74. 振り返れば奴がいる
俺がちっこいオッサンの帰りを待ちわびていた頃、他国ではこの災害に対する策を練っていた。僅かに山脈の向こう側の五か国だけが、被害を免れた。エルモニアを始めとする国々。だが山の向こうは面積が少なく、大陸全土は困窮していた。
そんな中ある噂が広がっていたのだ。
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「ヒ・イズル国が精霊の加護を失っていると?」
「はっ、他国と同様に国民が僅かな抵抗をしましたが、その被害は甚大で未だ回復の兆しがないと」
大陸の南側にある国メルギデッドの王であるダルシアは考える。
以前にリンドガルディアの王から、精霊の加護を受けた新興国ヒ・イズルに手出し無用との通告を受けた。呪われた土地に築かれた国。それは通達を受けるまでもなく、近寄り難い閉ざされた場所にあった。
精霊に愛されし国。それは瞬く間に大きくなって発展した。かの国には貧しい人がいない。どの国でも抱える問題だが、老若男女問わずに職にありつけるのだとか。
子供は全員無償で教育を受け、食事を施しているのだとか。教育をすることでこの先の職業の選択の幅を広げるのだと。
かの国の精霊がどんな力を持っているのかは誰も知らない。だが巨大な城を建て立派な街並みを作った。今まで見た事も聞いた事もない、途方もない力を使う精霊がいるのだ。
たった一人の人間の為に。
その姿を記録する鏡に残された男の顔は、なんとも平凡な顔だった。少し幼く見えるのはそういう民族だそうだ。森の奥にある場所が開拓されたのだ。そこならばそこそこの食料が望めるだろう。優れた技術をもつドワーフが住んでおり、産業も期待出来る。
厄介なのはエルフだが、離れた場所に村があるとか。どうにでもなる。一気に制圧出来ればリンドガルディアの王とて文句も言えまい。魔力を蓄えた精霊石と呪文を練り込んだ絨毯を送り、魔術師が一斉に攻めれば。
そうと決まれば早急に行動に移そう。他国に目を付けられる前に。
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待ちわびる日々と言うのは時間が長く感じるものだ。オッサンの帰りは延びるかも知れないのに、待ち遠しく思ってしまう。無惨な姿を晒したままの街路樹だけでも、綺麗にしてやりたい。
「ユキツネは気負いすぎだよ。他の国だって被害を受けてるし、こんな事で悩んでいたら長なんて務まらないよ」
エレノアの言い分も最もだがどうにもならなくても悩むのは、王様の性分だろう。ひょっとしてこの先ちっこいオッサンが居なくなってしまったら、問題は増えるだろう。精霊は気紛れだって話だ。ある程度発展してしまったこの国に、何時までも留まってくれるとは限らない。
まだ起きていない事を考えてもしょうがない。俺に出来るのは皆にしょげた顔を見せないことだ。国のトップである俺が元気ないと、きっと皆は不安になるだろう。なんでもないふりをして居なければ。
だが、やっぱり国民は不安に思っていた。精霊が一時的にいなくなったとは知らない。だから俺に対する不信感や不満が溜まっていたとは思っていなかった。
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「なあもうこの国はお仕舞いじゃないのか?精霊が居てこその国だったのに」
「今まではあっという間に道や建物を整えて下さったのに、荒れたまんまだね」
「何言ってんだお前ら。俺達は他に行き場所が無かったのに、この国は受け入れてくれたんだぞ」
「でも精霊が居なければ、アイツは王に相応しいと思えるか?」
驚いた。街行く人の会話に。エルフである俺、ニールは久々に城の近くに来ていた。エルフやドワーフは国王であるユキツネ様と共に苦労し、この国を作り上げたんだ。貧しい人に食べ物を無償で施したユキツネ様には頭が下がるばかりだ。
それなのに後から来た奴らは、こんな会話をしていやがる。そもそもユキツネ様が居なければ、ヒ・イズル国は成り立たない。精霊に愛されたユキツネ様が作った国なのに。ここにいる連中だって殆どが貧しい生活をユキツネ様が救ったんだ。
それなのにその恩も忘れて、ユキツネ様が王に相応しくないなんて。俺達やユキツネ様がどれだけ頑張って今に至ったと思っているんだ。
最初はもっと小さな街で誰も居なかった。溢れだした人の群れに翻弄され、ここまで立派な形にしたのはユキツネ様じゃなきゃ出来なかった。
山を切り開き森を突き抜けたのは、ユキツネ様だからこそだ。この国には恩知らずが結構いるのを、歯痒く感じた。
その頃密かに魔術師が入り込んでいるのを俺はまだ知らなかった。
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「ユキツネ、余りチョロチョロするな。精霊の帰りを大人しく待て」
「テオは何言ってんだよ。たまには息抜きも良いだろう。俺は王様なんだぞ」
ぷらっと城を出ようとした俺を珍しくテオが引き止めた。しかし今は国民も混乱しているから、ここは大人しく従うべきか。でも変装すれば行けるんじゃないか。
妥協案で変装してこっそり外に出ることにした。まあ以前からおおっぴらに出歩くなとはカイラスに注意されていた。この国は大勢の人が出入りしているから、簡単に姿を見せるなと。俺は何時までも庶民感覚だが、だんだん変えて行かなきゃ駄目かな。
城の裏口からこっそり出てフードを目深に被る。テオが側に居ては一発で俺だってばれるから、離れてついてきてもらう。賑やかな大通りを避け、少し狭い路地の店を覗いてみる。すると何時もは愛想の良い国民の本音が漏れる。
「この国も駄目なのかねえ」
「精霊がいなきゃなんもねえ国だろ。今までが良すぎたんだ」
「あんたらなに言ってんのさ。こんなに至れり尽くせりでおまんま食わせてもらってさ。あたしゃ精霊なんぞ居なくても、王様に付いていくよ」
国内が荒れたままになっているので、精霊に見捨てられたと思っているのか。今までは一晩で建物を建てたりしていたからな。ドノム達に頼りすぎていたのが裏目に出たか。もっと人力で発展させるべきか。
その時前方に男がいるのが見てとれた。テオと同様に深くフードを被っている。旅人ならば普通の格好だ。だが、少しだけ違和感を覚えた。足早に角を曲がろうとしたところで腕を掴まれた。
「っつ!ユキツネ!!」
テオが叫ぶのと同時に同じフード姿の男が四人現れ、視界が回った。ぐるぐると景色が歪む。
その場から俺と男達は消えた。




