第三十九話~秋博~
初めはなんて頼りない女の子だと思った。
素直だけどどかこ抜けている子。それが俺の思った佳奈の印象だったんだ。
だけどそれを佳奈はどんどん覆していく。
考えなしかと思えばきちんと物事を理解しているときもある。言われたことは守るし人が嫌がることもしない。正直で物怖じもしない。優しい女の子だったんだ。
あまり笑わないが時折見せる笑顔はとても可愛く俺には見える。
そんな感じでラルスムからサリダース。サリダースから北シーザ。南シーザからポールアーム。ポールアームからカンナブラ。カンナブラからエアト。エアトからジャグダン。と佳奈と一緒に旅をするうちに、魔の島で殺してしまおうかと思った考えは次第に薄くなっていく。
見た目は普通で別段可愛くもなんともない子。ハーレムを形成することも目標の一つだった俺にとってはどうでもいい存在だった。けれど一緒に旅をすればするほど佳奈のことが放って置けなくなっていき、いつの間にかなくてはならない存在になっていった。
俺に惚れさせたほうが後々楽だと思って優しい言葉をかけたり、とにかく魔物から傷をつけさせないように守ったり、知らないことがあればなんでも教えたり、色々した。
だけど。
好きになっていたんだ。
こんなはずじゃなかった。惚れさせるはずが惚れていた。なんのお笑い話だよ。本当に、こんなはずじゃなかったのに。
だから、魔法の本のことだって少し危険だと思ったけど、転移に関する魔法がわかれば本の願い関係なく元の世界に戻れると思った。
そうすれば佳奈にこんな俺を知られずに返すことができると思ったんだ。
だから俺は記録閲覧室で魔法の本のこと見つけたときに、魔法の本という名前が気になったが佳奈に教えることにしたんだ。
それがこんなかたちで自らばらすはめになるなんて。
ぶっちゃけた時はただひたすら怖かった。
こんな俺を知られたらきっと気持ち悪いって嫌われる。
頭沸いてる。中二くさい。お前いくつ。精神科いいところ紹介してやろうか。あの人に近づかないほうがいいよ。気持ち悪い。頭おかしい。ゲームのしすぎ。
他にも汚い、馬鹿がうつる、空気が汚れるなんてのもあった。人をウイルス扱いだ。俺がなにをした。ただ人と話さずに学校に通っていただけじゃないか。それがなんだ、たまに同じオタクの話そうものならすぐににやにやと卑しい哂いでおちょくったりひそひそと陰口を言ったり。マジで人としてどうかと思う連中ばかりだ。
そんなやつらを見返してやりたいと思ってなにが悪い。俺だって好きでこんな目にあっているわけじゃないんだ。好きで苛められているわけじゃないんだよ。
こんな惨めで辛い思いをしてしまいにはそれが自分が生きているからだと思い始める。この世界には俺は必要ないんだと。
ただただ見返したくて、馬鹿にする女共をハーレム要員として侍らして最後には捨てるようなことをしたかった。
なのに。
俺がしようとしたことは全部駄目になった。でも、それでよかったのかもしれない。
佳奈は俺を優しいと言ってくれた。
こんな俺を好きだと言ってくれたんだ。
たしかに打算はあったが佳奈に対していい人でありたいという気持ちは今も変わらない。それは俺が佳奈に嫌われたくないから。好きになった女の子に好かれたいと思ったから。
佳奈の話を聞いていくうちに俺の中で新しく芽生えた気持ち、いや、気づいたことがある。それは人が強くなるためには自分を卑下したりしないということだ。
自分を卑下するとどんどん自分を嫌いになっていく。だけど卑下なんてする必要はないんだ。自分を劣ったものとしていやしめると心が貧しくなる。そうすると他人のことも嫌いになっていき、やがて世界が自分を憎んでいると錯覚してしまうんだ。そんなはずないのに。
世界に意思なんてない。あるのは自分やその周りの意思だけだ。それは自分の気持ち一つで変えることができる。
いつまでも自分を卑下しつづけるそんな俺は嫌だ。そんな俺にはなりたくない。俺にあるという優しさを教えてくれた佳奈のことを嫌いになんてなりたくないんだ。
だから、おれは今までの自分とさよならだ。そうしなければいけないんだ。
そこで初めて知った。
俺はただ、変わりたかっただけなんだということを。
変わった俺はきっと佳奈のように素直な気持ちを言うことは難しくて、佳奈を不快な気持ちにさせてしまうかもしれない。だけど俺が佳奈を好きだということは本物の気持ちなんだ。
だからおれは変わることをやめない。
佳奈に嫌われないために。そして自分自身を好きになるために。
強くなろう。
『秋博よ、なにやら吹っ切れた様子だな。顔が晴れやかになっている。なにかよいことでもあったのか』
(あったさ。なにせ好きな女の子に告白されたんだからな。これが舞い上がれずにいられるっての)
『恋愛はいいものよね。わたしも愛は大好きだわ。この世でもっとも尊ぶべきものよ』
『僕としては堕落した愛なんてのもいいと思うんだけど、どう。佳奈とめくるめく快楽を求める毎日ってのもいいよね。その時は僕も参加させてほしいな』
(今俺は機嫌がいいんだ。少しのことなら聞き逃してやってもいいぜ)
まったく。誰が参加させるかっての。
『だけど秋博。告白をされて喜んでいるのはいいんですけれど、返事はしないのかしら。このままでは佳奈は告白を無視されたと思っているのでは?』
あ!? そうだ。せっかく告白してくれたのに、俺ってばスルーしまくりじゃんかよ。なにやってんだ俺。
(早く返事しねえと)
『いや待て秋博。その格好で返事をするのか。それではさすがに倒錯的というかなんというかだな。なにやら思うものがあるのだが』
ん……そうか。今の俺は首輪に手錠に足枷をしているんだった。しかも首輪に縄までつけられてその縄を佳奈が持っている。
これは俺がアマンダとシグルドを殺した罰なんだろうが、時間的余裕もないのもわかるがいささか甘くないか。もっとこう適度な痛みを与えるとかさ。
いや、マゾではないんだぞ。ただ、死ぬまではいかなくてもそれ相応の痛みはあって然るべきなんじゃないのか。
「佳奈」
「なに秋博」
佳奈が小首をかしげて俺の言葉を待つ。ああ、可愛いなちくしょう。こんな状態じゃなけりゃ抱きしめるのに。
「いや、俺の罰、なんか甘過ぎない? もっとこう死ぬまではいかなくてもそれ相応の痛みはあって然るべきなんじゃないのかと思うんだが」
言ってみると佳奈は黙って俺を見る。なんだ。なにかついてるのか。
「……鞭」
「え?」
「あ、ううん! なんでもないの。痛みはいるかどうかだけど、それは私には決められないよ。私は人を罰することなんてできる権限もないし、したくもないもの。だからこれはお仕置きなの。わかる?」
「お仕置き」
なんか卑猥だ。だけど佳奈にお仕置きされるのもいいかもしれん。
「なんかわかってないような顔だね。なんなか元の世界に帰るときもそのままでもいいんだよ? そのほうがいいかもね。まったく。だらしない顔してないで、早く行くよ。魔の島の本棚に五冊の本を戻さなくちゃいけないんだから」
「わかったよ。行くって。それとこのまま帰るなんて嫌だからな」
「さーどうしよっかな~」
頼むよ佳奈。




