47. 霊獣と侵略者
俺の国に軍隊がやって来る。ちっこいオッサンが整備した道を侵略に使うとはけしからん。色々と会議をして、少し懲らしめてやることにした。
軍勢約五百人。開拓したての村ならば、十分落とせるであろう人数。だがここヒ・イズル国は普通とは一味違うぜ。連中が門の近くまで進行してきたら、仕掛ける事にした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「しかしこの道は快適だな。丸太が両側に並んでいるだけだが、高さが在るから魔物に襲われる心配がない」
「これならば森の奥の素材も回収しやすいな」
「フフフ、ギァラ様も人が悪い。出来立ての弱小国に仕掛ける等」
「この森は我々の知らない素材が採れる。開拓民等では役立てられんだろう?」
「そうですな。ちゃんとした文明を持つ者が管理してやらんとな」
バステドロ国からやって来た将軍、ビルドゥと魔術師ギァラ。彼等は強引に他国から資源を奪うことで、国に利益をもたらしていた。バステドロ国は周囲を硬い岩盤に覆われ、自国の資源は乏しく、国の面積も増やせない弱小国である。その地形のお陰で他国に侵略される事もない。
周囲は硬い岩肌にサボテンが生えている。だから自分達より弱い者を襲うことで、利益を得ようと企んでいる。
「こんな森の奥を開拓するなんて、思いもよらない事をする者がいるものだ」
「罪深き帰らずの森の由来を知らん者が、無謀な挑戦をしたのだな。だが、よくぞ国を興した等と大口を叩いたものだ」
今まで周辺の国々も、森の開拓に挑んだ者はいた。しかしそれをやり遂げた者は現れ無かった。すべからく、命を落とした。どんな強弱が来ようとも、この森は切り開かれる事は無かった。
どうやって森の奥に入り込んだかは知らないが、態々開拓してくれたのだから、これを利用しない手はない。近隣の国はこの森をどうにかしたいと、頭を悩ませていた。
これだけ道が整備されていれば、森を探索しやすいだろう。村が在るなら拠点を作り、探索も進む。
自国よりも小さな国の一つや二つ、簡単に落として見せる。彼等はそう息巻いていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『やるぞ、やるぞい!』
『ワシらの国を~』
『護ってみせるのじゃあー!』
ちっこいオッサンが張り切っておる。オッサンの家=ヒ・イズル国を護るのに、オッサンは余念がない。家を護るのは彼等の本質で、本能とも言える。
徐々に姿を現した軍隊を見て、エルフの村人は怒りを露にする。
「アイツ等だよ!私達を追い出したのは。まだ昨日の事みたく覚えている」
エレノアが唸る。独特な形の鎧を見て、エルフの村を襲った集団と同じ者だと確信したようだ。
「陛下、アイツ等は皆、生かして返しては成りません。根絶やしにするのです」
「同意です。放って置けば同じ事を繰り返します」
「アイツが私の家族を………… 許せない」
遠見の魔道具を使ってその姿を確認すれば、エルフの怒りはただならぬ物になった。あるものは散り散りに、あるものは捕らえられ。エルフの平和を全て奪っていったのだ。
「油を持ってこい!弓矢に染み込ませて、奴等を撃ち取るのだ!」
「そうだ、そうだ!」
「ま、待って落ち着け皆」
エルフは怒りを抑えきれない様だ。だが、俺は人間を無闇に殺す気はない。混乱するエルフをジルフィンが宥める。彼等と同じ蛮族に成り下がってはいけない。
頭に血の登ったエルフに代わってドワーフのタロスが指揮をとる。ヒ・イズル国の門の前に、声を拡散させる魔道具を持って、兵士に忠告をした。
「貴様等、誰の許しを得てこの道をやって来た!ワシはドワーフが長、タロスじゃ。速やかに立ち去れい!」
「何と生意気な。ドワーフの数人等、我が兵の敵では無いわ!」
一応の忠告を無視し、進んで来るので予定通りドワーフが横にあるハンドルを回すと、手前に観音開きの扉が現れ、閉ざされる。
「はっ、これしきで我が進行を止められると思っているのか」
そして後ろの最後尾にも、扉が現れる。完全に閉じ込められた兵は同様をみせる。
「これしき魔術で━━━━ 」
その時両脇の丸太の柵が数本倒れた。ドウンと大きな音がすると、猿共の咆哮が響く。
「ウキャアー、ウホウホ!」
「ギュワー!」
実はテオが獣の姿で暴れ回って、周囲の猿がパニックになっている。数匹が倒れた柵の中に入り込んだ。
「う、打て!そいつを」
「キュアー!!ギャアアア!」
兵士と猿は混乱している。兵で溢れる道には逃げ場が少ない。
「うわぁ!畜生!」
「コイツを取ってくれ」
「やめろ、やめろ」
暴れ回る両者の前に、ブルーブラックの獣が現れた。
『ウオォオオオオオ!!』
「わぁあああ!」
「ヒイッ」
タロスは柵の脇に作られた梯子を登って、再度忠告を促す。
「どうじゃ、彼はこの国を護る霊獣じゃ!我が陛下とその霊獣に手出しするならば、その命は無きものと思え」
霊獣という言葉に、兵は固まった。霊獣はどんな魔物よりも強く、神聖なる獣。目の前にいる獣が霊獣だと?
「グォォオオオ!!」
テオの叫びに猿は退散して行く。兵はすくんで動けなくなった。
「ファイヤー!」
魔術師がテオに放った火の玉は、テオの手前で弾けて散った。
「何をしているんだ!霊獣を怒らせてはいけない」
「黙れ!霊獣等とはハッタリだ。霊獣は人の言うこと等、聞くはずがない!」
その言葉を聞いて兵士が立ち向かおうとした、が。
「ヴォオオオ…… 」
テオの低い唸り声が響いたかと思うと、テオの身体が膨れていった。どんどん大きくなり、三倍程の大きな獣になった。
「あわわわわ」
これにはその場の全員が驚く。魔物が巨大化するなんてあり得ない。この獣は間違いなく、霊獣であるようだ。
「大人しくすれば、命だけは助けてやる。鎧と武器を捨ててこの扉から入って来い!」
大きな扉の隅に人一人がやっと潜れるサイズの扉が開いた。手前の兵士から潜って行くと、縄で後ろ手に縛られる。ドワーフが一丸となって兵士を捕えた。最後に今回の指揮を取ったビルドゥが捕らえられた。魔術師は反撃しようとしたが。
「ううう、くそぉ」
魔法で反撃しようとした所をテオの前足で捕らえられた。巨大化したテオの鋭い爪が、彼の両肩の上の地面につきささる。
「テオの肉球に挟まれるなんて、滅多に出来ないぞ」
「誰だ?」
「俺が王様のユキツネ・ヒヤマだ。その霊獣の友人だ」
「友人、だ、と?」
俺の言葉に面を食らう。だってテオはペットでもないし、支配している訳でもない。テオも惰性で俺の側にはいるが、自分の意思で行動している。
「お前らの事を聞かせて貰うぞ。お前は呪文を使えない様に、くちを塞がせて貰う」
こうして全て捕らえたら、連行する。新たに出来た収容所に、エルフとドワーフが連れて行った。エルフは厳しい目で睨んでいたが。
とにかくコイツ等の話を聞こう。




