第三十四話
きっとポールアームだ。
だってポールアーム山には魔法の本の祭壇がある。
悪魔の本、天使の本を手に入れたシグルドさんはきっと魔法の本……悪魔、剣王、誘惑、天使、神だから、神の本だと思うけど、それを手に入れようとするはず。
もしくは私にしたようにアキアースから剣王の本と誘惑の本を奪おうとするかもしれないけど。でもそれは多分しないかな。だってアキアース強いもの。
シグルドさんは剣術や体術やできるとはとても思えない感じだし、やっぱりそうしたら先に神の本を手に入れようとするはずなんだ。だから私も追いかけて、今度は油断しないようにして悪魔の本を取り返さなくちゃ。
アキアースは今どうしてるのかな。五冊の本のことをずっと私に隠してたけどなんでなんだろう。
願いを叶えたかったから? それとも悪魔の本の所持者になった私に同情したから? わからないよ、アキアース。
いつだって私のこと守ってくれて、私が失敗しても笑って許してくれた。なんでも知っているしすごく頼りになるアキアース。
手がかりが見つからなくて諦めかけてた時はいつも諦めないでって励ましてくれた。そんなアキアースが私にとって悪いことをするなんて信じられない。
ううん、信じたくない。
だって私は。
アキアースのことが好きなんだもの。
ちゃんと自分の気持ちに向き合ってようやく気づいたのに。こんな状況なってない。絶望的だよ。
「カナ? どこにいるんだ」
教会から出て路地を歩いていると声が聞こえてきた。この声はアキアース! 走り出したくなったけどなんとか踏みとどまる。だめだ、今あったら私。隠れよう。
私のことを探してくれているのか、時折カナって呼びかけながら隠れた私の目の前を走り去っていく。その背中はとても遠くて。
「好き。好きなの、アキアース」
いつの間にか私泣いてた。
本当は今すぐ追いかけたい。追いついてなんで黙っていたのか、なんでアマンダさんを殺したのかを聞きたい。
でも一番聞きたいのは。
私のこと、どう思っているの?
そのことで頭が一杯だった。
薄情だよね。人殺しした人のこと好きで、その人の気持ちのほうが気になるなるなんて。でもこれが私の偽らざる気持ちなんだ。
アキアース、待ってて。私、必ず貴方の前に姿を現すから。そうしたら、きちんと向き合って聞きたい。一番聞きたいこと。そして聞かなくちゃいけないこと。必ず聞きに行くから、それまで待ってて。
まずは、変装した方がいいと思う。黒目黒髪は私の他にも何人もいるけど、たぶん髪型を変えただけだとアキアースにすぐに見つかる気がする。だからまずは服飾屋さんに行かなくちゃ。それで、上手く変装できたら明日の朝一番の旅車に乗ってエアト、そのまま次のカンナブラ行きの旅車乗ろう。
こうなったらとにかく急がなくちゃ。シグルドさんも同じことを考えてるはずだから、多分私がどんなに急いでも、今日開いてしまった一日の差は縮まらないと思う。
アキアースは、私がジャグダンで見つからなかったらどうするんだろう。私が閉じ込められたことは知らないだろうし今戻ればまた前と同じように旅ができるかも。ううん、駄目。さっき決めたばかりじゃない。意志が弱いよ私。
「こんにちは。鬘を探してるんですけど、ありますか」
「いらっしゃいませ。ええ、ございますよ。こちらなどどうでしょう」
「色々見てみます。有難う」
服飾屋さんへやってきた私は多彩な色の鬘からジャグダンやカンナブラで最も多い褐色色の毛を選ぶことにした。ゆるくウェーブが入った鬘を試着してみると、前髪も長いし一見じゃ私とはわからなそう。
あとは服。アイボリーのワンピースはやめて長めの青のベストと白の長衣を購入した。それを濃い目の帯でずれないようにしばれば完成。この長衣は長いワンピースの下にズボンを履くから女性か男性かは後ろからじゃそんなにわからないと思う。こういう服は初めて着たし、もしアキアースに会ってしまってもたぶんばれないと思う。見慣れてない格好で鬘もしてるわけだし。うん、これで大丈夫かな。
「これとこれください。いますぐ使いたいので試着室お借りしてもいいですか」
「ええ、構いませんよ。どうぞ使って下さい」
さっそく着替えた私。試着室の鏡を見るとそこにいるのは別人だった。これで眼鏡なんかあればもっといいんだろうけど、ないものねだりだよね。
あとなにか必要なものはないかな。
私はなんとなく散歩している犬と飼い主を見た。首輪と綱かあ。あれしたら逃げられなそうだよね。どうしよう、買おうかな。
よし、決めた、買おう。
そして私はペットショップ、ではなく奴隷専門店へと足を運んで首輪と手錠と足枷に綱を購入した。これはなにかに使えるはず。持っていて損はない、よね?
翌日。
朝一番の旅車に乗り込んだ私は驚いた。なんとそこにはアキアースがいたのだ。平常心、平常心。うん、大丈夫。
どきどきと早鐘を打つ鼓動を宥めて私はアキアースの乗った旅車の次の車両に乗り込んだ。
アキアースもここを出て行くんだ。そっか。もう私のことは探してないみたいだね。なんだか寂しいよ。それに、少し顔が怖かったな。どうしたんだろう。
その後、なんとかばれずに乗り切った私は今、次の旅車にもアキアースが乗ったのでそのままカンナブラ行きの旅車に乗り込んだ。そうして次はポールアーム。私と行く場所が同じだった。
アキアースもポールアームに? なんでだろう。なにか嫌な予感がする。話しかけて聞きたいけど、それができないことは私が一番知っている。
どうして同じ場所へ向かうのかすごく気になった。アキアースももしかしたらシグルドさんを探しているのかな。でもなんで? うーん、あとあるとずれば魔法の本が来てないかを確認しにとか。
どっちにしてもまだ近くに入れるんだな。少しだけ安心するのも感じた。でも嫌な予感もするわけで。ごちゃごちゃで変な感じだった。
そういえば、ポールアームに着いたらもう八〇日を過ぎちゃう。着いたらすぐに依頼をこなさないといけないよね。本当はアキアースの後をこっそりついていきたいけど、そうもいかないし。人の気配にも敏感はアキアースじゃ絶対後をついていったらばれちゃう。
無事にポールアームに着いた私は、足早に去っていくアキアースを見送ってひとまず宿屋を探すことにした。
前に利用したところはアキアースと鉢合わせしたらやばいし、やめておこう。
二つばかり通り違いのところに宿屋を見つけた私は、今日はそこで泊まることにした。すごい強行軍だったから体の節々がごきごきいってて痛い。
今日はゆっくり休んで明日、依頼を探そう。
翌日。
「うーん、できれば魔力石の納入関係だといいんだけど……あった、これこれ」
土石の納入依頼。五〇個。納入期限は請けてから三日。うん、これならすぐできそう。
さっそく道具屋で無石を五〇個買ってきた私は宿屋の部屋で土石をひたすら作ることに専念した。
気づくともう夕方で。作り終えた私は魔法使いギルドの証に入れてさっそく転送して依頼を達成した。あれ、今思ったんだけど、この転送って、転移のことだよね。ええ! そんなあ。まさかこんな近くにヒントがあったなんて……。今更だよもう。これ、どんな仕組みなんだろう?




