第二十四話
「結局俺はなにもしてないな」
「まだ一匹目ですからね、次がありますよ。それにアキアースさんが何かをする時はわたし達に魔物が向かってきてる時なんですから、これいいかと」
「まあそういったらそうだんだけどね。とりあえず一匹目か。あと大体四匹かな」
アキアースがぼやいてたけど、でも本当カイーナさんの言うとおりだね、こっちに魔物がきたら大変だし、そうならないといいけど。
「おう、お穣ちゃんなかなかやるじゃねーか。いやもうお穣ちゃんは失礼か。カナ、よくやったな」
「あれ風の魔法だろ。すげーな! アムルのことすげー切り刻んでてよ!」
止めを刺し終えたオルガさんとレグザさんが私のことを褒めてきた。最近、私も魔法の使い方をようやく覚えてきたみたい。失敗も数回あったけど、今は多分もう大丈夫。
「風魔法の中じゃ切り裂くのが一番使いやすいからよく使うんです。あとはぐるぐる上へ回しながら持ちげたりもできるんです。これは複数の時に使うと便利なんです」
「カナさんは風の魔法使いなんですね。私の知り合いには火の魔法使いがいますが、彼もなかなかの使い手ですよ」
え、魔法使い!? 彼ってことは男の魔法使いだよね。誰かに師事してるのかな、その人は手がかりになるようなこと知ってるのかな、すごく気になる。
でも、風の魔法使いとか、火の魔法使いとか区別があるの? じゃあ私色々できるのはいいのかな。もしかして異常だったりする? どうしよう、風以外使わないほうがいいのかな。
そう思ってたらアキアースがちょいちょいって指でしてきた。なになに。
「カナは風以外は使わないほうがいいかもね。どうやら使える属性に限りがある言い方だ。カナが火も水も使えるのは黙っていたほうがいい」
「やっぱり? 私もそうしたほうがいいかなって思ってたところだったの。じゃあそうするね」
アキアースもそう思ってたんだ。でも私、まだ使ってないけど土の魔法も使えるよ。土釜を作る魔法があるんだけど、その時に土を自由に操るから。属性って風火水土のことだよねきっと。そういう基本的なことも私知らないからなあ。私も誰かに師事したほうがいいのかな。うーん。
「またいました。今度は二匹です。行きますか」
平原を歩いていると、岩場の陰に二匹のアムルが寛いでるのが見えた。言われて気づいたけど、カイーナさんって目がいいんだ。さっきも今も真っ先に気づいたし。でないと弓なんて射れないってことなのかな。
「おう。そうだな、まずカイーナの弓で一匹を射れるだけ射れ。もう片方をカナの切り裂きでやったら間髪要れずに俺とレグザで止めだ。アキアースは今回もカナとカイーナを守ってろ」
オルガさんの指示でまずカイーナさんが、疾風の名に恥じない流れるような射掛けで左側のアムルに次々と矢を刺す。それに続いて私も風の魔法で切り裂く。それを合図にアルガさんとレグザさんも駆け出して、二匹だったのにあっという間に仕留めてしまった。
これってなかなかいいコンビネーションじゃない? 先手を打てるときならこの方法で十分だよね。
そう思って油断していた。
「カナ、危ない!」
アキアースの声で後ろを振り向くと、一匹のアムルが私目掛けて飛び掛ってきた。嘘、まだいたの! 三匹いたってこと。一体どこに隠れていたんだろう。
「しまった、もう一匹いたんですか!」
カイーナさんが焦ったように弓を射ようとするけれど、矢を落としてしまった。ああ、だめだ。こっちにくる。
「カナ!」
目を瞑って棒立ちになった私に呼びかけるアキアース。ああ、そうだ。アキアース。こういう時は……。
そうだ、護身術。私はしゃがみ込んで前のめりになった。
正面から飛び掛ってくるアムルの下に潜り込むように前のめりになった私は、杖を逆手に持ってすれ違いざまに腹に一撃食らわせる。その一撃にぎゃうと唸ったアムルは着地すると同時に跳び退り、私から距離を置く。きっと、この中じゃ一番弱そうな私を狙ったんだろうなあ。でも、私だって簡単にはやられないんだから。私は絶対元の世界に帰るんだから、ここで死ぬわけにはいかない。
「カナ。無事?」
「うん。見た今の。私ちゃんとできたよ護身術」
「ああ、見た。心臓が止まるかとおもったよ。よかった無事で」
アキアースが剣をアムルに向けながら私のほうへと駆け寄ってくる。私は今、ちゃんとできた護身術とアムルがまだ生きてこちらを狙っていることでテンションが上がっているのかもしれない。五感がなんか全て開いている、なんかそんな感じ。
今ならやれそうな気がする。私はアキアースを制止して、アムルへと向き直った。
風と火。風の嵐で火が舞い上がるイメージ。
「風よ、火よ。舞い踊れ! 風火乱舞!」
ごおおと突風がアムル目掛けて飛んでゆく。そこへ発生させた火がぐるぐると回る風に合わせて踊るように天へと舞い上がっていく。
突発的に名づけたその風火乱舞は、アムルを一緒に天へと昇らせ炎でその体を焼く。アムルの断末魔が響き渡り、最後に風が止んだ時にはもう灰と化して風に流されていった。
で、できた。混合魔法。なぜこんな魔法を試したかというと、私もアキアースを守りたかったからだ。
いつも守られてばかりな私は、なにか大きな魔法を作ればそれが叶うんじゃないかって。そう思ったから。
「……カナ。今のはすごいけど、話してたこと忘れてるでしょ。風だけじゃなく火までも使っちゃったね」
え、あ。しまった。できたことに浮かれてアキアース見ると、やれやれといった風に頭に手を当てて首を振るアキアースがいた。あああ、私、またやっちゃった? さっき風だけでって話したばっかなのに。馬鹿すぎる私。
「カナさん、すごいですね……今のは風と火ですか。まさか二属性を扱えるとは。国のお抱えでもそうはいないというのに。あなたは一体……」
「あ、えっと。今のはたまたまだよ! 私だって初めて使ったんだし! アムルに襲われたから火事場の馬鹿力的なものでできちゃったんだと思う、うん」
「火事場の馬鹿力ですか」
「そう!」
その後もなにやら思うところのあるような視線をカイーナさんから受けつつ、オルガさんとレグザさんからは喝采を浴びつつ、私はアキアースにごめんと仕草を返して残り多分二匹を探すために歩いたのだった。
「いましたね。あの一回り大きいのがアムルのボスでしょう」
「まずカイーナはボスの足を狙え。怯んだところで俺とレグザが向かう。その後はカナの魔法でもう一匹を足止めするんだ。アキアースはやれるならその足止めしたほうを頼む」
「了解」
オルガさんの指示のもと皆それぞれ動く。私も洗濯機の魔法で普通サイズのアムルの足止めをきちんとできた。そこへアキアースが電光石火の如く素早く間合いを詰めると、まるで剣の舞を見ているかのようにくるくると流れるように舞いながらあっという間に止めを刺して、こちらへと戻ってきた。
「ふう。やっと俺も活躍できたかな」
「いつも思ってたけど、アキアースって踊るみたいに敵を倒すよね。すごかったよ今のも」
「さしずめ剣舞のアキアースといったところでしょうか。まんまですが。ちなみにカナさんは風火のカナ、ですかね」
剣舞のアキアースに風火のかあ。でもそんな二つ名急にどうしたの、カイーナさん。不思議そうに見ると。
「おや、言ってませんでしたか。わたしはギルド員でもあるのですよ。本日の依頼で人が集まらない時に臨時で出ることになっていたんです。この様子ならわたしがいなくとも大丈夫だったでしょうが」
ええ、ギルド員だったのカイーナさん。風火のカナ。剣舞のアキアース。カイーナさんの名づけたとおり、その後私たちにこの二つ名が定着したのは言うまでもない。冒険者も魔法使いも二つ名をつけられるときはどっちでもいいみたいだね。
「おうお前らなにくっちゃべってんだ! さっさと手伝え!」
「おや、叱られてしまいましたね。さはさっそく手伝うとしましょうか」
方眉を上げてカイーナさんがそう言うと、弓をボスへと射る。私をそれに続いて切り裂きの魔法で援護した。アキアースはボスの動きや周りに注意しながら私たちを守っている。そんなことを続けていてようやく倒したのはそれから約二〇リ後だった。




