第三十六話
『本気でそう思ってんのか? お目出度いやつだな』
(なんとでも言えばいいでしょ。それよりも! 私、あんたにも言いたいことがあるんだけど!)
『んあ、なんだよ』
(なんだよ、じゃないでしょ! なんで今までこんな風に話さなかったわけ? それになんで私の世界にいたの? ねえなんで?)
『だあーっうっつぁしいわ!』
(うるさく言いたくもなるでしょう。私、大変な思いしたんだから! 逃がさないからね、話してもらうよ)
まったく。話せたんなら最初っから話せばよかったのに。なんで本の文字としてでしか出てこなかったの。
『一度決めた所持者からは逃げられんさ。あんたが死にでもしない限りはな。でも今あんたに死なれるとこっちも困る。あいつには天使の本がいるからな。天使は俺の天敵だ。しかも俺を縛る術をもっている。ここで死なれちゃ捕まってお終い。あんたには生きていてもらわなくちゃならない。次の所持者を見つけるにも色々あんだ』
(ふーん。で、なんで今まで話さなかったの)
『そりゃあおめえ、話さないほうが楽しいに決まってるだろうが。少ない情報であくせくしながら動いてる様を見ながらお前が騙されたり裏切られたりする姿。それを見るのが面白れえからだろ』
(なにそれ! そんなのが楽しいわけないじゃない。やっぱりあんたは悪魔だね)
『ひゃっひゃ。そうさ、俺は悪魔だからな!』
なんか話しててもむかむかするだけな気がしてきた。しかもこいつの言うとおり、騙されたりしたわけだけで。裏切られたかどうかはまだわからないけど。
そんな理由で今まで私が苦労してきたなんて。なんでこいつ悪魔なの。せっかく本の所持者になれるんなら私、天使の本がよかった。火の魔法と癒しの魔法が使えるし。
こんなむかつくやつの所持者なんてがっかりすぎるよ。
(じゃあ次、なんで私の世界にいたわけ)
『実はよう、お前のじいさん、おめえの前の所持者だったのさ。そいつは俺も驚くほどの魔法の使い手でよ。なんと俺がこの世界にこれ以上悪さをしでかさないように世界またいじまったわけ』
(世界を? つまり異世界転移できたってことだよね。どうやったらそんなのできるの)
『そりゃあそんだけすげえ魔力を持ってたからに決まってるだろうがよ。残念だがお前の魔力じゃせいぜいサリダースからポールアームに跳ぶくらいだぜ。そんだけ規格外だったってことだ。お前のじいさんは』
そんな、じゃあ私は帰れないの?せっかく帰れる手立てに近づいたと思ったのに。
ん? でも待って。たしかシグルドさんは言ってたよね。五冊の本を魔の島の本棚に戻すと、その本の所持者はその力を自分のものにできるって。その上で願いが一つ叶えられるって。
じゃあ。
そっか、その時に願えばいいんだ。私を元の世界に返してくださいって。そうすれば私は元の世界に帰ることができる! よかった。まだ手立ては残されている。
というか。おじいちゃんって異世界人だったの!? 新事実にびっくりだよ。しかもものすごい魔法の使い手だったなんて……そんな素振り全然見せなかったのに。
おばあちゃんはこのこと知ってるのかな。もし知ってたら教えてくれたりなんて……しないか。おばあちゃん口が堅いもんな。
私がこういう目に遭うのわかっててあの古い鍵をくれたのかなあ。でもおじいちゃんがそんなことするわけないし、なんでくれたんだろう。
おじいちゃんが生きていたら聞けたのに。
『そういやよう。あいつ、アキアースだっけか。あいつと剣王の話を盗み聞いてたんだけどよ、あいつもそうらしいぜ』
(そうって?)
『あいつもお前と同じ世界から来たっつーこと。ちなみにあいつはお前が同じ世界から来たことを知ってるみたいだぜ。まあそりゃそうだよな。剣王は俺を世界の維持のために連れ戻すためにお前の世界に渡ったんだからよ。おおかた世界の維持が危うくなったんで渡ってきたんだろう』
(え? 嘘)
『嘘じゃねえよっ、たしかに俺は嘘が大好きだが、こいつは本当だ。俺もそうそう嘘ついてる場合じゃなくなったからな。世界が終わっちまえば俺の楽しみがなくなる。そいつはいけねえ』
(アキアースが……アキアースが私と同じ世界から?)
でも。だったらどうしてこちらの世界のことに詳しかったの。あんなに聞いたらなんでも答えてくれて。まるでこの世界に初めから住んでいる人みたいに知っていたのに。
私、全然気づかなかった。
(ねえ、じゃあなんでアキアースはあんなに物知りだったの)
『そりゃ簡単だ。あいつが剣王に聞いたんだろう。剣王はくそ真面目だからな。なんでも知りたがる性分で色々調べまくってるみたいだったからよ。剣王に逐一聞いてお前に情報流してたんだろうよ』
(そうだったの……でも、アキアースは日本人には見えないけど……)
『ああ、たしかハーフとかなんとかって言ってたぜ。日本人とどっかの血が混ざり合ってるとかなんとか』
ハーフ? うーん、中央アジア系かなあ。でもイラクとかアラビアっぽい気もするけど。だからか。だからアキアースのこと現地人ってすんなり信じちゃったのか。こっちの人たちに東アジア系の顔の人見かけないし。アラビア系はよくいるんだけど。
もし純日本人だったらすぐにわかったかもしれなあ。
あと。
(ねえ。なんで私に死の魔法なんて教えたの? それも嫌がらせかなんか?)
『当たり前だろ。死の魔法を知ったときのお前の顔っていったら。怯えに怯えてそりゃ傑作だったぜ。だがよ、実際知っとかないとなってのもあったんだぜ。これから先本の争奪戦が始まるだろうって時におめえのちんけな魔法じゃアキアースに勝てるわけないだろう。しかもあん時は天使の本の所持者も生きてたからな。俺としちゃあそいつにキリトをぶっ放してほしかったんだが、まあ遅かったわけで』
(なによ! 私が人殺しのために使うわけないでしょ! 自分の目的のために手段を選ばず人を殺すなんて、そんなのしちゃいけないことだよ)
『それをアキアースはしたんだがな』
(そ、それでも。私は人を殺したりなんかしないし、アキアースにももう人殺しなんてさせない)
『へいへい、そーですか』
(そうだよ!)
もう、なんてこと言うの悪魔の本は。これだから悪魔は。死の魔法。怖いけど今閃いた。私、魔力で魔法の威力調節できるじゃない。それを使えばもしたら。
本の争奪戦かあ。私も今そこに身を置いてるわけなんだよね。
もし本を集めることができたら、たしか魔の島ってポールアームの内湾にあるんだよね。そこの本棚に納めないといけないんだっけ。そこまで本を持っていくにはどうしたらいいんだろう。うーん。
あ、その前に神の本! あれがないと五冊揃わないじゃん。私は神の本のことを思い出して焦る。そういえばアキアースはどこ?
悪魔の本と話していてすっかり忘れてた。
(ねえ、アキアース知らない?)
『おう。アキアースならさっき祭壇のほうへ歩いていったぜ』
ええっ!
(なんで教えてくれなかったの!)
『聞かれなかっただろ』
(あーもう! こいつは!)
『いてっ』
私はつい手が出た。だって仕方ないじゃない。そんな大事なこと教えてくれなかったんだから。こいつ、本棚に戻りたがってるくせに、まだ遊び半分なんじゃないの?
『つうか、契約さっさと済ませちまおうぜ』
(契約?)
『俺はおめえの望みを叶える、おめえも俺の望みを叶えろ。返事を』
(あ、うん。叶えます)
って、なんか適当だなあ。なんかもっとこう、我と契約せよなんとかかんとか~ってありそうなのに、こんなんでいいの?
『んじゃ、契約の証に変わるぜ』
ああ、なるほど。これで銀の装飾に変化するんだ。私の契約の証。悪魔の本は銀の指輪に変化した。




