第三十七話
(もうっ、急がなくちゃ!)
大分話し込んじゃったからなあもう。私は大急ぎで来た道を戻る。
そこには。
「これで四冊目。神の本は俺のものだ」
そんな。神の本、出てきちゃったんだ。どうして。
(そんな)
『まあ、神の本が出る条件は四冊の本とその所持者が祭壇の近くにいることが条件だからな。その条件がそろったんで神の本がでてきたんだろうよ』
(そんな条件があったなんて。なんで教えてって……もういい)
『なんだよ。聞かれなかったからって答えようとしたのによ』
(だから聞かなかったんじゃない。あんたと話すのは疲れる。少し黙ってて。今忙しいんだから)
アキアースの手には神の本。そして神の本が出る条件。アキアースも条件を剣王の本に聞いて知っていれば、私が近くにいることに気づいているはず。ううん。きっと知ってる。だって動かないもの、アキアース。
『ちなみに本同士は互いの位置を確認できるからな。もうアキアースにはこっちの位置ばれてるぜ』
(えええ! 早く言ってよ!)
『少し黙ってろと言ったのはお前じゃねえか。それに聞か……』
(大事なことは言われる前に言う! わかった!?)
『へーい』
もう、もう! どうしよう。なら姿見せたほうがいいのかな。じゃないとアキアースのほうからくるよねきっと。
ええい、もうどうにでもなれ。女は度胸だよ。
「アキアース!」
「……カナ」
私は森から出て祭壇の近くに歩み寄る。しばらくぶりに会ったアキアースは少し頬がこけてた。
聞かなくちゃ。聞かなくちゃいけないこと。
「アキアース、なんでアマンダさんとシグルドさんを殺したの」
「それは……っ」
それを聞いたアキアースの顔は。……なんでそんなに泣きそうな顔をしているの。泣きたいのはこっちだよ。ああもう、ほら、涙が出てきた。
「なんで殺したの、ねえ。五冊の本を手に入れることがそんなに大事だったの? 人を殺してまでして果たしたい目的だったの」
なんで、なんで殺したの。教えてよアキアース。
「……ない」
「え」
「カナにはわからない。俺がどんなに苦しんでいたかなんて! 俺は苛められっ子だった。学校では友達は一人もいないし昼食はいつも便所飯で! 勉強道具だっていつも持ち歩いたり隠さないとなにされるかわからないこの恐怖感、わかる? すれ違うたびに笑われるこの屈辱感、わかる? 俺はこの力で強くなりたいんだ。強くなって俺を馬鹿にしてたやつらを見下してハーレムを形成してやろうかと思った」
それは、わからないよ。だって私苛められたことないし……。それにハーレム願望を持っていたなんてちょっとショックだけど、男の子ならだいたいはそうなんだろうし健全だよね。
でも、わたしにはわからない。なんでアキアースが苛められるのか。苛められたくないから強くなるっていうなら、アキアースはもう十分強いと思う。だって、強い心持ってるじゃない。
こんなに優しい人なのに。
きっと、アキアースを苛めていた人たちは目が節穴なんだ。だから平気でそういうことができるんだ。じゃなきゃ、相手のいいところ、ちゃんと見てたらわかるでしょう。だったら人を苛めるなんてことできないはずだもの。
私だったらむしろ友達になりたいよ。そう思う。
でも、今は友達よりも。
「好き」
「え」
叫んで俯いていたアキアースが私を見る。今、言わなくちゃ駄目だと思うんだ。だから、言うね。
「私はアキアースが好き。ここに貴方を好きだという人間がいることを忘れないで。貴方はいらない人間なんかじゃない。私には貴方が必要なの。アキアース、貴方はいつも私のことを守ってくれていた」
「それは剣王の力があったから」
「知らないことがあればなんでも教えてくれた」
「それだって剣王からの聞きかじりで」
「私が落ち込んでいたときは必ず励ましてくれた! 後ろ向きだった私を前向きに変えてくれてのはアキアースなんだよ。私はアキアースがいたから、一緒にいてくれたからここまで来れたの。それを誰かのせいにしないで。アキアースがしてくれたことなんだよ」
「でも」
でもじゃないよアキアース。弱気にならないで。いいところたくさんあるでしょう。それを知っている私だから言えるんだよ。アキアースが優しい人だってこと。そんなアキアースを私は好きだってこと。
「力を持っていてもそれをなにに使うかはその人次第。アキアースは剣王の力を使って私を守ってくれた。言わなければわからないことなのに、聞いたら全部教えてくれた。それはアキアースが優しい人だからだよ」
「違う、俺は優しくなんかない。現に人を殺した。優しい人間が人を殺すなんてするわけないだろっ」
「でも私は殺さないでしょう」
それはいけないことだって私だってわかってる。だからアキアースには罪を償ってほしい。こちらの世界じゃ人殺しがどんな罪になるかはわからないけど、それにのっとった罪をちゃんと償ってほしい。
私のこと殺さないことだって、私は知ってるよ。だって、私を見る目がすごく優しいんだもの。ちゃんとそれは感じてた。諦めそうになった時だって真剣に諭してくれた。
私をいつだって剣じゃなくてその瞳で守ってくれていたんだよ、アキアース。そんなアキアースが私を殺すはずなんてないんだよ。
「そ、れは」
「私、知ってる。アキアースがどんなに優しいかを。だから自分を嫌いにならないで。私が大好きなアキアースを嫌いにならないで。……今まで辛かったよね。でももう私が一緒にいるから。だから、頑張らなくてもいいんだよ」
「……カナ」
お願い。アキアース。私を見てほしいの。今こうして話している私を。そうしたらきっと通じる。私はそう信じてる。
「あのね、私の名前、こう書くの……人偏に土二つで、なはこう」
「佳奈」
「そう。アキアースは? なんていう名前なの。それが本名じゃないんでしょ」
「う、あ、秋博。秋に万博のぱくで秋博」
アキアース。最初の秋をとってつけたんだね。少し恥ずかしそうにしているのはなんで?
「秋博。広い秋ってことだよね。綺麗な名前じゃない。私そっちで呼びたいな」
「うう……っく」
秋博が泣く。そんなに辛かったんだ。泣かないで秋博。今度は私が守りたい。貴方のその心を守りたいよ。
「秋博」
「……めん。ごめん、佳奈」
「いいの。そりゃあ人を殺したことはよくないけど。アキアースはもう殺さないでしょ。私、信じてるから。それに私のほうこそごめんね。傷口抉っちゃったみたいで」
「それこそいいんだ。俺が馬鹿だったんだから。だから……有難う」
秋博が真っ直ぐ私を見て言う。うん、伝わったみたい。すごく嬉しいな。これでもう大丈夫だよね。
「どういたしまして。さてと! じゃあ次にやることは決まりだね」
で、でもどうしよう! 私、勢いにまかせて告白しちゃった! 返事は……返事はくれるのかな。うう、それどころじゃなかったから流されちゃったかも。
私の中じゃ一世一代の大イベントだったのに。でも、ここで今更返事はなんて聞けないし。頃合をみてもう一度告白してみようかなあ。
『くくく。残念だったなあ。せっかくの愛の告白がなかったことにされたみたいだぜ』
(うっさいなあもう! 言われなくたってわかってるよ、しばらく黙ってて!)
本当、性格悪いよ悪魔の本。悪魔だから仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。だけど乙女の気持ちはもうすこし労わってくれてもいいんじゃない?




