第十二話
「このグアファクが曳く旅車に乗って、まずは北シーザに行くんだ」
グアグアと鳴く、馬と牛を足したような魔物に幌ほろを曳かせたものを旅車っていうんだって。この旅車で旅を円滑にしていて、旅人はほとんどがこの旅車で旅をするんだとか。あとは食肉として家畜として飼育もされているそう。比較的大人しくて言うことも聞くしちょうどいい家畜なんだそうだ。
見た目は本当、馬と牛を足したもの。牛の頭に馬の鬣、馬の尻尾。足も馬みたいな長さだけど太くて、お腹は牛のように大きい。そういえば胃袋ってどうなのかな、牛って七つあるっていうじゃない?
「うわあ、大きい」
間近で見るグアファクはすごく大きかった。これ一頭で北シーザまでの三日間を小休止をはさみつつ行くんだって。徒歩では七日間かかるっていうんだから大助かりだ。
触ってもいいかな。手をそろっと出してみる。
「ぱくってくるから止めといたほうがいいよ」
「やっぱり?」
この大きな歯で噛まれたら指を引き千切られそう。切られなくても骨折はするよねきっと。
馬車に揺られて数時間。
「そういえばカナって一人旅のときはどうしてた。初めて会ったとき血まみれだったけど」
「ああ。えっとそれはね。大きな犬の魔物の群れに襲われて、それで退治した時に浴びちゃったんだよ。戦いも初めてだったし、あの時は夢中で」
「初めて? カナはイングス出身なの?」
「ええと、イングス近くの山小屋に一人で住んでたんだけど、どうにも住みづらくて出てきたの」
「ああ、たしかにね。この雪国じゃ、山小屋で一人暮らしはきついね。じゃあ両親はもう?」
「う、うん。亡くなった。その、小さい時に。おばあちゃんと住んでたんだけど、おばあちゃんも亡くなって」
ああもう、あんまり聞かないでよもう。私嘘つき慣れてないんだから絶対ぼろでるよこれ。忘れないように言ったこと覚えておかなくちゃ。ここは聞き返しとこう。
「アキアースは? どうして旅にでたの?」
「俺? 俺はね、剣王になりたかったから。あ、剣王ってのは剣に秀でた者の称号でさ。俺は剣で名を上げたかったからそのために修練も兼ねて旅をすることにしたんだ。ちなみに俺も両親、祖父母共にいないよ」
「そうだったんだ」
「いや、別に暗い顔しなくてもいいよ。カナも同じでしょ」
「うん、そうだね」
ごめん、アキアース。本当は私の両親とおばあちゃんは生きてるし、亡くなったのはおじいちゃんだけなの。でも、このまま帰れなかったらいないのと同じだけど……。
このままこの話題で話してると暗くなるばかりだなあ。話題、変えよう。
「ねえ、そういえばアキアース」
「なに」
「テントのことなんだけどね、この魔法具のテントって不便だよね。テント自体にしか結界がないし。私、そのせいで犬の魔物に囲まれちゃったんだけど、そういう時ってどうすればいいの?」
「犬の魔物か。さっきもそう言ってたけどそれはガルムだね。その辺によくいる魔物だけど」
「そ、そうガルム! あいつらって群れるでしょう。私は魔法使いだから後衛が基本じゃない。一人で旅始めた時はそんなこと考えもしてなくて」
あの犬の魔物ってガルムっていうんだ。覚えとこ。
「魔法具のテントか。たしかに地面におけばそうだけど、あれは元々、魔物が届かない位の木の上や空中で使う物だから。テントの入り口に布梯子があるだろ。それを垂らして登るんだけど、知らなかったの? あと、一人で旅するときで魔法具のテントがない場合は、木を背にして火を焚くんだ。そして俺で場合だけど、剣をいつでも抜けるようにして眠るんだ。といってもうつらうつらだけどね。熟睡はしないよ」
「ええ! そうだったんだ……知らなかった」
嘘! そんな話聞いてなかったよ。あ、でもそうか。私は魔法使いなんだった。それじゃ道具屋の人も知ってると思うに決まってるよね。いちいち使い方の説明なんてしないか。しかも私は流れの魔法使いって言ってるんだし。旅慣れてると思われるに決まってる。ああもう。失敗した。
それにそうか。一人旅のときはそうするんだ。これも知らなかった。
アキアースには本当に教えられることがいっぱいだ。私のこと魔物から守ってくれるし、道案内してくれるし、色々使い方や魔物のこと教えてくれるし。足を向けて眠れないよ。もう少し優しく接しよう。
それと私も第一章の魔法、使いこなせるようになって少しでも足を引っ張らないようにしなくちゃ。
三日間の行程で、更に色々聞きつつ、時折現れた魔物も難なく撃退してようやく北シーザに到着した。乗りあった旅人に挨拶をして私達も港街の玄関であるアーチをくぐる。もう雪もまばらだった。
北シーザは港街だけど、クルスニク大陸を流れる大河の一つ、シーザー河の港街だからとくに潮の匂いはしなかった。
王都サリダースの南東にあって、そこから更に河を下って南東に行くと南シーザで、名前は同じだけどそこはもう別の国ポールアーム。
ポールアームはクルスニクの槍の柄の部分に形が似ているからその名前がついたんだって。私にはそのクルスニクの槍がどんな槍かはわからないけど。
「まずはとにもかくにも宿屋だよね」
「ああ。旅車で早く着いたのはいいけど、ずっと座っていたから尻が痛いしね、ベッドでまずは体を休めたい」
「本当。クッションが敷いてあったし舗装もしてあったから、そんなにガタガタしないし乗ってるときは慣れちゃったけど、一度こうして降りるともうだめだね。私もゆっくり休みたい」
着いたその足で私達はひとまず宿屋で一休み。数時間後、こんこんと扉を叩く音で目が覚めた。
「カナ、起きてる? そろそろ買出しに行こうかと思うんだけど。疲れてるなら俺一人で行くけどどうする」
「待って、行く」
新しい街だしできれば観光もしたい。イングス、ラルスムでは状況が状況で観光なんてしなかったし、王都でだって記録閲覧室でのショックが大きくてほとんど見て回れなかった。せっかく異世界にきたんだし、色々見て回りたいよ。真新しい物で一杯だろうしさ。
最初に道具屋で保存食や消耗品の買い足しをして一度宿屋に戻ってからは、さっそく繁華街へ私達は向かう。その頃にはちょうど小腹も空いていたし、美味しい物食べたいとアキアースに提案すると、彼も腹が減ったと笑いながら承諾してくれた。
タグリスルの串焼きやグアファクのステーキ。串焼きは照り焼きで、タレが焼かれたお肉に滲みこんでて、匂いを嗅ぐだけで涎がでてきちゃう。それがミディアムだからさらにやわらかくて美味しくて。ここにご飯があったら私でも軽く三杯はいけちゃうんじゃないかってくらいだった。
グアファクのステーキはミディアムレアで、更にやわらかくて、それを塩と胡椒をふっただけで食べるともう、ほっぺが落ちそうなくらい美味しかった。肉汁もすごくて、これもご飯にかけたら美味しいんだろうなあ。ああ、ご飯が食べたい。
そう。実はまだご飯に出会ってないんだよね。サリダースは主食がパンらしくて宿屋の定番メニューはパンとシチュー。そろそろご飯が恋しいけど、この世界にもきっとあるよね?
「ねえアキアース。このせか、じゃなくて、この国にはお米はないの? 白くて小さい粒粒で、炊くときらきら光って、ほのかに甘くて美味しいお米!」
「なんだかすごく思い入れのある発言だね……でも残念。俺の出身地のキルトケンは主食が米だけど、次のポールアームもサリダースと同じで主食はパンだよ」
「そ、そうなんだ……がっかり」
「まあ、あるにはあるけど、すごく高いよ? キルトケンでしか作られてないからね」
「……ますますがっかり」
ああ、お米が恋しい。南に移動じゃなくて山脈越えればよかった。てのは無理か。私、健脚に自信全くないし。
「クルスニク大陸は一巡りするから、最終的にはキルトケンに行くよ。それまで我慢我慢。まずは明日、港から舟で南シーザに渡って入国しなくちゃね」
「うん。なんとか我慢してみる。やれればだけど。発狂したらごめんね?」
「……そこまで食べたいんだ」
うん、食べたい。




