48. エルフの怒り
総勢約、五百人。縄で括って行くだけでも大変な作業となった。広々とした小麦畑の向こうに収容所が出来た。大きな建物を見て捕らえた兵は固まった。
「ここはお前らを容れる為に、陛下が作ったんじゃ。全くお優しいのう」
森の奥に立派な国がある。その事実を目の当たりにして、兵は戸惑った。森に蛮族が住み着いた。そいつを管理してやると将軍は息巻いていたのだ。実際はどうだ。蛮族どころか大きな街が見える。広い畑には、青々と小麦が生える。
「貴様等には聞きたいことが山ほどある。覚悟しろ」
何時もは穏やかなジルフィンも、冷静では要られない。コイツらのせいで以前の住みかを失ったんだ。仕方がない。
通常のサイズに戻ったテオがうろついて、囚人を見渡す。妙な動きを見せれば直ぐに駆けて行って、いさめる。特にこの集団を率いてたであろう人物は、念入りに縛られていた。
「異民族共が」
悪態をつくとエルフが背中から蹴りを入れる。ドワーフが余計な事を言わない様に口元を縛り上げた。
高い塀に囲まれた収容所に一同は放り込まれる。一つの檻に五、六人づつ放り込むと、檻の隙間から手を出させて縄を解く。
特に険悪な雰囲気のエルフは一旦帰って貰う事にした。ジルフィンは尋問に立ち会うと言って、今日の所は引き下がった。明日になったら尋問を始める。
魔術師だけは念入りに調べ、身ぐるみ剥がして喋れない様にしている。何せ魔法と言のは厄介で、小さな道具一つで発動させられるからだ。念には念を入れ、エルフが魔法避けの術が組まれた石を置いていった。
ドワーフと城の兵士がここの連中の管理をする。リンドガルディアにも冒険者が連絡を入れ、今回のバステドロ国の暴挙が明らかになった。事前に手出しするなと忠告をしてはいたが、他国の国王の考えまでは制限出来ない。リンドガルディアから兵を派遣し、友好国としてバステドロに苦情を入れると返事を貰った。
以前にもエルフの村を蹂躙した事に、リンドガルディアの王は腹を立てていた。平和な村を荒らして得た物は少なく、非人道的な振る舞いは、見兼ねる物だった。
コイツ等を率いてた将軍に話を聞くと、実にふてぶてしい態度だった。
「そもそも弱い者を強い者が管理して何が悪い。人とは争いあって、その土地を手にして来た生き物だ」
「勝手を言うな!お前のせいでどれだけの仲間が犠牲になったと思っている!」
ジルフィンが吠える。皆のリーダーで穏やかな青年。それがまるで別人の様に見える。エルフの中でもジルフィンは特に苦労をしただろう。年若くして集団を率いなければならなくなった。仲間とはぐれ、僅かな人数で森をさ迷ったのだ。彼の苦しみははかり知れない。
バステドロには多くのエルフが捕らえられた。今回捕らえた兵士と、エルフの民を交換するように要請する事になった。エルフの民は大抵が売りに出され、奴隷として扱われているらしい。
仲間の現状に覚悟していたとは言え、ジルフィンは苦悩した。他のエルフも同様で、仲間の悲劇を大いに悲しんだ。エルフ全員の解放は無理だと、主張するバステドロに対しリンドガルディアの王も、ヒ・イズル国の要請を受け入れ無いのならば、共に攻めいる事も厭わないと、示唆した。
これにはバステドロも焦った。大陸随一の大国リンドガルディアが、ヒ・イズルに加担すれば、バステドロ等は簡単に制圧される。結局出来る限りのエルフを解放すると、返事を貰った。
だが今回の主犯とも言える将軍と魔術師は、解放してやる事は出来ない。エルフの事を考えずとも、この様な暴挙を容認は出来ないからだ。二人は極刑となり、ヒイズル国で裁かれる。先ず生かしては置けないだろう。
リンドガルディアからも立会人が来て、裁判が開かれた。二人の身勝手な主張はリンドガルディアから見ても、極刑に値すると判決を受け、刑罰が執行される事になった。
ジルフィンも彼等の最後に立ち合った。エルフは全員が立ち合いたいと主張した様だが、ジルフィンは自分だけが最後を見届けると、皆を説き伏せた。
こうしてヒ・イズル国にとってにの最初の刑罰が執行された。俺はそんなの見ていられ無いから、刑罰が終った後、ジルフィンに会った。
「どうだった?」
「今は………… 気持ちの整理が着きません。私はこうなる事を望んでいましたが、結局彼等が居なくなっても、仲間は帰って来ないし、もう以前の場所にも暮らせないでしょう。虚しいばかりです」
失った歳月や、命は戻る事がない。寧ろこれからは苦悩が増えるかも知れない。離ればなれになった仲間に会うのが、嬉しくもあり、怖くも有るのだ。
バステドロは今回の事で大きな打撃を受けた。エルフの全解放と多額の賠償金をヒ・イズル国に支払う。国は多額の借金を抱える事になった。
バステドロの暴挙から二月たった頃に、捕らわれていたエルフが送られて来た。最初はずっと牢屋に捕らわれていた、長老達であった。
「村長どの!長老の皆様も…… ああ、お懐かしい限りです」
ジルフィンは泣いていた。今まで辛いときも、リンドガルディアに逃げた仲間に再会した時も、ジルフィンは気丈に振る舞っていた。だが、今は子供みたく泣きじゃくっている。
「ジルフィンか。この小僧っ子がワシらの出迎えとは、偉くなったものだな。このやんちゃ坊主が」
ジルフィンはエルフではまだ若い方だって言ってたもんな。村の連中は百歳を越えているのが殆どだが、四十年程度しか生きていないジルフィンは、長老から見れば子供みたいなもんだ。
年寄りと他にもエルフが運ばれて来た。三十人余り。長旅で疲れただろうから、今夜は臨時の宿を開設し、明日にはエルフの村に移動して貰う。既に村の拡張も済んでいるから、備えはバッチリだ。
「じいちゃん!久しぶり」
宿に着いたら、エレノアが出迎えた。長老に飛び付いて来た。
「おお、エレノアか。相変わらず悪さをしているのか?」
「じいちゃん、私悪さなんてしないよ。ちゃんと村の子供の面倒を見てるよ?」
そこへメイド教育係の三人もやって来た。
「長老!ああ、本当にまたお会い出来るなんて。随分お窶れになりましたのね。でも再会出来て嬉しいわ」
「私もとても嬉しいです」
「これも皆陛下のお陰ね。ありがとうございます、陛下」
陛下と呼ばれた俺に、連れて来られた一同の視線が集まる。兵士やドワーフと共に、俺とテオも一部始終を見守っていた。しかし感動の再会に入り込む隙は無かった。
「あ、どうも。ヒ・イズル国の王様のユキツネ・ヒヤマです」
いかん、緊張しすぎて素になってしまった。王様の挨拶じゃ無いよこれ。
「あなた様が、今回ワシらを解放して下さったのか。皆を代表して礼を言う」
長老が頭を下げた。他の人もそれに倣う。
「俺は大したことしてないんで。リンドガルディアの協力があって、皆さんの解放に繋がったのです」
「長老、ユキツネ殿はとても凄い方なのです。我々エルフが安心して暮らせる、素晴らしい国を築いて下さいました。精霊の友で、我らの盟友です」
その後も女性三人も口々に俺を誉めた。このエルフの賛辞はいつ聞いても恥ずかしい。事ある毎に褒め称えるから。
対して一緒に来た人達は一様に暗い。他は奴隷として扱われたのだ。リンドガルディアから来た人も人族を信用していなかったから、それ以上の不信感であろう。
人族が居ると落ち着かないだろうから、俺達は早々に退散して、三人が皆の面倒を見るようだ。ジルフィンも一緒に泊まって話すらしい。建物の外には兵士を配置し、変な輩が沸かないようにする。エルフは美女が多いから、念のため。
とんでもない形だが再び仲間を迎えられて、本当によかった。




