいれば、こんな連中一捻りなのに。俺が居なくなればオッサンはバラバラになるが、自分が造った土地にこんな連中を入れる筈がない。俺の家━━━━━ 城を守るのは最低限の務めだと言っていた。
家に着く精霊は家の主と土地に仕える。だが、無条件ではない。主が気に入らなければ精霊は出ていくのだと。日本では座敷わらしみたいな存在。精霊の消えた家はたちまち衰退し、滅びるそうだ。
昔滅びた国ってまさかドノムの仲間………… なわけ無いか。これだけの規模の国はオッサンが十人揃ったからだ。通常は一家に一人だし。ああ、皆ごめん。こんな形で国を終わらせて。立派な国にして次の王様に託したかった。精霊が気に入る王様に。
一人が魔力のこもった鏡を構え、俺を映し出す。各々が俺を囲んで魔方陣が出来上がった。
怖い。ぎゅっと目をつぶると、グァツと呻き声が上がった。長い尻尾が見える。
「俺を出し抜くとは、良い度胸だな。お前ら覚悟はいいな」
僅かに見えるテオの瞳が金色に輝いていた。床の魔方陣もいつの間にか消えていた。
「ファイア……」
ドン!テオが右手を前にかざすと、魔法を唱えようとした男の魔術が霧散した。テオの怒りは収まらない。
「グルルルルル!」
大きく牙を覗かせた口許。そのまま身体中が体毛に覆われていく。四つん這いになり、その本来の姿を現した。
「れ、霊獣。これが、霊獣、か」
大きな獣は低くうなり声をあげ、鼻にしわを寄せている。今まで見たことの無い、野生の獣の姿。正直俺でも怖いと感じるほどだ。そのまま身を屈め、飛びかかる姿勢だ。
「テオ!殺すなよ!」
俺の言葉と同時に正面の人物に飛びかかった。地面に押し倒された仲間を見て、逃げ出そうと三人は駆け出す。その三人を軽い跳躍で次々と押し倒した。
『グルォオオオオ!!』
男達が逃げようとする度に飛びかかり、爪をたてる。テオに転がされ続けた男達は全身に擦り傷が出来ていた。その内テオは一人に軽く噛みついた。
「ギャア!」
「テオ!」
気を失っただけみたいだ。恐怖に震える男を次々と噛めば、全員意識を失った。するとテオは人型に戻る。
「テオ、やり過ぎじゃないのか」
「ユキツネは甘いな。魔力を吸いとっただけだ。お前は殺される所だったんだぞ」
ああ確かに怖かった。しかし今は全員泥だらけで傷だらけだ。爪痕と擦り傷は生々しい。男の一人のマントを切り裂き、手足を縛った。木の棒を噛ませて口も縛る。
「コイツらは魔術師だ。少なくとも転移の魔術は時間が掛かる。念入りに用意したんだろう」
「テオはどうして場所が判ったんだ?」
「お前が消えた場所の魔力を辿った。魔法を使うのを待ってそこにとんだ」
「テオ…… とんだって。テオは転移出来たのか」
「無論だ」
吃驚だよ。今まで散々旅して来てずっと地道に歩いていたのに。テオは魔法がつかえるんだ。それも人間とは比べ物にならなくて、全種類満遍なく使えるんだとさ。だが、他の人間と一緒に行けるかは不明だと。
じゃあ帰れないのかと尋ねれば、男の一人から大きな魔石が出てきた。逃走用であろう魔石を使って城へと飛ぶ事にした。気絶した五人も含め城の地下へと。
城に着いたら人を呼ぼうと上に出ていく。一階で歩いているとカイラスが何やら慌てて駆け寄って来る。
「陛下ぁああああ!よくぞご無事で」
「カイラス、どうしたんだ」
「どうもこうも、陛下が誘拐されたので兵士が慌てていたのですよ」
そうか。離れて着いてきたのはテオだけじゃなく、城の兵士もいたんだ。俺が消えたから慌てて知らせた、と。かいつまんで事情を話し、地下の人物を拘束する。
慌ただしく警備を強化し、俺は外出禁止にされた。




