第十三話
舟の上から見下ろす河は、太陽の光きらきらと輝いている。それが反射してアキアースの顔に当たっているのをみると、まるで彼自身が輝いているかのようだった。いつもの五割り増しに見える。
「あは、アキアースがすごく輝いて見えておかしいって」
「それはカナだって同じじゃないか。でもすごく輝いてて可愛いよ」
えっと、それはそのありがとう。五割り増しの魔法がかけられてるんだね、アキアースにも。にしても、そのイケメンでそう言われたら、他の女子だったらまず内心じゃ半分以上は落ちるだろうね。これだからイケメンは紛らわしくっていやだいやだ。その辺、私は勘違いはしないから大丈夫。
「アキアースもイケメンだからさらに格好良くみえるよ」
「え、あ、ありがとうカナ。なんだか照れるね」
何故照れるし。そっちに照れられたらこっちまで変な感じするじゃない。うわあ、私なに言っちゃってんだろう。恥ずかしい。
「でも、カナの笑ったとこと初めて見たからすごく嬉しいよ。いつも笑ってくれてたらいいのに」
「いや、いつも笑ってるなんてただの変人じゃない」
なんでこんなおかしなやり取りをしているのかって、それはほら。さっきも言ったけど五割り増しの魔法がかけられてるからなんだよ。旅の醍醐味のうちの一つ、河下り。しかも天気は晴天で風も気持ちいときたらさ。魔法に誰だってかかっちゃうでしょ。うきうきするもん。
他のお客さんだって、私達のようなやりとりしてる人いるし。まああれは恋人同士みたいだけど。
それから三時間下り通しでやっと南シーザに到着。こっちではもう雪は見なくなっていた。
船を下りると皆並んで旅券を見せている。私達の場合はこれ。それぞれのギルドの証。このギルド証は旅券にもなるみたい。まあ証は身分証だからね。市民登録証とかと同じ扱いなんだって。
「ここでは特にすることはないけど、どうする、観光でもする?」
「うーん。それは北シーザでしたしなあ、それより私は早く次の記録閲覧室に行きたいかな。手がかり早く見つけたいし」
「そう? ならまだ日も高いし、旅車の発着場に行こうか」
王都ポールアームまでは徒歩で一ヵ月半。すごいかかるから今回も旅車で行くことにした。こっちだと二〇日間でいけるんだそうだ。
でも今回の旅車は、電車のボックス席が3つ並んだ状態で、それぞれ壁で区切られていた。戸を開けるとそこには先客がいて。
「お邪魔します。ここいいですか」
「ええ、どうぞ。可愛らしいカップルですねえ」
「違います。そんなじゃないので」
「即否定されるこっちは若干きついかな」
だって、変な勘違いされたら嫌じゃん、お互いに。こういうのもマナーなんだよマナー。
相席をお願いした相手は神父さんだった。こっちでもあの大々的な宗教とほど同じ宗教があって、違うとは聖母じゃなくて聖父。そして男性の聖人じゃなくて女性の聖女なんだそうだ。でも聞いた私としては、へーそーふーん、だけど。だって多くの日本人らしく無神論者だし。
全ては科学で証明される時代に生きてきた私にはやっぱり信じられないんだよね。でも、ここでそんな議論するつもりは全くないから適当に相槌をうっておくのがベスト。
「――ということなのです。ですから神は今も私達を見守って下さっているのですよ」
「そうですね。感謝しなくてはいけませんよね」
「ええ。そうです。神に感謝を」
「神に感謝を。では、次に――」
でも、正直疲れた。だってこの神父さん、歩く聖書かってくらい聖書の内容をつらつら話すんだもん。全部違う話だけどもう神に対する敬愛は耳たこになるくらい聞いたからもういいよ。優しそうなお兄さんだけど、これはちょっとお断りしたい。
旅車に揺られて六時間目でようやく最初の休憩止。
「くす。カナ、お疲れ様」
「お疲れ様、じゃないよもう。一人だけ寝てるなんてずるい。私、もう耳たこだよ。席変わりたい」
「そうだね。子守唄にしては抑揚がなさ過ぎて、悪夢をみたからね俺」
「そんな理由!?」
でもわかるなー。学校の先生、特に数学や歴史の授業なんて睡眠学習だったし。数学なんて意味不明だし、歴史なんて特に日本史の名前とか、長過ぎて覚えられなかったよ。
小休止でご飯を食べた後、神父さんの席は止めて旅人のおじさんに別の席を譲ってもらった。今度は商人のおばさんと相席だった。
これでもう大丈夫だね。よかった。だけど、次の休憩の時はそのおじさんはやつれた顔をしていてちょっと罪悪感。ごめんなさい、おじさん。でも私また変わるのは嫌だから、おじさんの恨めしそうな目はスルーした。おじさんに合掌。
「お二人はポールアームで仕事を探すのかい?」
「いえ、観光ですよ。俺たちサリダース出身なんですけど、彼女がどうしても観光したいっていうんで、休暇をとって行くことにしたんです」
「そうなのかい。わたしは南シーザで商売をしていてね。ポールアームの山の麓に生息している薬草を仕入れに来たんだよ。傷に良く効く薬草だから売れるんだ。使用人に頼むことはできないからね。物はやっぱりしっかりこの目でみないと」
「ああ、シグサ草ですか。あの薬草はたしかに良く効きますね、特に切り傷なんかに」
「そうなんだよ。お兄さんよく知っているねえ」
「ええ、まあ。俺の趣味は旅なんで、剣を握ることもありますから」
「ああ、それで剣を。旅車の旅じゃきちんと護衛がいるからね。なぜ若いお兄さんがと思っていたんだよ。普通はお兄さんくらいの年の頃じゃあ剣は握らないからねえ」
「ええ。それでよく彼女に叱られます。旅ばかりしてなにかあったらどうするんだって。ね、カナ」
「う、うん。いなくなられると困るし」
「はっは。お兄さんの彼女はなかなかしっかりした子だ」
なんで私が彼女? つい睨んでしまうと、商人のおばさんは私の発言のせいで睨んだと思ったみたい。違うのに。
でも、アキアースはしっと、目で訴えてきて結局私は関係の違いを正すことはできないままだっだ。
そうして私達は残りの十九日と半分を過ごした。
「わあ、ここがポールアーム。大きい」
「やっと着いたね。じゃあまずは宿屋だ。行こうか」
アキアースがすたすたと進んでしまうけど、ちょっと待った。
「ねえ、なんであのおばさんに嘘ついたの? 私、彼女じゃないのに」
「そりゃ当たり前さ。俺らの年頃で旅人なんてそうそういないからね。兄弟っていうには似てないし、なら恋人のほうがいいだろ。普通は旅の目的なんか話さないんだよ。なにがあるかわからないしね。それに旅の途中で会った人とはほぼ二度と出会わない。なにを言っても平気さ」
「うーん、そういうものなんだ。つまり、旅先では信用はしないってことなんだ」
「パーティ以外はね。基本は皆そうだよ」
「ふーん、なんか冷たいね」
「でもそれが自分の身を守ることになるからね。世の中いい人ばかりじゃないってことだよ。旅をしていれば尚更」
なんだかなあ。私は人は信用できなくなったら終わりってタイプだから、アキアースやこの世界の人達のその考え方は嫌だなあ。騙す騙されるどっちっていったら、騙されるほうが私はいいや。ちょっと心が寂しくなっちゃうし、そういうの。
でもこういうのは私が考えても仕方ないことなんだよね。そういう世界観なら私も表向きはそうしてないと。郷に入っては郷に従え、従わないで異端視扱いされても困るし。アキアースの言うとおり、それでなにかあったら大変だもんね。




