46. 平和を乱すもの
暖かくなってきた。広場では子供達が噴水で遊んでいる。子供が遊ぶ場所━━━ 公園も必要か。今度作ろう。
新しい人も落ち着いてきて、少しずつ平穏を取り戻しつつある。そんな中、冒険者ギルドの一行がやって来た。先ずは大量の荷物と、準備を整える要員。下準備が出来れば他の職員もやって来て、本格始動となる。
リンドガルディアから商人が行き来すれば、エルフやドワーフの負担も減るし、普通の暮らしが始まる。やっと国の形が整って俺は安心していた。
安心していたのだ。
「俺の耳が四つある理由?」
テオに直接聞いてみる。頭の耳がピクリと動き、暫し考え込むような表情。
「俺が最初に出会った人間が四つ耳だった」
意外な理由である。森で暮らしていたテオは、度々人間を見かけてはいた。魔物と思われて襲われ無いように、人間とは距離を置いて暮らしていた。そんな時怪我を負った人間に出会った。今まで見てきた人間と違い、耳が四つ有った。自分に似た耳と尻尾。その人間に興味を持ったのだった。
「初めて出会った獣人に興味を持ち、気紛れで助けた。怪我が直るまで森の奥で面倒を見ると、彼は俺を霊獣と讃えた」
獣人にとって、自分と同じ系統の霊獣は神の使いである。崇め敬う存在。そんなテオと出会えた事を彼は喜んだ。獣人の村の片隅で暮らしていた彼は、テオの存在を誰にも言わなかった。
毎日の様に森に来ては、果物や木の実を置いていった。テオはそんなものは自分で採れるし、どうでも良かったが。
獣人の村の端で暮らしていた彼は、テオに良く話しかけた。テオは自分が言葉が分かることは言わなかったので、一方的に会話してくる。その中で解った事がある。
「彼は差別されていた。お前もリンドガルディアで獣人の、俺に対する反応を見ただろう?」
獣人の男はテオを獣混じりと呼んだ。軽蔑するような眼差しで。半分獣人で人間でもある彼は何処にも属して居なかった。そしてある日、テオの存在がばれた。神の使いとこっそり会っていたのを、彼は責められた。
「村人は俺を奉ろうとして、罠を作り捕らえようとしたんだ。ペットみたくな」
無理矢理捕らえようとする村人に怒りを感じた。その時テオは雷の魔法を使った。死なない程度に村人を懲らしめてやったんだ。獣人は神の怒りを買ったと思い、獣混じりである男を責め始めた。お前のせいで神の怒りを買ったのだと。
彼は酷い体罰を受けた上に、村を追い出された。その夜にテオは村を滅茶苦茶に荒らして、別の場所に移り住んだそうだ。
「俺は彼と似ている。獣でも魔物でも無い。勿論人でもな。だから敢えてこの姿でいる。人の醜さを感じるこの姿で」
テオは霊獣で、同じ種類の仲間が居ない。獣や魔物には仲間がいるが、霊獣は唯一無二の存在だそうで、霊獣は死ぬと新たに生まれ変わり、再び霊獣として誕生する。不死鳥みたいだ。
「だからお前は凄く変わっている」
「へ、俺?」
「最初から四つ耳の事も何とも思っていないみたいだし、俺が霊獣であると知っても変わらない。しかも誰もが恐れる俺に、ブラッシングまでしてくれる」
だってそこにモフモフが在るからさ。
「お前だけだ。最初に出会った時も適当に従うふりをして、気に入らなければ喉笛に噛みついていたさ」
やべえ、俺ピンチだったのね。
「だけどお前は俺を利用しない、崇めない。恐れる事もない。だからお前に暫く付き合ってやっても良いと思ったんだ」
テオが俺と出会った時は、人間の街で色々あってやさぐれていたそうな。だから下手に出てわざと従うふりをして、俺の反応を確かめたんだ。
「ずっと居場所が無かった。四つ耳は人間の社会に受け入れられず、森では俺より強い者は居ない。誰もが俺を恐れる」
霊獣はたった一人っきりの存在。テオは孤独だったんだ。
「ユキツネお前だけだ。俺が何者でもなく普通で居られるのは」
テオの孤独は俺には解らない。でもテオを撫でてやる事だけは出来る。
「よし、今日は念入りにブラッシングしてやる」
俺がそう言うとテオは苦笑いをした。テオはいつかフラリと居なくなるかも知れない。それまでは俺に出来る事はしてやる。
それから程なくして、ギルドが始動した。しかしまだこの街で強い魔物を狩れる強者は居なかった。そうたった一人を除いては。
「頼もう!」
ババン、とギルドの門を叩いた。何事かと職員の注目が集まる。
「早速だがコイツの査定を頼みたい」
テオがサンタクロースみたく大きな袋を背負ってきた。俺の合図で買い取りの受付に袋を置いた。
「これは陛下御自ら御出とは恐縮です。珍しい素材がありますでしょうか?」
ギルドの責任者である支部長が出てくる。成るべく目新しい物を手に入れたいと張り切っていた。
「珍しいかどうかは知らんが、これはテオが今まで狩ってきた物の素材だ。少しでも値が付けばと思ってな」
様々な獣の中でも臭みが少なく、美味しいお肉をテオは今まで提供してくれた。大きな物は街でも売り出したが、結構好評だった。まあ皆欲しいよね、新鮮なお肉。
「やや、これは!グローリーベアの毛皮に、モルジットの毛皮…… 他にも大きなサイズの物がこんなに」
「これはほんの一部だ。もっと必要なら」
「買いますよ、買いますとも。ジャンジャン持ってきて下さい!」
食い気味に言われた。最強生物であるテオは凄いらしい。今までの食材の毛皮一握りで、じゃらっと金貨が積まれた。
「どうぞお確かめ下さい。いやぁこの森は素晴らしいですな陛下。新鮮な物なら良い値が付きますよ」
ここに出された毛皮は、美味しいかどうかの基準で捕ってきたから珍しくはない。でも一般の物より大きいみたいだ。
現在のギルドの依頼の掲示板は街でのちょっとした仕事が主だ。ベビーシッターの募集に、お酒を買いますだとか。薬草の募集はどこのギルドでも出ている。
エルフの村から持ち込まれた素材も良い値がついたみたいだ。エルフは高く売れる薬草を知っていて、探すのも得意だ。この森は珍しい野草の種類が多いらしい。
旅の商人も出入りするようになった。今まで無職だった人も、商人が持ち込んだ品を手に入れる為に、働こうと意欲が湧いて来た様で、冒険者ギルドも徐々に賑わっていく。
住民の振り分けが終わって、学校が始まる事になった。教師や用務員を雇い、子供は学校に通う事になる。働く親も助かるし、子供も教育を受けられる。
「良くやったな。俺」
『主殿は立派な国王ですぞ。胸を張りなされ』
ドノムは小さく頷いた。俺の国と言うよりは精霊の国と言うべきか。
「オッサンのオッサンによるオッサンの国」
うん、なんか住みたく無くなるフレーズだな。しかしオッサンがいなければ、こんなにも大きな国は出来なかった。もっと国を良くして行かなきゃな。━━━━ 何すればいいんだろう。
お気楽な俺の直ぐ側に、不穏の足音が迫っていた。
『主殿、主殿、主殿ーっつ!』
「何だよ五月蝿いな」
『敵が迫っておりますぞ!』
『そうじゃそうじゃ。悪い気配の者がやって来ておる。迎え打たなければ』
『戦が始まるのかの?』
「ちょっと待て、この世界は戦はないんじゃ無いのか」
『何言うとります。何処にでもいざこざを好む輩はおる。しかし森の中の道はわしらが作った。招かれざる者は直ぐに分かる』
マジか、ちっこいオッサン優秀だな。それから俺は緊急会議を開いた。見回りのエルフと街にいたドワーフにも聞いてもらい、一応備える。
「街には精霊が侵入させないが、一時的に門を閉鎖する。出入りしてる人に混乱が起きない様にしてくれ」
成るべく国民に知られない様に対処せねば。この国に他国の兵士なんか入れてたまるか。




